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修行編

第18話 国の実態と時代遅れ

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    ーーギルド出入口ーー

「あっ、やっぱりツバサさんでしたか!」

ギルドを出るとビースタニカの2人がドアの近くから近づいて来た。あれ?噴水の近くで待ってたんじゃなかったっけ?何かスキルでも有るのかな?

「ああ、お待たせ。それにしても何で俺達が来た事に気が付いたんだ?」

「ビースタニカは耳が良いんです、特に虎猫こびょう族は。それで、歩く時の音が似ていたのでもしかしたらツバサさんなのではないかなぁと」

凄まじい聴力だな…こびょう族か。虎なのか猫なのかはたまた良いとこ取なのかな?そうじゃなきゃあの聴力は可笑しい筈だし…

「…あ、あの、失礼ですがそちらのお2人は?」

そう言えばアモリスとディノーサを紹介してなかったな。ここは信頼も築きたいから好印象を残したい所だ。

「私はアモリス。このパーティーで闘いなら1番強いよ。だから何か困った事があったら遠慮なく言って」

お、丁度良い感じの挨拶だな。こう言う挨拶ってしつこく無いから好印象になりやすいよな。俺のはキザ過ぎた…

「あたしはディノーサ!これからよろしくね!」

うん、短くてハキハキと言えているのは良いだろうな。2人とも良い感じの挨拶だった。俺のが本当に悔やまれる…

「アモリスさんにディノーサさんですね。よろしくお願いします」

『あぁ、本当なら儂も居るんじゃがのぅ』

そんな事言ったってしょうがないじゃないか。今ここでネカガ神が実体化したら悪目立ちする。残念だけど、諦めてもらうしか無い。

「あ、こちらの自己紹介がまだでしたね。ムートです。こちらがー」

「アルト、よろしく…」

女の子が自己紹介をすると小さい子どもも名前を教えてくれた。うーん、女の子なのか男の子なのか分からないな。いや、何となくだけど男の子かな?まあ、知らんけど。それより、早く話しを聞きいて今後の方向性を決めたいな。それなら先ずは

「それじゃあ、ここだと話し辛いだろうし場所を変えようか?」

店とかは全然知らないがテキトーに見て回ればカフェの1つは有るだろ、街なんだし。

「それなら家に来ますか?」

家か、その発想は無かった。会ったばかりの人を家に上げるとは中々に勇気が要ると思うんだけどな。2人がそれで良いなら気にする事は無いか。

「ムートとアルトがそれで良いなら別に良いけど」

「私も2人が良いならそれがベストだと思う」

「あたしも同感かな~」

『儂は家にお邪魔するのであれば実体化が出来そうじゃの』

俺達3人は“2人がそれを望むなら”と言った感じだ。ネカガ神はお邪魔する気満々だけど…まあ、後はアルト次第って訳になるな。閉鎖的な物腰だから果たして許してくれるのかどうか。

「アルトはどう思うかな?」

ムートがアルトに話しかけると

「…別に、いいよ…」

これは少しだけ心を開いてくれたって事で良いのかな?ともあれ、これで2人の家に行く事が決まったんだ。どんな家なんだろうな?気になるけどそれは置いておこう。

「えぇと、アルトも問題無いみたいなので家に案内しますね」

“付いて来て下さい”とムートが背を向けて案内を始めた。

「ああ、ありがとう」



  ーームート&アルトの家前ーー


「これは…」

そう発したのは俺だ。いや、異世界この世界だし、ある程度のは驚かない自信が有ったけどさ…

「家が半壊してるよ…雨の日はどうしてるの?」

アモリスが疑問に思った事はごもっともだろうな。この国は本当に大丈夫なのか?こういった家がかなり並んでいるって事はこの辺りはスラム街的な感じなのか?何か解決策を国が講じていて尚もこの状況ならそれはこれからの課題とすれば良いだろうが…多分、いや、これは絶対に何もしてないだろ…他の場所は普通の家が並んでいたがここだけは急にボロボロになっている。明らかに手抜きって感じがする。全くもってずさんな政治だ。ここだけ見ただけでそれが分かるよ。

「あまり雨は降りませんが、降った時は水浸しで大変ですね。何とか雨が浸らない所に座ったり寝たりしています」

これは、国改革の第1歩として先ずは家の修繕から始めようか…

「取り敢えず、半分は壊れていますが中へどうぞ」

「それではお邪魔します」

促されてドアノブを回し引く。中に入るとー

「あー、これは何て言うべきか」

「そうだね~、外よりは…って感じじゃない?」

「これは生活には困らないそう」

うん、ディノーサとアモリスが言った事は言い得て妙だけどさ。うん、そりゃ意外だよ、半壊してるのに

「キッチンとテーブルが有るし、寝るスペースも有るから…風通しが良過ぎるのが問題かな」

そう、意外な事に生活に必要な物は満たしてるんだ。半壊さえしてなければ極々普通の家といったとこかな。

「掃除はしていますから…買い換えればましになります。でも、生活費で一杯一杯なんです…」

「…さっきの人とかが取ってくから…」

口数の少ないアルトが自ら言う程なんだ、1度や2度じゃ無いのだろうな。絶対に許せないぜ…

『うむ、これは…儂の責任でもあるのじゃ。全くもって何故こんな国になってしまったのじゃ…』

声だけしか無いけど、その落ち込み具合が手に取るように分かる程にその声は聞いてて悲痛だった。それもそうだろう、世界を争いが無い様にする筈だったんだからな。

「すまぬ、儂は実体化するぞ」

あっ、まぁここは家だし他に目撃者は居ないだろうから平気か。

「えっ!だ、誰ですか!?」

「……」

ムートは何の前触れも無く現れたネカガ神にとても驚いていた。アルトはムートの服の袖を掴んで背中に隠れている。あー、いきなり出て来るから…それより、早く紹介して仲間だと説明しないと。

「2人とも驚かせてしまってすまぬ。安心せい、儂は翼の仲間じゃ。おっと、名乗らなければならぬな。儂の名はネカガ。最古の原初神にしてこの世界の創造主じゃ」

「か、神様ですか?」

「…うさんくさい」

うん、いきなりでそう名乗られても信じられないのが普通だよな。俺が信じてるのはアモリスとかデラさんとかそう言った神々に会ってるからだし。

「うむ、別に信じる必要は無いのじゃ。信じられぬのも致し方ない状況である事は承知済みじゃ」

「えっと、信じられないですけど仲間なんですね?」

「そうじゃ。とは言え実体化している儂は話す事位しか出来ぬがの…」

「…使えない…」

うわ、アルト辛辣だな…流石にネカガ神が不憫になって来たよ。涙目になって必死に堪えてるんだよ…

「そうやって言っちゃダメだよ」

ムートが注意するとアルトはしょんぼりして“ごめんなさい”と謝っていた。叱られた後の犬みたいな…いや、ここは猫か。みたいになってるアルトだけど

「いや、それは事実じゃ。案ずるでない。儂がいたたまれぬが故に引き起こした事も解決出来ぬとは…全くもって情け無いとしか言いようが無いのじゃ」

当のネカガ神は悔しそうな、そして自分を責めている様子で俯いている。それは別にネカガ神のせいじゃ無いと思うけど。本人は責任を感じているし、出来る限りは尽くしたいんだろうな。

「少しだけ…」

「何じゃ?」

アルトが何かを感じ取ったらしく小声でネカガ神にこう言った。

「少しだけ、信じてもいいよ」

その一言を聴くとハッとした様に頭をアルトに向ける。
 それから、ネカガ神の心は救われたのか緊張の糸が切れたのかは分からないがヘニャっと床に座ってしまった。

「そ、そうか、それは良かったのじゃ!」

明らかに照れ隠しにの大声でクチャっと笑って言った。

「驚きました!アルトが信じるなら信頼できます!」

おっと、まさかのムートが打って変わったぞ。アルトは第六感的なものが強いのかもな。
 猫だけに。

「おお…儂は感無量じゃぁ…」

色々気負っていた物が沢山有っただろうからこの状態になるんだろうな。
 少しほとぼりが冷めるまで待つか。


      ーー5分後ーー


「すまぬ、見苦し所を見せた…」

果たして、神がこんなにも繊細でセンチメンタルだとは誰が思うだろうか。
 これを世界中の過激派どもに見せてやりたい位だ。いや、全ての人に見せてやりたいな。そうすればきっと世界の進むべき方向がハッキリとするだろう。
 まぁ、さっきのを見せる方法も無いし、出来ないんだけどな。
 さあ、気を取り直して行こうか。

「えっと、それでは、獣人族ビースタニカ魔族マジカルについて話させていただきますね」

ムートが説明してくれるようだ。心して耳を傾けよう。

「宜しく頼む」

「よろしく!」

「宜しく頼むわ」

3人とも真剣な眼差しでムートを見つめた。残りはネカガ神だけ返事をしていないな。ネカガ神の方を見てみると

「ふー、宜しく頼むのじゃ!」

一息ついてから迷い無く言っていた。
 これで4人全員が聴く体制に入った。ギルドの情報と比べてみるのが良さそうだよな。

「まず、この国においてビースタニカは危険な存在だと認識されています。その背景はビースタニカの人はヒューマンやエルフに比べて筋力がかなり高い水準となっている事にあります。反旗を翻されれば壊滅的ダメージを受ける事になります。
 それを防ぐ。これがビースタニカが人権を奪われている要因です。
 マジカルに至ってはですが、今まさににメガーユ大陸と激戦を繰り広げているサガーユ大陸の種族に当たるため、人権を奪われています。
 国の住民としては認められているのですが…何せ人権が無いので生活が大変ですね」

カツアゲ野郎が居るから生活費がカツカツになってるせいも有るんだろうな。

「後は投票権が無いので国王選に投票出来ないのも痛手です。
 国王に立候補してもビースタニカやマジカルだからという理由で活動をさせてもらえないなどが差別の状況です」

酷い話だな、こんなんで良く国が保たれてるよ…地球ならきっとストライキがー、否、内乱が起きてるだろうな。

「酷いね…あたしならとっくに大暴ると思うよ」

「私もこれは愛の女神として見過ごせない」

「儂は責任を取らねばならぬ…協力させてもらうのじゃ」

「俺もこれを何とかしたいと思ってる」

4人が言い終えるとムートは

「えっと、実の所、ここ数年のこの国の発展率は下がってるんです」

そう自慢げに言った。何でそんなドヤ顔?

「他の国では差別はほぼ無いに等しいんです。
 そう、差別を続けるこの国だけは時代遅れになっているのです!」

おぉ…めっちゃそこをプッシュしてくるな。当然か、重要なポイントだからな。

「今はまだ兵力で押せていますが時期に他国に抜かされダメになるのが目に見えています。
 特に、同盟国であるエーナスフィリオスは兵器などの開発が進んでいるので流石にこの国も危機感を覚えているらしいですが…一向に差別が無くなる気配はありません」

成る程、他国は差別を止めて国益を上げる事にしているのか。その方が平等だから嫌な思いをする人は少なくなるだろうし、おまけに才能の有る人がより多く発見出来るから良い事尽くめだな。
 時代遅れのこの国は逸材が発掘されないが故に発展が滞ってるのか。もったいないし生産性が低くなるのは目に見えているのに…

「うむ、愚かなる国じゃ」

国王…愚王とでも呼んでおくか。
 愚王が政策を改善しない限りはこの状態が続く訳か…利益も生めず、差別も続けるとは、正に愚王だな。

「その愚王を何とかしたいな」

「愚王って…プクク」

アモリス、妙なポイントでツボらないでくれよ。流れ的にボケじゃ無いんだからさ。

「ごめんなさい、その表現が余りにもピッタリすぎて…プクク」

まだ笑ってるよ。アモリスの笑い上戸が発動てしまったか…
 ここは咳払いの1つでもして仕切り直すか。

「ゴホンッ、兎も角だ。現国王を説得して差別を無くす様にしないとな」

当面の目標はこれになるのかな?頑張ってみるか、英雄だし。

「ねえ、それならもういっその事あたし達が国王になったら早くない?」

ディノーサがとんでも発言をしたぜ!確かに、俺達が国王に成れば解決は出来るだろう。けどな、それはこの国で信頼を勝ち取らないといけない。
 それ=数年単位の滞在をしなければならないって事だな。
 そんなの待ってられる訳が無い!

「えっと、ディノーサさんの案はできなくは無いですよ」

「え、そうなの?」

て言うか、俺って顔に感情出過ぎか?心読める能力じゃ無いと思うし…これからは小洒落た鉄仮面でも付けようかな?

「はい、選挙が5ヶ月後にあるのでそれまでに活躍して頂ければ可能かもしれません」

いやー、マジか。5ヶ月ね…それ位は在国してるかな?別に在国してなくても良いか、遠征とかも有るだろうしな。

「儂は翼に押しつける様な真似はしたく無い。そこで、誰かを推薦すれば良いのではないかと考えたのじゃが」

「あー、なるほど。それなら長期滞在はしなくて済みそうか。でも…」

これは俺達の意思を代わりに実行してくれる者に託すって事だ。
 人選ミスは許されない。確実に差別を無くす活動を行える者でなければいけない。
 それは厳しいかもな…

「つばさは乗り気じゃないみたいだけども、それならやっぱり現国王を説得するしかないよ」

「ゔぅ、て言うか俺は初めからそれをしようと思ってたんだけどな」

薄氷の上に乗る様な賭けより堅実な方が良いだろ?

「うむ、それでは儂はお主らの判断に扇ぐぞ」

「私は先ずは国王に交渉すべきと思う」

「う~ん、あたしは王様になってみたかったな~。でも、旅にも行かなきゃ駄目じゃん…ここは引き際かなぁ」

そう、ディノーサについては両親探しの旅もするからここだけに長居出来ないんだ。これが妥協点になるだろうな。

「えっと、ありがとうございます!そこまで気にかけて頂いて」

「…ありがとう」

ムートもアルトまでもそう言った。でも、まだまだだ。勝負はこれからなんだ。ガンガン活躍して政治に影響を与えまくってやるぜ!

「よし!目標も決まったし、明日から依頼をバンバンこなしてやる!」

「その勢い、つばさ!」

「あたしもついて行ける位のにしてよね」

2人とも元気良く賛成してくれた。
 それにしても、あのロボットより強いのは早々は出てこないだろしディノーサが心配する事は無いと思うけどな。あ、これフラグかな?

「すまぬがムートとアルトよ。明日の午前8時にスラムここの住人を集めては貰えぬか?」

「は、はい、分かりました。明日は休日ですし、可能な限り集めてみます」

おっと、そこだけで話を進めてるぞ。まあ、普段から起きてる時間だから苦にはならないけどさ。

「何をするつもりなんだ?」

正直気になった。一体何をする為に集めるのか見当がつかない。

「なーに、儂は妙案が浮かんで来ただけじゃ」

頭の中が???となっている。勿体ぶらないで教えてもらいたいんだけどな。

「そうじゃの…明日集まった者は家を修復すると伝えるのじゃ。ついでに言うと結界で外観は今のままでじゃ」

ん?何かとんでもない事を言い出したぞ。それをやるのは結局は俺だよな?
 勿論、人助けが出来るのは嬉しいんだが、勝手に話を進められるのは本意的じゃ無いな。
 今回は俺もそれをしたかったから別に良いとして、次は気を付けて欲しいものだな。

「えっと、しっかりと伝えておきますね」

「さて、明日はせめてもの償いをさせてもらうのじゃ」

だから、最終的にするのは俺だって。まぁ、力を借りてる身だし、そりゃネカガ神がしてるのと変わりは無いけどな。

「それでは、私たちはそろそろ戻りましょ」

アモリスがそう言った。
 半壊した家に差し込んでいた日差しは既に無い。何で周りが見えるかと言うと、この世界の月は地球のものよりもどうやら明るいみたいだ。街灯要らずで無駄なエネルギーを使わずに済みそうで良いな。

「そうだね~。意外と良い時間になっちゃったみたいだしね」 

「そうだな、陽が落ちたしもう帰らなきゃな」

「…またね」

アルトが素っ気なく言った。
 ムートの後ろに隠れてないから少しずつ心を開いてくれてると思う。何とか普通に話せる位にはなりたいよ。その為に明日は頑張るか!

「また明日ですね」

ムートも挨拶を済ませたから今度は俺かな?

「じゃあな、また明日」

「また明日なのじゃ!」

「じゃあね~」

「私はこれで、さよなら」



    ーーベースキャンプーー


全員が挨拶を終えると転移魔法で一瞬でベースキャンプに戻った。勿論、使ったのはアモリスだ。俺も早く習得したいな!

「うむ…儂だけ服装が異なるのは好ましくないのじゃ。変えるかの」

いきなり何を言うかと思えば…って考えてる間に俺達と同じ服になってるよ…俺達は細部は異なるから雰囲気が大分違う筈だけど、ネカガ神は1番シンプルだ。だけど、これは…

「う~む、少し大きくし過ぎたようじゃ…まあ、萌え袖って事にしておいて欲しいのじゃ」

萌え袖って今更流行ってるのか?してるといじられる位じゃなかったっけ。いや、知らんけど。

「流石に原初神で萌え袖はない…」

アモリスの辛口評価、これはかなりコタエテルみたいだ。うん、14歳の女神に1番の年長神が言われるのはメンタルに来そうだな…

「や、やかましいのじゃ…儂も望んでこのサイズにしてはおらぬ…翼に力を貸しておるから微調整がまともに出来んのじゃ」

えっ、何か申し訳ないな。それでも、現状ならしょうがないか。うーん、でもー

「すまぬ、翼よ。別にお主を責めているのではないのじゃ。気にするでない」

「そ、そうか…それなら良いんだけどさ」

何だろう、俺は特に話しても無いのに読まれてる感。アモリス方式でテレパシーの受信だけしてるのかな?
 それより更に有力な説が有る。それはー

「やっぱり俺って顔に出てる?」

薄々気が付いてたけど俺は顔にめっちゃ出るタイプなのでは?

「私はそうは思わないよ。ただ、心を読みやすいとは思うのだけれど」

「えっ?普通もう少し心読み難いの?」

「儂はお主が珍しい位に読みやすいとは思わぬぞ。じゃがの」

ウゥグッ!これはクリティカルヒットじゃないか、俺の心に。でもさ、神の力使えるようになったの最近なんだから大目に見てくれよ。

「大目には見ない、プライバシーが欲しいなら早くそこら辺を学ばないと」

「プ、プライバシーは守られるべきなのに…appleのCMを見てないのか!?」

頼む、この力説に免じてもう覗かないで…

「分かった。必要な時意外はもう使わないよ」

おい、今まで必要外でも使ってたんかい。それは、俺が信用されてないって事?

「大丈夫、つばさの事は信用してる」

「もう使ってるな」

早い、言ってから使うまでが早い。ものの数秒で使いやがったぞ。こっちが信用出来なくなりそうだな。

「またあたしが蚊帳の外になってる~」

ディノーサ、久しぶりの発言だけど覇気が無い。聴いてて混乱してるみたいだな。

「ごめんなさい、のけ者にするつもりではないのだけれどね」

「それなら良かった~」

ディノーサは心配症なんだろうな。置いて行かれるのを恐れてる、そんな感じがするな。
 それとも歳相応の誰かとやたら喋りたい奴なのか。話しの感触だと前者だと思うけど。

「悪かったよ、ディノーサ」

俺も気配りが出来なかったのは良くなかったと思うし謝った。だが、これだけは言わせてもらおう。

「アモリス、もう1回釘刺しておきたいんだけど、プライバシーは大切!」

「分かった。これからはなるべく心を読まないようにする」

それで俺は漸く安心出来るよ。必要時以外は本当にそうしてもらえないと困るんだよな。
 本音ダダ漏れは不味い。恥ずい。

「しかし、お主ら、もう7時じゃ。そろそろ夕飯時じゃろ?」

そうだった。夕飯か、どうしようか?献立は基本俺が決めてるから早く決めないとな。

「あっ、本当だ!ツバサ、今日は何作るの?」

「そうだなー、たまにはステーキはどうだ?」

質問に質問で答えるのは良く無いけどこの場合は目を瞑ってくれ。

「つばさ、部位は何処?」

アモリスは脂が多いと胃もたれするんだよな。それならあの部位が良いかな。

「ランプ肉にしようと思う」

「良いね。脂が少なくて胃に優しいもの」

「ラ、ランプ肉?」

どつやらディノーサはピンと来てないみたいだ。この世界は地球みたいに希少部位に別けられて無いのかもしれないな。

「牛のお尻の肉の事だよ」

「へ~、そんな呼び名があるんだね。でも、お尻のお肉かぁ…考えると残酷だよね…」

「だから創造魔法で造ってるんだけどな」

そう、牛を殺さずに造れば良いんだ。そうすれば残酷でも何でも無い。だってツクリモノなんだから。

「それにしても、久しく食事のシーン等無かったようじゃが…復活させたのはまた作者が手を抜き始めたかの」

作者を代弁すると“そんな事は無いぞ!食事シーン入れたかったのに出来無かっただけだよ”だそうだ。

「まあ、兎も角、今から作るからな」

「やったー!楽しみにしてるね」

ディノーサは嬉しそうにはしゃいでる。一方アモリスはそのディノーサを見て微笑みながら読書を始めた。あれ?アモリスが本読む姿見たの初めてじゃね?まっ、別に良いか。

「さて、先ずは創造魔法でお肉を造ってっと…」

何gにするか聞いてなかったな…

「2人とも、肉の量はどうするんだ?」

「私は207gが良いかな」

細かいな…ムズイけど善処しよう。

「あたしは812gでお願い!」

2人とも細かい…そこまでぴったりに出来るかな?こうなったなら俺も873gにしてやる!
 これも訓練だと思えば良いのかな。
 ポジティブスィンキング最高だな。

「了解!それじゃあ、ディノーサのは4枚にカットしておくぞ」

そうすれば大体同じ時間に焼けるし。

「うん、それで良いよ~」

よし、じゃあ、創造魔法で店に有る様な大きい鉄板を出す。店のは蓋が閉じれないけど、これは創造魔法だから蓋が閉じれる様にしてるんだ。

「次に肉…うーん、これは難しいな…」

中々g数が上手くいかないじゃないか。あー、これならー
 あれ?何時もは見た目をイメージして造ってるからg何て考えて無かったな。今もその見た目をイメージする感覚でやれば良いじゃないか。

「おっ、上手くいったな。207g、812g、873gっと」

俺とディノーサの分は4等分にカットしてからブラックペッパーを振る。後は鉄板にごま油を薄く引いてから弱火で蓋もする。要するに蒸し焼き的な感じにする訳だ。時間は掛かるけど筋が変に残りにくく、焦げにくい。割と良くないか?誰に向かった言ったんだろ…
 まあ、良いや。それよりもステーキ作ってる間に汁物とサラダを作るか。

「汁物はわかめと豆腐の味噌汁で良いかな」

小鍋を取り出し、お湯をその中に入れる。具材投下!少ししてから味噌を投入!まぜまぜ、完成!
マジで創造魔法って便利!地球で有ったらどれだけ良い事か。言ってもしょうがないな。
 次、サラダ行こう!

「パーフェクトトマトだけ、は流石に寂しいな。
レタスを大皿に敷いて、その上にキャベツの千切りとオニオンスライスを混ぜて乗っける。それから、ビーツを輪切りにして更に乗せる。ブロッコリースプラウトはちょっとだけで良いかな。最後にパーフェクトトマトを3つトッピングすれば完成!」

最後は白米!創造魔法で出して終わりだな。

「はい、これで終了。ステーキは…まだまだか」

暫く待つしか無いし、暇だなー。



     ーー20分後ーー

「よーし、ステーキ出来たぞ!」

皿にステーキを乗せて2人に配り、フォークとナイフを準備する。あ、箸も渡してっと。
 
「さあ、後はお好みでソースをかけて食べてくれ」

「美味しそ~!」

「つばさ、良い出来栄え」

「儂も食べれるなら食べたかったのじゃ…」

「お褒めのお言葉を有難う!じゃあ、食べるか」

ネカガ神が食べれないのはしょうがないとして、自分でも今回の出来は割りかし良さげだなっ。ちょっと嬉しいぜ。

「「「頂きます!!」」」

3人が揃える。
 そして次の瞬間にはディノーサがとても早いペースで食べ出した。サラダを取り分けて直ぐに平らげ、味噌汁は少し早い位のペースで無くなった。もう残す所ステーキと白米だけだ。相変わらず早いな…ナイフとフォークでステーキを切り分けてソース無しで食べ始めた。成る程、ステーキにはソースをかけない派か。

「ん~!美味しい!!厚さの割に柔らかいしね」

「それは良かった。弱火でじっくり焼いた甲斐が有ったな」

「私も脂っこくなくてこれなら食べ切れそう」

アモリスはアボカドソースかな?あれも美味しいだろうな。
 それにしても、2人に高評価でなりよりだ。料理はウケが悪かったらどうしようとヒヤヒヤするんだよな。地球だとテキトーに野菜刻んで肉と一緒に蒸し焼きしかして来なかった人間だったからなー。作り方を知ってても実際はどうなるかは知らんからさ。
 結局の所、“上手く行ってればそれで良し!”だな。

「美味な香りじゃ…翼に宿っていると味や香りが連動して伝わって来る…これまでまで食事は興味無かったのじゃが、不覚にも興味が湧いて来てしまうの…」

「更に追い打ちを掛ける様で悪いけど、2人とも、溶かしたナチュラルチーズ要るか?」

「グホッ…」

ネカガ神がノックアウトした。済まない…だが妥協はしたくないんだ!

「はい!あ、でも…」

「??どうしたディノーサ?」

欲しそうにしてるのに何かを気にしてる様子…あっ、あれか。

「脂質を気にしてるな」

「そうそう。ご飯大量だからこれ以上エネルギー取るのは太るかなって…」

ディノーサは知らないのか。もう大分世の中には浸透してると思ったんだけどな。俺の思い違いか?

「ディノーサよ、別に脂質取っても太らないぞ」

「えっ!そうなの!?」

知らなかったのか…こっちの世界だとまだ広まってないのか。それならちょくちょく広めてこう。

「そうだぞ、太る原因は糖質過多か飢餓状態とかで脂質はそんなに関係無いんだ。寧ろ脂質を取った方が消化までがゆっくりになって痩せるぞ!あ、でも摂りすぎには注意だ!」

ついでに言うと多くの人にとってトランス脂肪酸は特に注意しなければならない物になってるよな。
 最終的には体質によるんだけどさ。

「それなら、あたしは30gでお願いね!」

「OK。アモリスはどうする?」

一瞬考える様な動作をしてから“私は遠慮しておく”と小声で言った。
 それじゃあディノーサの分だけ出して。

「はいよ、どうぞ」

「ありがとう!ん~、味変で更にご飯が進む!」

「それは何よりだ」

こうして賑やかに夕食をしたのだった。
 明日はスラムの家を修復してから依頼をこなしにこなし支持を得よう。コツコツと始めるのが重要だからな。

 今回はここまでです。
それでは皆さんSee you next time!!
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