高坂くんは不幸だらけ

甘露煮ざらめ

文字の大きさ
上 下
18 / 74

(9)

しおりを挟む
 つつがなく授業が終わり放課後。帰宅部の俺たちは校門前で別れ、サヤと二人で下校路を歩いていた。ちなみに、遥の家は門を出て右方向。悠人はまっすぐ、俺たちは左。見事なまでにバラバラだった。

「いや~、学校を満喫できました。明後日も楽しみです」
「……そう。そりゃよかったね」

 午後の授業も相変わらず飛ばしやがって。転校初日からここまでやりたい放題のヤツは津々浦々探してもアンタだけだ。

「私ー。一度、下界の学校の授業を受けてみたかったんですよねー」
「へぇ。そういやさ、そっちの世界にも学校とかってあるの?」

 シガミとイキガミの組織があるって以外は、なんにも知らない。その辺りはどうなってるんだろう?

「それはそうですよ~。学校だけではなく、お買い物する場所だってありますよー。順平さんは、一体どのような場所を想像なさってるので? まさか阿鼻叫喚の地獄絵図を?」
「アンタは極端すぎるっての。なんつーかさ、もっと幻想的っていうか――おっとあぶね」

 話に集中してたから、道に鎮座している犬のフンを踏むところだった。動物がするのは仕方ないけど、人間がきちんと後始末はしないといけない。最近は飼い主のマナーが低下してるってニュースでやってたけど、あながち間違ってないな。

「ホント、困ったもんだ」

 文句を言いながら軽快なサイドステップで進路変更し、金網の上に――

 ズボッ
「うおっ!?」

 俺が足を置いた瞬間、金網が外れて左足が溝の中へ。しかも、そこには悪臭漂う汚水がありましたとさ。

「順平さんっ! だ、大丈夫ですかー?」
「……。だいじょばない」

 足を引き上げると、怪我はないけど靴が浸水していた。なので帰ったら即行、靴と靴下を洗濯しなきゃいけなくなったのですはい。
 はぁ、大げさに避けたばっかりに思わぬ不幸が来てしまった。やっぱり俺って、どこまでも不幸――ん? 不幸? ちょっと待てよ……。

「ねえ」
「はい?」
「アナタは、俺の不幸を払ってくれる。そう言ったよね?」
「はい!」

 元気の良いお返事があった。
 うんうん、そうだよね。じゃあさ。

「じゃあさ、これはなんなのかな?」

 今の、これ以上ない完璧な不幸じゃないか。いや、これだけじゃない! 今思えば、パンの間違い、鳥の糞。あれらも全て……。

「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
「ぇ? 何を?」
「実は、ですねー。不幸には大きさに応じてレベル分けがされていて、私が払うのはレベル3と4です。これは登校中にご説明したように、急に全部不幸を防いでしまうと反動があるからですよ。あっ、今朝の人違い騒動のレベルは3。三日後の死はシガミ史上初めてのレベル4なのでありますよっ」
「……それじゃあ、なんだ。あれか? それ以下の不幸は我が物顔で襲ってくると?」
「はい。そして、意味がなかったのでレベル2以下の不幸についてはいつ何時、どのような形で到来するかは調べてませんっ」
「…………」

 胸張って言うことでもないだろうし、そんな大切なことは真っ先に教えて欲しかったなぁ。

「あ、あれれ。どうしました?」
「…………なんでもない。もう、帰ろっか」

 文句を言いたいけど、元凶は俺自身なのだからどうしようもない。
 何気ない道を戦場と想定し、細心の注意を払い、普段の倍の時間を費やして家に帰りました。そんでもってそんな時に限って、それ以上は何も起こりませんでしたとさ。

   ○○○
しおりを挟む

処理中です...