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第3章 神と悪魔、そして正義
第41話
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眼前に迫る木刀の一撃。俺はそれをよけるのを不可能と判断し、剣が当たる直前に腕を前で交差させ、攻撃を受けた。それを受けた俺は、後方に吹き飛び、俺らを囲む木にぶつかった。
「あぁ!痛ってぇ!」
俺がそんなことを言ってる間に、木偶人形は俺との距離を詰めてきていた。今度も先ほどと同じように突きを放ってきたので、俺は体をかがめてそれを回避、そのまま突きで伸びている腕に、下から左手でアッパーを入れた。その一撃に木偶人形の腕が曲がってはいけないほうにねじ曲がり、同時に剣を手から離した。
「いいねぇ。次行くぞ!」
腕が吹き飛ばされ上半身をのけぞらせる人形に、俺はすかさず、右の拳を叩きつけようとする。その瞬間、俺の体に横から木刀が叩き込まれた。
「グベッ!んだよ!新手か!?」
木剣が叩き込まれた俺は、地面に転がっていた。予想外の攻撃に怒りをこぼしながら眼前の人形をにらむと、先ほどの手とは逆のほうの手で剣を握っていた。
「あ?まじぃ?あの一瞬で持ち替えたってことかよ!?どんだけ戦うのうまいんだよ?父さん(仮)!」
そう愚痴をこぼしながら俺は態勢を整え、フーッと息を吐き、眼前の敵に集中した。
「今度は!俺の番だよな!」
足に力を籠め、一歩で木偶人形に近づく。少し回転を加え、正拳突きを放つ。
しかし、木偶人形はそれを受け止め、俺の回転を生かす形で、俺を投げ飛ばした。
「カハッ!」
やられるがままになった俺は地面に叩きつけられた。そして少し動けなくなった俺に、人形は剣を叩きつける。それを、眼前で受け止め、それを支点に宙に上がる。そしてそのまま、木偶人形の顔に蹴りを入れる。しかし、いつの間にか治っていた左腕でそれを受け止め、ぶん投げた。
「いやあー!ゲフッ!」
先ほどと同じように壁にたたきつけられる俺。そんな俺を見て、ティトリは少し驚いた顔で告げた。
「お前さん、なぜマナを使わないのだ?使えばもっと楽に戦えるだろうに」
「あぁ?マナ?使い方がわかんねぇよ。どうすんだ!?」
「体の中に流れる力を意識しろ。さすればできる。」
ティトリの言うとおりに意識してみるが一向にわからない。
「わかるか!もうちょっとわかりやすく言えよ!」
俺の言葉にティトリはハーッとため息をついた。
「ならば、ちと来い。簡単に教えてやる。」
「サンキュー!今行く」
俺が急いでティトリのほうに近づくと、ティトリがニヤニヤしながら、俺に触れてきた。
「死ぬ気で、頑張り給えよ。」
その瞬間、俺の体内が焼けるように熱くなり、体の中でティトリの言うマナが暴れだした。
「あ...ガァ!てっめぇぇぇえ!何しやがった!?」
地面をのたうち回りながら俺がそうこぼすと、ティトリは何を言っておる?みたいな顔で俺のほうを見てきた。
「言ったであろう?死ぬ気で、と。何、お前さんの体の中のマナを無理やり活性化させただけだ。」
「ちっくしょお!うぬぁぁあぁ!!」
文句を言おうにも、先ほどよりも暴れまわる力の奔流に俺は地面をのたうち回っていた。そうしていると、そんなことなんて関係ないと言わんばかりに、木偶人形は俺のことを、木剣で殴り飛ばしてきた。
「あぁあああぁ!やってやるよ!がぁあぁぁあああ!!!」
このまま終わってたまるかと俺は胸に手を当て、力を抑え込もうとし始めた。
体の中にあるマナを一部ではなく、体全体に広げる。ただし、そう簡単にはいくわけもなく、まったくうまくいかない。広げれたのにすぐに違うところに行ってしまう。
眼前の敵の攻撃を避けながら、時には喰らいながらマナの制御に集中する。
それを繰り返すこと、はや数十分。少しずつではあるがコツをつかみ始めていた。
「うん。おっけい。だいぶ落ち着いてきたわ。でも、ここからだよな。マナを攻撃に乗せる必要がある。」
拳に力を集中すると、先ほどから意識できるようになったマナが集まりだす。ただその隙に人形は俺のほうに近づき、攻撃してくる。それを避けようとすると、集中が切れてマナが霧散する。
これができなきゃこいつに勝てない。この人形を消し飛ばすことができない。
こいつの攻撃を見切るのには慣れてきた。だけど、多少は集中していなきゃ避けきれない。どうする?こいつの攻撃を避けながら、マナを集中させた攻撃を放つには...
俺は避けながら、思考を張り巡らせる。次の一手を打つために。
「そうか。踏み切ればいいのか...!」
そういって、木偶人形に突っ込む。突っ込みながらもマナを体を覆うように発する。踏み込んできた俺に木偶人形は容赦なく剣をふるう。俺はそれを真っ向から受け止めた。
「捕まえたぜ!これで、外すことはねぇ!」
その言葉を発しながら俺は拳を構える。そして、拳に意識を集中、一瞬でマナを発生させた。
それに対し、逃れるために人形は攻撃を仕掛ける。
「一手遅ぇ!」
拳にマナが集中するのは打撃の瞬間で十分。だから、そこに間に合うように拳にマナを乗せればいい!
マナをまとった俺の拳は、人形の腹をとらえる。そして俺の放った一撃は、殴った箇所をを抉り、吹き飛ばした。
吹き飛ばされた人形は、さすがのダメージに回復できなかったのか、そのまま動かなくなった。
「ぜぇぜぇ。どうだ!これが俺の一撃だ!」
拳を上げ勝ち誇っていると、ティトリが拍手しながら入ってきた。
「うんうん。おめでとう!これでお前さんは新しいステージに足を一歩、踏み入れた。どうだ?マナを意識するという感覚は?儂の荒療治も案外よかっただろう?」
ティトリは自慢げにニヤニヤとしていた。
「うるせぇ。クッソ痛かったわ。」
「フハハハハハ!うむ。では今日のところはこれで終わりにしよう。ちょうどお前さんの迎えが来ているようだしな。」
そう言って後ろを振り向くと、フルーメが階段前で待っていた。
「フルーメ、いたのか?」
俺の言葉にフルーメはため息をついた。
「ティトリ様が迎えに来るよう念を飛ばしてくれたのでね。それがなければ私が来ることはなかったと思うよ。」
フルーメはやれやれといった表情だった。
「ありがとな。ヨシッ、戻るか。」
俺はスッと立ち上がり、フルーメのほうに歩いて行った。
「お前さん。明日もまた来るとよい。というよりは、必ず来い。以上だ。お疲れ。」
ティトリはそう言って、手を振って俺たちを見送った。
「おう。またくる。」
ティトリの見送りを後に、俺たちは階段を上り、去っていった。
階段を上る途中、フルーメは少し興味深そうな顔で俺のほうを向いてきた。
「ん?どうした?俺の顔になんかついてんのか?」
「いえ、あの方と仲良さげに話している方を見るのは久しぶりだったので。あなたの何があの肩を奏したのか気になりまして。」
「共通の知り合いがいたってだけだな。詳しくはティトリに直接聞いてくれ。俺から語るのはたぶん、だめだ。」
俺が意味ありげにそう語ると、フルーメはうーんと言って、かなり悩んだ顔をした。
「わかりました。しかし、ちゃんと説明はされてませんからね。納得はしていません。今度、あのお方に聞いてみようと思います。」
「それがいいよ。お、もうすぐ上につきそうだな。結構長い時間やってた気もするしな。すぐにでも帰りてぇ。」
俺がそういうとフルーメはフフッと笑いこう言った。
「そうですね。もう日が暮れている頃でしょうから。それにしても、あなたの口からそんな言葉を聞くとついつい笑ってしまいますね。」
そう話しているうちに、地上に戻った俺たちは第三騎士団の厩舎前で別れた。
**********************************
その日の夜。宿に戻った俺はヴァネッサと合流、今日あったことを事細かに話した。
「そんなことがあったのね。知らなかったわ。でも、マナ...ねぇ。意識したことなかったわ。」
ヴァネッサは顔に手を当て、少し困った顔をしていた。
「当たり前だ。俺もティトリの奴の荒療治がなきゃ意識すらできなかった。」
「そうね。ただ私が教わりに行くわけにはいかないでしょうね。それに、私は魔法を使うことがないわ。そして私にはローズがいるもの。この子がいれば何の問題もないわ。」
ヴァネッサはそう言って、左手の薬指にはめている、赤い宝石がついた指輪に軽くキスをした。
「それもそうか。これからの予定だが俺は明日も変わらずティトリのところに行く。ヴァネッサはそうだな。ダンジョンに潜ってみるか?」
俺がそういうとヴァネッサは待ってましたと言わんばかりの顔になっていた。
「あら、いいの!?やったわー!私、この世界来てから一度も戦ってないから、鈍っちゃわないか心配だったのよー!」
ヴァネッサは手をたたきながら喜んでいた。
「そいつはよかった。俺もそこらへんは心配だったからな。あとは、ロビンだが。まぁいいか。あいつの任務は潜入だ。そう簡単には戻ってこないだろう。でも、ちょっとは心配だな。ワープゲートがちゃんと動いているか心配だな。調べてみるか。」
俺はそういって、目をつむり、〈並列思考〉〈高速演算〉〈探知〉を同時で発動。魔皇国からフロスト王国のほうへ向けて大規模な探知を行った。
そうすると、ワープゲートが開いていることが分かった。そして、そのそばにかなり弱っているやつがいるのを探知した。
「ヴァネッサ!緊急事態だ!今すぐ出る!」
俺のその言葉から、かなりの緊急性があるのを感じ取ったのか、ヴァネッサはえらく緊張した顔つきになった。
「わかったわ!それで、場所は?」
「俺がロビンに渡したワープポータル付近だ。場所は東門から出てすぐにある森。負傷者一名。おそらくロビンだ...!」
ロビンが負傷。可能性とはいえこれはかなりの緊急事態だ。もし仮にロビン以外だったとしても、ワープゲートを使ったっていうのだけでも異常事態だ。急いで、その負傷者を確保しないと。
「ロビンちゃんが!?そんな...!急がないと!」
「わかってる!」
俺はそう言って窓から夜の街へ飛び出す。そのまま屋根伝いに街の外に進む。ヴァネッサも俺に続いて、森のほうへ向かう。
森につくと、血の跡があった。おそらく探知したやつのだ。
「マスターちゃん!」
「わかってる!探知を放った。うん、いる。ほぼ確でロビンだ。」
俺の言葉にヴァネッサは何も言わず、先ほどよりスピードを上げた。俺もそれに続く形でスピードを上げ、ロビンらしき反応に近づく。
そこから数十メートル先、血だらけで木に寄り掛かるロビンがいた。
「ロビン!」「ロビンちゃん!」
ぼろぼろのロビンに焦って近づく。それと同時に、回復の魔法を起動。それにより、ロビンの体が少しづつ癒えていく。
「ヴァネッサ、ここから先にワープゲートがある。それを閉じてきてくれ。俺はロビンを回復させる。」
「わかったわ。ロビンのこと任せるわよ!」
ヴァネッサはそう言い残し離脱。俺はそのあとすぐに意識を取り戻したロビンに声をかけた。
「なにがあった?お前がここまで追いつめられるってどうなってんだ?相当の手練れを相手にしたってことか?」
俺が口早にそういうと、ロビンは少しづつだが何があったのかを話し始めた。
「すまねぇな。マスタァ...ゲホッ!潜入中に下手こいてなあ。急いで逃げようって時に、相手にしたやつにやられてしもうてな。」
ロビンは肩で息をしながらそう語った。
「誰にやられた?」
そう聞いた瞬間、ロビンは真剣な顔になり、こう言葉をつづけた。
「フロスト王国の騎士団長、クリストフ・シュタインや...!」
ロビンは俺の肩をつかみ、力強く語った。
ロビンの告げた予想外の名に、俺は言葉を発することができなかった。
_______________________________________
次回、ロビンに何があったのか。それを解明するために閑話休題を挟みます。お楽しみに。
「あぁ!痛ってぇ!」
俺がそんなことを言ってる間に、木偶人形は俺との距離を詰めてきていた。今度も先ほどと同じように突きを放ってきたので、俺は体をかがめてそれを回避、そのまま突きで伸びている腕に、下から左手でアッパーを入れた。その一撃に木偶人形の腕が曲がってはいけないほうにねじ曲がり、同時に剣を手から離した。
「いいねぇ。次行くぞ!」
腕が吹き飛ばされ上半身をのけぞらせる人形に、俺はすかさず、右の拳を叩きつけようとする。その瞬間、俺の体に横から木刀が叩き込まれた。
「グベッ!んだよ!新手か!?」
木剣が叩き込まれた俺は、地面に転がっていた。予想外の攻撃に怒りをこぼしながら眼前の人形をにらむと、先ほどの手とは逆のほうの手で剣を握っていた。
「あ?まじぃ?あの一瞬で持ち替えたってことかよ!?どんだけ戦うのうまいんだよ?父さん(仮)!」
そう愚痴をこぼしながら俺は態勢を整え、フーッと息を吐き、眼前の敵に集中した。
「今度は!俺の番だよな!」
足に力を籠め、一歩で木偶人形に近づく。少し回転を加え、正拳突きを放つ。
しかし、木偶人形はそれを受け止め、俺の回転を生かす形で、俺を投げ飛ばした。
「カハッ!」
やられるがままになった俺は地面に叩きつけられた。そして少し動けなくなった俺に、人形は剣を叩きつける。それを、眼前で受け止め、それを支点に宙に上がる。そしてそのまま、木偶人形の顔に蹴りを入れる。しかし、いつの間にか治っていた左腕でそれを受け止め、ぶん投げた。
「いやあー!ゲフッ!」
先ほどと同じように壁にたたきつけられる俺。そんな俺を見て、ティトリは少し驚いた顔で告げた。
「お前さん、なぜマナを使わないのだ?使えばもっと楽に戦えるだろうに」
「あぁ?マナ?使い方がわかんねぇよ。どうすんだ!?」
「体の中に流れる力を意識しろ。さすればできる。」
ティトリの言うとおりに意識してみるが一向にわからない。
「わかるか!もうちょっとわかりやすく言えよ!」
俺の言葉にティトリはハーッとため息をついた。
「ならば、ちと来い。簡単に教えてやる。」
「サンキュー!今行く」
俺が急いでティトリのほうに近づくと、ティトリがニヤニヤしながら、俺に触れてきた。
「死ぬ気で、頑張り給えよ。」
その瞬間、俺の体内が焼けるように熱くなり、体の中でティトリの言うマナが暴れだした。
「あ...ガァ!てっめぇぇぇえ!何しやがった!?」
地面をのたうち回りながら俺がそうこぼすと、ティトリは何を言っておる?みたいな顔で俺のほうを見てきた。
「言ったであろう?死ぬ気で、と。何、お前さんの体の中のマナを無理やり活性化させただけだ。」
「ちっくしょお!うぬぁぁあぁ!!」
文句を言おうにも、先ほどよりも暴れまわる力の奔流に俺は地面をのたうち回っていた。そうしていると、そんなことなんて関係ないと言わんばかりに、木偶人形は俺のことを、木剣で殴り飛ばしてきた。
「あぁあああぁ!やってやるよ!がぁあぁぁあああ!!!」
このまま終わってたまるかと俺は胸に手を当て、力を抑え込もうとし始めた。
体の中にあるマナを一部ではなく、体全体に広げる。ただし、そう簡単にはいくわけもなく、まったくうまくいかない。広げれたのにすぐに違うところに行ってしまう。
眼前の敵の攻撃を避けながら、時には喰らいながらマナの制御に集中する。
それを繰り返すこと、はや数十分。少しずつではあるがコツをつかみ始めていた。
「うん。おっけい。だいぶ落ち着いてきたわ。でも、ここからだよな。マナを攻撃に乗せる必要がある。」
拳に力を集中すると、先ほどから意識できるようになったマナが集まりだす。ただその隙に人形は俺のほうに近づき、攻撃してくる。それを避けようとすると、集中が切れてマナが霧散する。
これができなきゃこいつに勝てない。この人形を消し飛ばすことができない。
こいつの攻撃を見切るのには慣れてきた。だけど、多少は集中していなきゃ避けきれない。どうする?こいつの攻撃を避けながら、マナを集中させた攻撃を放つには...
俺は避けながら、思考を張り巡らせる。次の一手を打つために。
「そうか。踏み切ればいいのか...!」
そういって、木偶人形に突っ込む。突っ込みながらもマナを体を覆うように発する。踏み込んできた俺に木偶人形は容赦なく剣をふるう。俺はそれを真っ向から受け止めた。
「捕まえたぜ!これで、外すことはねぇ!」
その言葉を発しながら俺は拳を構える。そして、拳に意識を集中、一瞬でマナを発生させた。
それに対し、逃れるために人形は攻撃を仕掛ける。
「一手遅ぇ!」
拳にマナが集中するのは打撃の瞬間で十分。だから、そこに間に合うように拳にマナを乗せればいい!
マナをまとった俺の拳は、人形の腹をとらえる。そして俺の放った一撃は、殴った箇所をを抉り、吹き飛ばした。
吹き飛ばされた人形は、さすがのダメージに回復できなかったのか、そのまま動かなくなった。
「ぜぇぜぇ。どうだ!これが俺の一撃だ!」
拳を上げ勝ち誇っていると、ティトリが拍手しながら入ってきた。
「うんうん。おめでとう!これでお前さんは新しいステージに足を一歩、踏み入れた。どうだ?マナを意識するという感覚は?儂の荒療治も案外よかっただろう?」
ティトリは自慢げにニヤニヤとしていた。
「うるせぇ。クッソ痛かったわ。」
「フハハハハハ!うむ。では今日のところはこれで終わりにしよう。ちょうどお前さんの迎えが来ているようだしな。」
そう言って後ろを振り向くと、フルーメが階段前で待っていた。
「フルーメ、いたのか?」
俺の言葉にフルーメはため息をついた。
「ティトリ様が迎えに来るよう念を飛ばしてくれたのでね。それがなければ私が来ることはなかったと思うよ。」
フルーメはやれやれといった表情だった。
「ありがとな。ヨシッ、戻るか。」
俺はスッと立ち上がり、フルーメのほうに歩いて行った。
「お前さん。明日もまた来るとよい。というよりは、必ず来い。以上だ。お疲れ。」
ティトリはそう言って、手を振って俺たちを見送った。
「おう。またくる。」
ティトリの見送りを後に、俺たちは階段を上り、去っていった。
階段を上る途中、フルーメは少し興味深そうな顔で俺のほうを向いてきた。
「ん?どうした?俺の顔になんかついてんのか?」
「いえ、あの方と仲良さげに話している方を見るのは久しぶりだったので。あなたの何があの肩を奏したのか気になりまして。」
「共通の知り合いがいたってだけだな。詳しくはティトリに直接聞いてくれ。俺から語るのはたぶん、だめだ。」
俺が意味ありげにそう語ると、フルーメはうーんと言って、かなり悩んだ顔をした。
「わかりました。しかし、ちゃんと説明はされてませんからね。納得はしていません。今度、あのお方に聞いてみようと思います。」
「それがいいよ。お、もうすぐ上につきそうだな。結構長い時間やってた気もするしな。すぐにでも帰りてぇ。」
俺がそういうとフルーメはフフッと笑いこう言った。
「そうですね。もう日が暮れている頃でしょうから。それにしても、あなたの口からそんな言葉を聞くとついつい笑ってしまいますね。」
そう話しているうちに、地上に戻った俺たちは第三騎士団の厩舎前で別れた。
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その日の夜。宿に戻った俺はヴァネッサと合流、今日あったことを事細かに話した。
「そんなことがあったのね。知らなかったわ。でも、マナ...ねぇ。意識したことなかったわ。」
ヴァネッサは顔に手を当て、少し困った顔をしていた。
「当たり前だ。俺もティトリの奴の荒療治がなきゃ意識すらできなかった。」
「そうね。ただ私が教わりに行くわけにはいかないでしょうね。それに、私は魔法を使うことがないわ。そして私にはローズがいるもの。この子がいれば何の問題もないわ。」
ヴァネッサはそう言って、左手の薬指にはめている、赤い宝石がついた指輪に軽くキスをした。
「それもそうか。これからの予定だが俺は明日も変わらずティトリのところに行く。ヴァネッサはそうだな。ダンジョンに潜ってみるか?」
俺がそういうとヴァネッサは待ってましたと言わんばかりの顔になっていた。
「あら、いいの!?やったわー!私、この世界来てから一度も戦ってないから、鈍っちゃわないか心配だったのよー!」
ヴァネッサは手をたたきながら喜んでいた。
「そいつはよかった。俺もそこらへんは心配だったからな。あとは、ロビンだが。まぁいいか。あいつの任務は潜入だ。そう簡単には戻ってこないだろう。でも、ちょっとは心配だな。ワープゲートがちゃんと動いているか心配だな。調べてみるか。」
俺はそういって、目をつむり、〈並列思考〉〈高速演算〉〈探知〉を同時で発動。魔皇国からフロスト王国のほうへ向けて大規模な探知を行った。
そうすると、ワープゲートが開いていることが分かった。そして、そのそばにかなり弱っているやつがいるのを探知した。
「ヴァネッサ!緊急事態だ!今すぐ出る!」
俺のその言葉から、かなりの緊急性があるのを感じ取ったのか、ヴァネッサはえらく緊張した顔つきになった。
「わかったわ!それで、場所は?」
「俺がロビンに渡したワープポータル付近だ。場所は東門から出てすぐにある森。負傷者一名。おそらくロビンだ...!」
ロビンが負傷。可能性とはいえこれはかなりの緊急事態だ。もし仮にロビン以外だったとしても、ワープゲートを使ったっていうのだけでも異常事態だ。急いで、その負傷者を確保しないと。
「ロビンちゃんが!?そんな...!急がないと!」
「わかってる!」
俺はそう言って窓から夜の街へ飛び出す。そのまま屋根伝いに街の外に進む。ヴァネッサも俺に続いて、森のほうへ向かう。
森につくと、血の跡があった。おそらく探知したやつのだ。
「マスターちゃん!」
「わかってる!探知を放った。うん、いる。ほぼ確でロビンだ。」
俺の言葉にヴァネッサは何も言わず、先ほどよりスピードを上げた。俺もそれに続く形でスピードを上げ、ロビンらしき反応に近づく。
そこから数十メートル先、血だらけで木に寄り掛かるロビンがいた。
「ロビン!」「ロビンちゃん!」
ぼろぼろのロビンに焦って近づく。それと同時に、回復の魔法を起動。それにより、ロビンの体が少しづつ癒えていく。
「ヴァネッサ、ここから先にワープゲートがある。それを閉じてきてくれ。俺はロビンを回復させる。」
「わかったわ。ロビンのこと任せるわよ!」
ヴァネッサはそう言い残し離脱。俺はそのあとすぐに意識を取り戻したロビンに声をかけた。
「なにがあった?お前がここまで追いつめられるってどうなってんだ?相当の手練れを相手にしたってことか?」
俺が口早にそういうと、ロビンは少しづつだが何があったのかを話し始めた。
「すまねぇな。マスタァ...ゲホッ!潜入中に下手こいてなあ。急いで逃げようって時に、相手にしたやつにやられてしもうてな。」
ロビンは肩で息をしながらそう語った。
「誰にやられた?」
そう聞いた瞬間、ロビンは真剣な顔になり、こう言葉をつづけた。
「フロスト王国の騎士団長、クリストフ・シュタインや...!」
ロビンは俺の肩をつかみ、力強く語った。
ロビンの告げた予想外の名に、俺は言葉を発することができなかった。
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