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いらない能力
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そんなことは日常茶飯事だった。
誰もが心の内で文句ばかりを並べている訳ではない。勿論、幸せに満ち溢れた囁きだって存在する。けれど、言葉にして発することが出来ない愚痴やぼやきの方が心の声として聞こえて来ることが多いのは事実だった。抑え込んでいながらも、外へと訴えたい気持ちが大きな本音ほど聞こえてきやすいのかも知れない。
でも、そういう人の負の感情ばかりを耳にしていると、ついつい自分までマイナスの方向へと引きずられてしまいがちで。その為、経験上出来るだけそういうものは聞き流し、極力気に留めないように心掛けていた。
(そう、所詮は他人事…)
気にしていても仕方がない。さっきの彼氏は気の毒だとは思うけれど。
そうして気を取り直して歩いていると、また何処からか小さな囁きが聞こえてきて咲夜は足を止めた。
今度は、先程のものとは少し違った何処か危機的な、助けを求めるような『声』だ。
でも、周囲を見渡してみても人はいない。
それは、とても小さな小さなもので…。
咲夜は耳を澄まして声の聞こえる方へと神経を集中させた。
心の囁きは何も人限定のものではない。『心』のあるものならば、何かしらのメッセージを発信しているからだ。
普通ならば言葉の通じることなどない生き物であっても、他へと訴える気持ちが強いものは何故か感じ取ることが出来た。
それは人の『言葉』とは違うけれど『心』そのものの波動。
(あ…。見つけた…)
河原に植えられている一本の樹。その根元に小さなうごめくもの。
それは小さな鳥のヒナだった。まだ自力で飛ぶことなど到底出来そうもないふわふわの羽毛に包まれている。その周囲を先程からパタパタと飛び回っているのは親鳥だろうか。
自分が受け取った『声』は、どうやらこの親鳥がヒナが落ちてしまったことに混乱しながらも助けを求める声だったようだ。
「巣から落ちちゃったんだね」
咲夜はゆっくりと傍まで歩み寄ると、飛んでいる親鳥らしき小鳥に呟いた。
「大丈夫。戻してあげるだけだから。何もしないよ」
こちらの言葉が彼らに伝わる筈はないのだけれど、出来るだけ警戒させないように心から敵意がないことを伝える。
ヒナが落ちている真上辺りを見上げると、少し高い位置に巣らしきものが見えた。結構な高さから落ちてしまったようではあるが、ふさふさに生い茂った草の上に落ちたことでヒナは無事だったみたいだ。
咲夜は肩から掛けていた鞄をそっと綺麗な草の上に置くと、両手でそっとすくい上げるようにヒナを抱えた。ヒナは僅かに震えながらも小さな声でピィピィ鳴いている。
(可愛い…)
小さな命の温もりを手のひらに感じて咲夜は僅かに微笑んだ。…が。
(さて、どうするか…)
咲夜は巣を見上げた。
木登りは出来ないことはない。幹の太さもそれなりにある大きな樹なので、巣がある枝部分も人一人くらい乗っても耐えられそうな感じではある。だが、このままヒナを抱えた状態では身動きが取れない。
(ポケットに入れて運ぶ…?でも親鳥が黙ってないか…)
今この時点でもヒナを心配して親鳥がパニックを起こし掛けている。
それでも巣に戻す為には仕方ない。少しの間、親鳥にもヒナにも我慢して貰うしかないか。そう決心を固めた時だった。
「それ、もしかして雛?」
突然、横から声が掛かった。小鳥にばかり気を取られていて人が来たことにさえ気付かなかった。少しだけ驚きつつも無言で声のした方を振り返ると、そこには一人の見知らぬ男が立っていた。
そんな咲夜の様子に男は人懐っこい笑顔を向ける。
「この上の巣から落ちて来ちゃったんだね。可哀想に…。よし!すぐに戻してあげよう」
まるでそれが当たり前のことのように一人頷くと、持っていた荷物をそこらに置いて腕まくりをしながら傍までやって来た。どうやら、木に登る気満々のようだ。
「………」
ヒナを両手に乗せたまま、男の勢いに押されて何も言えずにいる咲夜に気付いたのか、男は少しだけ申し訳なさそうな顔をして笑って言った。
「突然、声掛けちゃってごめんね。驚かしちゃったかな?女の子に木登りなんて危ない真似させられないからさ。登るのは僕に任せて」
男は右拳で自らの胸をトンと叩くと「ね?」と笑顔でアピールをした。その邪気のカケラもない明るい笑顔に、咲夜は戸惑いながらも小さく頷いて返すしかなかった。
その人物が傍まで来ると、咲夜より少し目線が上くらいで然程背は高くなく、細身の体型なのが分かった。身軽そうといえばそうなのだが、少し長めのふわふわした髪に眼鏡という、ちょっぴり見た目インドアな雰囲気の青年に少しだけ心配になる。
(大丈夫かな…?)
誰もが心の内で文句ばかりを並べている訳ではない。勿論、幸せに満ち溢れた囁きだって存在する。けれど、言葉にして発することが出来ない愚痴やぼやきの方が心の声として聞こえて来ることが多いのは事実だった。抑え込んでいながらも、外へと訴えたい気持ちが大きな本音ほど聞こえてきやすいのかも知れない。
でも、そういう人の負の感情ばかりを耳にしていると、ついつい自分までマイナスの方向へと引きずられてしまいがちで。その為、経験上出来るだけそういうものは聞き流し、極力気に留めないように心掛けていた。
(そう、所詮は他人事…)
気にしていても仕方がない。さっきの彼氏は気の毒だとは思うけれど。
そうして気を取り直して歩いていると、また何処からか小さな囁きが聞こえてきて咲夜は足を止めた。
今度は、先程のものとは少し違った何処か危機的な、助けを求めるような『声』だ。
でも、周囲を見渡してみても人はいない。
それは、とても小さな小さなもので…。
咲夜は耳を澄まして声の聞こえる方へと神経を集中させた。
心の囁きは何も人限定のものではない。『心』のあるものならば、何かしらのメッセージを発信しているからだ。
普通ならば言葉の通じることなどない生き物であっても、他へと訴える気持ちが強いものは何故か感じ取ることが出来た。
それは人の『言葉』とは違うけれど『心』そのものの波動。
(あ…。見つけた…)
河原に植えられている一本の樹。その根元に小さなうごめくもの。
それは小さな鳥のヒナだった。まだ自力で飛ぶことなど到底出来そうもないふわふわの羽毛に包まれている。その周囲を先程からパタパタと飛び回っているのは親鳥だろうか。
自分が受け取った『声』は、どうやらこの親鳥がヒナが落ちてしまったことに混乱しながらも助けを求める声だったようだ。
「巣から落ちちゃったんだね」
咲夜はゆっくりと傍まで歩み寄ると、飛んでいる親鳥らしき小鳥に呟いた。
「大丈夫。戻してあげるだけだから。何もしないよ」
こちらの言葉が彼らに伝わる筈はないのだけれど、出来るだけ警戒させないように心から敵意がないことを伝える。
ヒナが落ちている真上辺りを見上げると、少し高い位置に巣らしきものが見えた。結構な高さから落ちてしまったようではあるが、ふさふさに生い茂った草の上に落ちたことでヒナは無事だったみたいだ。
咲夜は肩から掛けていた鞄をそっと綺麗な草の上に置くと、両手でそっとすくい上げるようにヒナを抱えた。ヒナは僅かに震えながらも小さな声でピィピィ鳴いている。
(可愛い…)
小さな命の温もりを手のひらに感じて咲夜は僅かに微笑んだ。…が。
(さて、どうするか…)
咲夜は巣を見上げた。
木登りは出来ないことはない。幹の太さもそれなりにある大きな樹なので、巣がある枝部分も人一人くらい乗っても耐えられそうな感じではある。だが、このままヒナを抱えた状態では身動きが取れない。
(ポケットに入れて運ぶ…?でも親鳥が黙ってないか…)
今この時点でもヒナを心配して親鳥がパニックを起こし掛けている。
それでも巣に戻す為には仕方ない。少しの間、親鳥にもヒナにも我慢して貰うしかないか。そう決心を固めた時だった。
「それ、もしかして雛?」
突然、横から声が掛かった。小鳥にばかり気を取られていて人が来たことにさえ気付かなかった。少しだけ驚きつつも無言で声のした方を振り返ると、そこには一人の見知らぬ男が立っていた。
そんな咲夜の様子に男は人懐っこい笑顔を向ける。
「この上の巣から落ちて来ちゃったんだね。可哀想に…。よし!すぐに戻してあげよう」
まるでそれが当たり前のことのように一人頷くと、持っていた荷物をそこらに置いて腕まくりをしながら傍までやって来た。どうやら、木に登る気満々のようだ。
「………」
ヒナを両手に乗せたまま、男の勢いに押されて何も言えずにいる咲夜に気付いたのか、男は少しだけ申し訳なさそうな顔をして笑って言った。
「突然、声掛けちゃってごめんね。驚かしちゃったかな?女の子に木登りなんて危ない真似させられないからさ。登るのは僕に任せて」
男は右拳で自らの胸をトンと叩くと「ね?」と笑顔でアピールをした。その邪気のカケラもない明るい笑顔に、咲夜は戸惑いながらも小さく頷いて返すしかなかった。
その人物が傍まで来ると、咲夜より少し目線が上くらいで然程背は高くなく、細身の体型なのが分かった。身軽そうといえばそうなのだが、少し長めのふわふわした髪に眼鏡という、ちょっぴり見た目インドアな雰囲気の青年に少しだけ心配になる。
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