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その意味
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珍しく感情が昂っている様子である咲夜のそんな主張に。辰臣は静かに首を横に振ると否定を口にした。
「気持ち悪くなんかないよ」
そう真顔でしっかりと言い放ち一旦区切ると、言葉を続ける。
「僕は昔の…ランボーのことがあるから咲夜ちゃんに何か不思議な力があることだけは分かっていたけど。でも、そんなキミの能力に憧れこそあっても気持ち悪いだなんて少しも思ったことはないよ。寧ろ、こんな風に再会出来て色々な話がまた出来て、何かしらの縁を感じて僕は嬉しかったんだ」
そんな辰臣の独白のような言葉に、咲夜は心底驚いたような表情を見せている。
辰臣は、そこでやっと笑顔を見せると再び口を開いた。
「咲夜ちゃんがそんな風に動物や人の気持ちが分かってしまうのは、きっとそれだけ人一倍周囲に気を配っているからなんだと思う。他人の事なんて何も気にしない人にそんな能力はそもそも必要ないし、例え能力を持ち合わせていたとしても、それこそ気に留めることもないだろうからね。その場合、能力は『ない』ことと同じなんだ」
辰臣は、いつの間に来ていたのか自分の足元で尻尾を振りながらこちらを見上げているランボーをそっと抱え上げると、優しく撫でながら「これは、あくまでも僕の持論なんだけど…」と、続けた。
「この仕事をしていて僕は日々感じているんだけど、動物たちって本当に正直で繊細なんだ。僕らが傍から見ていても分からないような人の内面を感じ取ることが出来るんだよ。どんなに動物好きをアピールしていても、笑顔を見せて装っていようとも、彼らにはそんな人の内面の微かな心の揺れや乱れなんかが伝わってしまう。だから、キミが心優しい誠実な人なんだってことは、ランボーたちの反応を見ていれば全部分かっちゃうんだよ」
そう辰臣が言い終わると同時に、まるでそれに同意するかのようにランボーが「わんっ」と一声上げた。辰臣の腕の中から咲夜を振り返るように見つめ、嬉しそうに尻尾をフリフリと振っている。
「ほらね。ランボーもその通りだって言ってるよ。僕には実際にランボーの気持ちを言葉として理解することは出来ないけれど、今のは僕の意見に賛同してくれたんだってことだけは自信を持って言えるよ」
一緒に過ごしてきた年月は、やはりダテではないのだろう。そう自信満々に笑顔を見せる辰臣の腕の中のランボーからは『そのとおり!』といった感じの心の声が聞こえてくる。息はピッタリだ。
ランボーからは『えっへん』と胸を張るような得意げな様子さえ伝わってきて、その可愛さに思わず小さく吹き出しそうになって。それと同時に涙がにじんできてしまい、咲夜はそれが零れないように瞬きを繰り返していた。
そんな様子を眺めていた辰臣は今度は少しだけ眉を下げると「僕は…さ」と、ぽつりと呟いた。
「僕は仕事柄、困っていたり苦しんでいる動物たちと出会うことが多いから、いつだって彼らが少しでも楽になれるように気持ちを汲み取ってあげたいって思っているんだけど。でも、それを知る能力は僕にはないから。だからね、実は少しだけ咲夜ちゃんが羨ましいと思っていたんだ。咲夜ちゃんは咲夜ちゃんなりに色々な苦悩があるんだろうに、無責任でごめんね」
まさか自分の苦しみに気付いてくれる人たちがいるなんて思ってもみなかった。
辰臣は何も悪くないのに。咲夜は申し訳なさそうに謝罪を口にする辰臣に、ふるふると首を振ることでそれを否定する。
「でもさ、それだけ咲夜ちゃんには他の者たちの気持ちを受け止める器があるってことなんだと僕は思うな。…っていうか、颯太。お前も黙ってないで何とか言ったらどうなの」
一人で語っていたのが急に恥ずかしくなったのか辰臣は、ずっと横で沈黙を続け二人の様子を見守っていた颯太を小突きながら話を振ってきた。
それを颯太はニヤリと受け止めると、
「もう辰臣さんが上手くまとめてくれたから俺の出る幕なんてないだろーけどな」
そう言いながらも今度は咲夜にいくらか真面目な視線を向けた。
「お前が今までその能力があることで、どんな思いをしてきたのかは知らないけど…。昨日のことは、本当ならお前は知らないふりをすれば済んだことだろ。そうすれば、わざわざ俺にカミングアウトする必要も無かったし、その後も平然と過ごせたハズだ。でも、そうしなかったのは…雨の中捜し回ってる辰臣さんを心配してくれたから、だよな?」
そう一旦区切ると。不安気な瞳を揺らしながら、ゆっくりと頷き肯定してみせる咲夜に、颯太は今度は僅かに笑顔を見せた。
「俺はさ、感謝してるよ。あんな無責任な依頼人に振り回されて、辰臣さんが風邪なんか引かなくてホント良かったって。あの事実を教えて貰わなかったら、この人は徹夜してでもずっと居もしない猫を捜し回っていただろうし、俺はそれを止める術がなかっただろうからな」
「…颯太」
その言葉から己の日頃の行いを改めて認識したのだろう。
肩をすくめて見せる颯太に、辰臣は眉を下げて複雑な表情を浮かべた。
「そんなワケで、俺たちは月岡に救われたんだ。昔のランボーとの出会いも含めてな。だから、お前のことを『気持ち悪い』だなんて思う訳ないだろって言いたい」
そんな颯太の真っ直ぐな言葉に。
今まで押さえ込んでいた想いがあふれてきて。
気付けば、咲夜の頬を涙が伝っていた。
「わた、し…」
そんな風に自分のことを認めてくれる人たちがいるなんて思ってもみなかった。
母の時と同様に、返ってくるであろう拒絶と罵りの言葉を覚悟していたのに…。
「気持ち悪くなんかないよ」
そう真顔でしっかりと言い放ち一旦区切ると、言葉を続ける。
「僕は昔の…ランボーのことがあるから咲夜ちゃんに何か不思議な力があることだけは分かっていたけど。でも、そんなキミの能力に憧れこそあっても気持ち悪いだなんて少しも思ったことはないよ。寧ろ、こんな風に再会出来て色々な話がまた出来て、何かしらの縁を感じて僕は嬉しかったんだ」
そんな辰臣の独白のような言葉に、咲夜は心底驚いたような表情を見せている。
辰臣は、そこでやっと笑顔を見せると再び口を開いた。
「咲夜ちゃんがそんな風に動物や人の気持ちが分かってしまうのは、きっとそれだけ人一倍周囲に気を配っているからなんだと思う。他人の事なんて何も気にしない人にそんな能力はそもそも必要ないし、例え能力を持ち合わせていたとしても、それこそ気に留めることもないだろうからね。その場合、能力は『ない』ことと同じなんだ」
辰臣は、いつの間に来ていたのか自分の足元で尻尾を振りながらこちらを見上げているランボーをそっと抱え上げると、優しく撫でながら「これは、あくまでも僕の持論なんだけど…」と、続けた。
「この仕事をしていて僕は日々感じているんだけど、動物たちって本当に正直で繊細なんだ。僕らが傍から見ていても分からないような人の内面を感じ取ることが出来るんだよ。どんなに動物好きをアピールしていても、笑顔を見せて装っていようとも、彼らにはそんな人の内面の微かな心の揺れや乱れなんかが伝わってしまう。だから、キミが心優しい誠実な人なんだってことは、ランボーたちの反応を見ていれば全部分かっちゃうんだよ」
そう辰臣が言い終わると同時に、まるでそれに同意するかのようにランボーが「わんっ」と一声上げた。辰臣の腕の中から咲夜を振り返るように見つめ、嬉しそうに尻尾をフリフリと振っている。
「ほらね。ランボーもその通りだって言ってるよ。僕には実際にランボーの気持ちを言葉として理解することは出来ないけれど、今のは僕の意見に賛同してくれたんだってことだけは自信を持って言えるよ」
一緒に過ごしてきた年月は、やはりダテではないのだろう。そう自信満々に笑顔を見せる辰臣の腕の中のランボーからは『そのとおり!』といった感じの心の声が聞こえてくる。息はピッタリだ。
ランボーからは『えっへん』と胸を張るような得意げな様子さえ伝わってきて、その可愛さに思わず小さく吹き出しそうになって。それと同時に涙がにじんできてしまい、咲夜はそれが零れないように瞬きを繰り返していた。
そんな様子を眺めていた辰臣は今度は少しだけ眉を下げると「僕は…さ」と、ぽつりと呟いた。
「僕は仕事柄、困っていたり苦しんでいる動物たちと出会うことが多いから、いつだって彼らが少しでも楽になれるように気持ちを汲み取ってあげたいって思っているんだけど。でも、それを知る能力は僕にはないから。だからね、実は少しだけ咲夜ちゃんが羨ましいと思っていたんだ。咲夜ちゃんは咲夜ちゃんなりに色々な苦悩があるんだろうに、無責任でごめんね」
まさか自分の苦しみに気付いてくれる人たちがいるなんて思ってもみなかった。
辰臣は何も悪くないのに。咲夜は申し訳なさそうに謝罪を口にする辰臣に、ふるふると首を振ることでそれを否定する。
「でもさ、それだけ咲夜ちゃんには他の者たちの気持ちを受け止める器があるってことなんだと僕は思うな。…っていうか、颯太。お前も黙ってないで何とか言ったらどうなの」
一人で語っていたのが急に恥ずかしくなったのか辰臣は、ずっと横で沈黙を続け二人の様子を見守っていた颯太を小突きながら話を振ってきた。
それを颯太はニヤリと受け止めると、
「もう辰臣さんが上手くまとめてくれたから俺の出る幕なんてないだろーけどな」
そう言いながらも今度は咲夜にいくらか真面目な視線を向けた。
「お前が今までその能力があることで、どんな思いをしてきたのかは知らないけど…。昨日のことは、本当ならお前は知らないふりをすれば済んだことだろ。そうすれば、わざわざ俺にカミングアウトする必要も無かったし、その後も平然と過ごせたハズだ。でも、そうしなかったのは…雨の中捜し回ってる辰臣さんを心配してくれたから、だよな?」
そう一旦区切ると。不安気な瞳を揺らしながら、ゆっくりと頷き肯定してみせる咲夜に、颯太は今度は僅かに笑顔を見せた。
「俺はさ、感謝してるよ。あんな無責任な依頼人に振り回されて、辰臣さんが風邪なんか引かなくてホント良かったって。あの事実を教えて貰わなかったら、この人は徹夜してでもずっと居もしない猫を捜し回っていただろうし、俺はそれを止める術がなかっただろうからな」
「…颯太」
その言葉から己の日頃の行いを改めて認識したのだろう。
肩をすくめて見せる颯太に、辰臣は眉を下げて複雑な表情を浮かべた。
「そんなワケで、俺たちは月岡に救われたんだ。昔のランボーとの出会いも含めてな。だから、お前のことを『気持ち悪い』だなんて思う訳ないだろって言いたい」
そんな颯太の真っ直ぐな言葉に。
今まで押さえ込んでいた想いがあふれてきて。
気付けば、咲夜の頬を涙が伝っていた。
「わた、し…」
そんな風に自分のことを認めてくれる人たちがいるなんて思ってもみなかった。
母の時と同様に、返ってくるであろう拒絶と罵りの言葉を覚悟していたのに…。
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