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第4話 現状
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貴族街のさらに先――各国の王族が住居を構えるエリア――別名キングストリート。
その中でも一際巨大な建物。そこがこれから俺が暮らす家なのだが、大き過ぎる。
家にたどり着くとレベッカが笑顔で出迎えてくれたのだが、その相貌は少し疲れているように窺えた。
広すぎる屋敷にレベッカと2人だけというのはさすがに無理があったか。
そもそもこれから暮らす家がこんなに大きなお屋敷だと思っていなかった。
と、いうのも、これからレベッカが一人でこの家の一切を行なわなければいけない。
いくらなんでもそれは無茶だろう。
俺も掃除くらいなら出来ると思い、手伝うと申し出たのだが断られてしまった。
当然と言えば当然か。
俺はこの国の王子なのだから、俺が自ら掃除をしてしまってはレベッカの立場がない。
そんなことがもし王宮に知られてしまえば、レベッカが処罰を受けてしまうかもしれないからな。
頃合いを見計らって求人でも出してみるか。この街で暮らす者を雇うなら、きっと物語には影響はでないはずだ。
食事を済ませた俺は自室のベッドに飛び込んだ。同時に長い溜息が喉の奥から漏れてしまう。
考えるのは昼間に出会ったレイラ・ランフェストのことと、その従者と思われるエルザのこと。
彼女が言っていた帝国がアメストリアにした仕打ちというのは何なのだろうか。
その出来事がバッドエンドに繋がることは明白で、逆に言ってしまえば、それを変えることができたら皆が笑って暮らせるようになるんじゃないだろうか?
戦争を回避するためにも、帝国とアメストリアの歴史を知らなければいけない。
が、困った。俺(ジュノス)が記憶を取り戻したのはつい先日のことであり、それまでの俺はゲームの主人公ジュノス・ハードナーの意思で動いていた。
そんなエチエチ三昧だった俺がこの世界の歴史を勉強しているはずもなく、知ろうにもどうすればいいのかさっぱりわからない。
――コンコン。
「はい」
――ガチャッ!
「ジュノス王子、お茶をお持ちしました」
やって来たのはレベッカで、彼女が押して来たバーカートにはティーセットが乗せられている。
大理石のテーブルに高級感漂うソファ。そこに腰掛けてレベッカの淹れてくれたアールグレイを傾ける。
ベルガモットで柑橘系の香りをつけた紅茶は、憂鬱に沈んでいた心を優しく癒してくれる。
心がポカポカしてきた俺は、恥を忍んでレベッカにアメストリアと帝国の関係を尋ねてみた。
「アメストリアですか……。アメストリアとは、元は移民達によって築かれた国だと聞いたことがあります」
「移民?」
「はい、まだ帝国が戦争をしていた時代。多くの国々が焼き払われ、住む場所を失った多くの民が移り住んだのがアメストリアです。アメストリアと帝国の間には領土契約というものが存在すると言われています」
「領土契約? それはどんな契約なんだ?」
「元々アメストリア国の領土は、帝国が旧アメストリア国から奪い取った土地でして、その土地を今のアメストリア国に貸している状態のことを領土契約と言います。領土契約の内容は確か……アメストリアの領土と人口に見合った金銭をリグテリア帝国に納めるというものです。その他にも貿易法と言うのがありまして……」
俺はレベッカの話しを聞いて、開いた口が塞がらなかった。リグテリア帝国はとんでもなく無茶苦茶な条件をアメストリアに一方的に押しつけていたんだ。
領土契約によってアメストリア民は毎年、膨大な税金を帝国に支払い続けている。
これが一番の原因で、アメストリアの民は貧困から脱せずにいた。
さらに、問題はそれだけではなく。帝国が定めた貿易法によると、帝国からアメストリアに物を運ぶ際に、賃金は一切取ってはいけない。しかし、アメストリアから帝国に輸出される物には莫大な税がかかるというのだ。
これではまるで帝国は世界独裁国ではないか!?
レイラやエルザが帝国に怒りを募らせる訳だ。
こんなことをずっとしていれば、ゲームで各国が反乱を起こすのも当然だ。帝国は世界の敵でしかないのだから。
だが、それでは困る。
帝国が世界から尊敬されるとまではいかなくても、好かれる国に改革していかなければ、いずれ滅びの道を辿ってしまう。
そうなれば、王族である俺の人生はバッドエンド――処刑コース確定となる。
ただ単に王位を放棄すれば最悪が回避されると思っていたが、一筋縄ではいかないという現実を突きつけられてしまう。
先ほど以上に頭を抱えてしまった俺に、レベッカがお茶のお代わりは? と、尋ねてくる。
「いや、もう十分だよ。ありがとう」
「では、就寝なさいますか?」
「そうだね。明日は入学式だし、そろそろ寝ようかな」
今は考えていたって仕方ない。アメストリアの人々が笑って暮らせるようになる方法を見つけるには、まだしばらく時間がかかりそうだ。
「って、何してるのレベッカ!?」
「へ? 何って……脱いでいるのですが?」
レベッカが突然衣服を脱ぎ始めている。意味がわからず硬直していると、
「ジュノス様の身の回りのお世話をするように言い付かっておりますので、もちろん夜伽のお相手もするようにと」
「だだだ、誰がそんなことを言ったんだ!?」
「はい? グゼン・マルスロッド様でございますが?」
クソッ、あのバカ大臣か!?
一体何を考えてんだよあのバカはッ!!
「あ、あのね、レベッカ……そういうことは本当に好きな人ができた時まで取っておくものだよ。女性が無闇に男性と閨を共にするものじゃない」
「わわわ、私そんなに魅力がないですかっ!?」
うわぁぁああああああ!? なんでそうなるの!
瞳を潤ませて抱きついてくるレベッカの上目遣いに、メガトンパンチを食らったように脳が揺れる。
見事な谷間とキュートな純白の下着……いかん! 俺は変わるのだ!
興奮し過ぎてアドレナリンが爆発寸前の中、理性でそれを抑えつける!
30過ぎのおっさん……じゃなくて、15歳の思春期の俺には刺激が強すぎる!
理性を保ている内にレベッカを部屋から追い出さなくてはっ!
俺はレベッカを横に座らせて、着ていた衣服をそっとかけてあげる。それから落ち着くように優しく声をかけ、目の前の少女の手をそっと握りしめた。
「そうじゃないよ! レベッカはとても可愛らしくて魅力的な女の子だよ。だけどね、俺はレベッカには幸せになってもらいたいんだ。命令されたから……誰かにそうしろと言われたからするのではなくて、レベッカが心の底からそうしたいと思った相手にしてあげて欲しいんだ」
「…………」
それにしても随分と手が荒れてるな。本来おっさんの俺からしたらこんな年端もいかない少女の手が荒れているのを見てしまうと、居た堪れなくなってしまう。
「あっ、そうだ!」
俺は部屋にあったハンドクリームを手に取って、レベッカの手に塗り広げる。
これで少しは肌荒れを抑えられるだろう。
本当は魔法が扱えたら良かったのだけれど、俺にはこんなことしかしてあげられない。
「あっ……」
「ん……!?」
声につられて顔を上げると、レベッカがポロポロと涙を零して泣いていた。
やっぱり断ったのが女性のプライド的なのを傷つけてしまったのだろうか?
あたふたする俺に、レベッカは泣きながら微笑んでいた。
「ごんなに、やざじぐされだのは……はじめででず」
「えっ!?」
「わだじ、ごじで、ずっと一人だっだがら……」
そっか、そうだよね。こんなに若いのに王宮に使えるメイド見習いになるくらいだもんね。
「よく頑張ったね」
歳かな? 涙腺が緩み、親の気持ちになってしまう。
前世ではもちろん子供なんて居なかったのだが……なんかほっとけないな。
――ボッ!
優しく頭を撫でてあげると、なんかレベッカの頭から湯気が噴き上がってきたけれど大丈夫なのだろうか? それに、熱があるのか顔が真っ赤だ。
過労かな? きっと働き過ぎたんだろう。
「さぁ、今日は沢山働いたから疲れたろ? レベッカも自分の寝室でお休み」
「…………はい」
涙を拭ったレベッカの笑顔が眩しいな。元気になってくれて本当に良かった。
一時は罪悪感みたいな何とも言えない感情が胸の中で渦を巻いていたけれど、納得してくれたみたいで一安心だ。
地位とか立場で女性の尊厳を軽んじてはならない。女性は敬わなくてはならない存在なのだから。
彼女の誇りを守ってあげることも、主人としての義務だろう。
レベッカにはちゃんと幸せになってもらいたいな。こういうのを親心っていうのかな?
「さてと、俺も明日は早いし、そろそろ寝るか」
明日の入学式でレイラに会ったら、何て声をかけたらいいのだろう? そんなことを考えている内に、いつのまにか俺は眠りについていた。
その中でも一際巨大な建物。そこがこれから俺が暮らす家なのだが、大き過ぎる。
家にたどり着くとレベッカが笑顔で出迎えてくれたのだが、その相貌は少し疲れているように窺えた。
広すぎる屋敷にレベッカと2人だけというのはさすがに無理があったか。
そもそもこれから暮らす家がこんなに大きなお屋敷だと思っていなかった。
と、いうのも、これからレベッカが一人でこの家の一切を行なわなければいけない。
いくらなんでもそれは無茶だろう。
俺も掃除くらいなら出来ると思い、手伝うと申し出たのだが断られてしまった。
当然と言えば当然か。
俺はこの国の王子なのだから、俺が自ら掃除をしてしまってはレベッカの立場がない。
そんなことがもし王宮に知られてしまえば、レベッカが処罰を受けてしまうかもしれないからな。
頃合いを見計らって求人でも出してみるか。この街で暮らす者を雇うなら、きっと物語には影響はでないはずだ。
食事を済ませた俺は自室のベッドに飛び込んだ。同時に長い溜息が喉の奥から漏れてしまう。
考えるのは昼間に出会ったレイラ・ランフェストのことと、その従者と思われるエルザのこと。
彼女が言っていた帝国がアメストリアにした仕打ちというのは何なのだろうか。
その出来事がバッドエンドに繋がることは明白で、逆に言ってしまえば、それを変えることができたら皆が笑って暮らせるようになるんじゃないだろうか?
戦争を回避するためにも、帝国とアメストリアの歴史を知らなければいけない。
が、困った。俺(ジュノス)が記憶を取り戻したのはつい先日のことであり、それまでの俺はゲームの主人公ジュノス・ハードナーの意思で動いていた。
そんなエチエチ三昧だった俺がこの世界の歴史を勉強しているはずもなく、知ろうにもどうすればいいのかさっぱりわからない。
――コンコン。
「はい」
――ガチャッ!
「ジュノス王子、お茶をお持ちしました」
やって来たのはレベッカで、彼女が押して来たバーカートにはティーセットが乗せられている。
大理石のテーブルに高級感漂うソファ。そこに腰掛けてレベッカの淹れてくれたアールグレイを傾ける。
ベルガモットで柑橘系の香りをつけた紅茶は、憂鬱に沈んでいた心を優しく癒してくれる。
心がポカポカしてきた俺は、恥を忍んでレベッカにアメストリアと帝国の関係を尋ねてみた。
「アメストリアですか……。アメストリアとは、元は移民達によって築かれた国だと聞いたことがあります」
「移民?」
「はい、まだ帝国が戦争をしていた時代。多くの国々が焼き払われ、住む場所を失った多くの民が移り住んだのがアメストリアです。アメストリアと帝国の間には領土契約というものが存在すると言われています」
「領土契約? それはどんな契約なんだ?」
「元々アメストリア国の領土は、帝国が旧アメストリア国から奪い取った土地でして、その土地を今のアメストリア国に貸している状態のことを領土契約と言います。領土契約の内容は確か……アメストリアの領土と人口に見合った金銭をリグテリア帝国に納めるというものです。その他にも貿易法と言うのがありまして……」
俺はレベッカの話しを聞いて、開いた口が塞がらなかった。リグテリア帝国はとんでもなく無茶苦茶な条件をアメストリアに一方的に押しつけていたんだ。
領土契約によってアメストリア民は毎年、膨大な税金を帝国に支払い続けている。
これが一番の原因で、アメストリアの民は貧困から脱せずにいた。
さらに、問題はそれだけではなく。帝国が定めた貿易法によると、帝国からアメストリアに物を運ぶ際に、賃金は一切取ってはいけない。しかし、アメストリアから帝国に輸出される物には莫大な税がかかるというのだ。
これではまるで帝国は世界独裁国ではないか!?
レイラやエルザが帝国に怒りを募らせる訳だ。
こんなことをずっとしていれば、ゲームで各国が反乱を起こすのも当然だ。帝国は世界の敵でしかないのだから。
だが、それでは困る。
帝国が世界から尊敬されるとまではいかなくても、好かれる国に改革していかなければ、いずれ滅びの道を辿ってしまう。
そうなれば、王族である俺の人生はバッドエンド――処刑コース確定となる。
ただ単に王位を放棄すれば最悪が回避されると思っていたが、一筋縄ではいかないという現実を突きつけられてしまう。
先ほど以上に頭を抱えてしまった俺に、レベッカがお茶のお代わりは? と、尋ねてくる。
「いや、もう十分だよ。ありがとう」
「では、就寝なさいますか?」
「そうだね。明日は入学式だし、そろそろ寝ようかな」
今は考えていたって仕方ない。アメストリアの人々が笑って暮らせるようになる方法を見つけるには、まだしばらく時間がかかりそうだ。
「って、何してるのレベッカ!?」
「へ? 何って……脱いでいるのですが?」
レベッカが突然衣服を脱ぎ始めている。意味がわからず硬直していると、
「ジュノス様の身の回りのお世話をするように言い付かっておりますので、もちろん夜伽のお相手もするようにと」
「だだだ、誰がそんなことを言ったんだ!?」
「はい? グゼン・マルスロッド様でございますが?」
クソッ、あのバカ大臣か!?
一体何を考えてんだよあのバカはッ!!
「あ、あのね、レベッカ……そういうことは本当に好きな人ができた時まで取っておくものだよ。女性が無闇に男性と閨を共にするものじゃない」
「わわわ、私そんなに魅力がないですかっ!?」
うわぁぁああああああ!? なんでそうなるの!
瞳を潤ませて抱きついてくるレベッカの上目遣いに、メガトンパンチを食らったように脳が揺れる。
見事な谷間とキュートな純白の下着……いかん! 俺は変わるのだ!
興奮し過ぎてアドレナリンが爆発寸前の中、理性でそれを抑えつける!
30過ぎのおっさん……じゃなくて、15歳の思春期の俺には刺激が強すぎる!
理性を保ている内にレベッカを部屋から追い出さなくてはっ!
俺はレベッカを横に座らせて、着ていた衣服をそっとかけてあげる。それから落ち着くように優しく声をかけ、目の前の少女の手をそっと握りしめた。
「そうじゃないよ! レベッカはとても可愛らしくて魅力的な女の子だよ。だけどね、俺はレベッカには幸せになってもらいたいんだ。命令されたから……誰かにそうしろと言われたからするのではなくて、レベッカが心の底からそうしたいと思った相手にしてあげて欲しいんだ」
「…………」
それにしても随分と手が荒れてるな。本来おっさんの俺からしたらこんな年端もいかない少女の手が荒れているのを見てしまうと、居た堪れなくなってしまう。
「あっ、そうだ!」
俺は部屋にあったハンドクリームを手に取って、レベッカの手に塗り広げる。
これで少しは肌荒れを抑えられるだろう。
本当は魔法が扱えたら良かったのだけれど、俺にはこんなことしかしてあげられない。
「あっ……」
「ん……!?」
声につられて顔を上げると、レベッカがポロポロと涙を零して泣いていた。
やっぱり断ったのが女性のプライド的なのを傷つけてしまったのだろうか?
あたふたする俺に、レベッカは泣きながら微笑んでいた。
「ごんなに、やざじぐされだのは……はじめででず」
「えっ!?」
「わだじ、ごじで、ずっと一人だっだがら……」
そっか、そうだよね。こんなに若いのに王宮に使えるメイド見習いになるくらいだもんね。
「よく頑張ったね」
歳かな? 涙腺が緩み、親の気持ちになってしまう。
前世ではもちろん子供なんて居なかったのだが……なんかほっとけないな。
――ボッ!
優しく頭を撫でてあげると、なんかレベッカの頭から湯気が噴き上がってきたけれど大丈夫なのだろうか? それに、熱があるのか顔が真っ赤だ。
過労かな? きっと働き過ぎたんだろう。
「さぁ、今日は沢山働いたから疲れたろ? レベッカも自分の寝室でお休み」
「…………はい」
涙を拭ったレベッカの笑顔が眩しいな。元気になってくれて本当に良かった。
一時は罪悪感みたいな何とも言えない感情が胸の中で渦を巻いていたけれど、納得してくれたみたいで一安心だ。
地位とか立場で女性の尊厳を軽んじてはならない。女性は敬わなくてはならない存在なのだから。
彼女の誇りを守ってあげることも、主人としての義務だろう。
レベッカにはちゃんと幸せになってもらいたいな。こういうのを親心っていうのかな?
「さてと、俺も明日は早いし、そろそろ寝るか」
明日の入学式でレイラに会ったら、何て声をかけたらいいのだろう? そんなことを考えている内に、いつのまにか俺は眠りについていた。
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