悪役王子~破滅を回避するため誠実に生きようと思います。

葉月

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第28話 交渉とお手製回復薬

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「我が国に蔓延るあの植物をそなたが除去すると……? そう申すか!」

「ええ、そのつもりで参りました。陛下」

 その眼が俺に訴えかけるのは……疑心、と言ったところか。
 信じてくれと言ったところで信じられる訳なんてないよな。

 なんたって俺は帝国……あなた方から血税を奪い取る悪魔の王子。
 言わば世界を代表する悪役王子なんだ。

「して、その目的は?」

「目的……ですか?」

「ジュノス殿下が我が国に手を差し伸べるられるのには、それ相応の利点があるからとお考えでは? まさか、リグテリア帝国次期皇帝の座に最も近いと名高いかの第三王子、ジュノス・ハードナー殿下が善意で人助けをするとは……誰も考えますまい。儂もそこまで耄碌もうろくすまい」

 なるほど……って、俺ってどんだけ悪役キャラなのさ。
 いや、俺というよりはリグテリア帝国か……。

 慈善団体を設立したのでその一貫で、なんて言ってしまえば……却って怪しまれ犬を追い払うように追い出されかねないな。
 ここは……適当な理由をこじつけるしかないか。

「もちろん、理由ならございます」

「して、その理由とは?」

「はい、一つは……魚を輸入して頂きたい」

「魚?」

「ええ、聞くところによるとアメストリア国は食糧難とお窺いしております。その理由としましては、無理な作物の栽培により大地が痩せてしまったため。それを解消するためには、一度大地に十分な休息を与える必要があるのでは? しかし、そのような悠長なことを言っていられる場合でもありません。食糧難は大問題です」

「ふむ、確かに」

 うん、食いついてきたな。
 第一関門突破と言ったところか。

「そこで、私は四季を問わず得られる海の幸を破格の値段でアメストリア国に買っていただきたいのです」

「破格……なぜそのような真似を?」

「御存知ですか、陛下。この世界の人々はほとんど魚介を食すことがありません。それは単にそれらを食べる習慣がないからなのです。そこで、アメストリア国民に魚は美味しいということを広めて頂きたいのです」

「して、その意味は?」

「もちろんございます。ここに居られますはオルパナール国第一王子とその妹君、彼らは海住連合という漁業組織を持っております。私は彼らと商売をしているのですが、商売をする上で必要なのは顧客です」

「なるほど。我が国アメストリアに取り引き先になるように……と、いうことですかな」

「その通りでございます。そうすることによって、私の商売は軌道に乗り、彼らオルパナールも今以上に利益をあげられ、尚且つアメストリア国は食糧難を打破できます。これは三者に取って意味のあることかと?」

 つまり、WINWINの関係だ。
 
 人は無償の善意を疑うことはあれど、こちらにもメリットがあると判断したら、警戒心を解くことがある。
 そして、アメストリアの国王陛下ならばきっと深読みする。
 ここで一番得をするのは他ならぬ俺自身だと。

 そう、結局一番得をするのは他ならぬ革命軍……つまり俺なのだ。
 そう誤認してもらうことによって得られる信頼もある。

 破格の値段と言った言葉にも裏があると深読みし、きっと陛下はこう考えているはず。
 遠回しに魚が美味いと他国に見聞しろと……ね。

 そうすることで、海が近くにない他国は嫌でも俺から魚を買わなくてはならない。
 つまり、商売のために俺がアメストリアを利用していると考えるはずだ。

「して、他にもまだあるのでは?」

「ええ、もちろん。私は商売を始めるに至って、革命軍という名の組織を設立しました。この革命軍がアメストリアで自由に商売できるように特権を与えて欲しいのです」

 国王陛下自らの特権を得られれば、アメストリアのスラムを救うことは容易い。逆に、国王陛下からそれが得られなければ帝国は救えても他国は救えない。
 もっと言ってしまえば、アメストリアで成果を上げることができれば他国にもそれは嫌でも伝わる。
 そうなれば、今後革命軍が動きやすくもなる。

 バッドエンドを回避するためには貴族でも王族でもなく、民衆を味方につければいいのだ。
 アメストリアの民に友好的だと思われれば、最悪は回避できるはず。

「話しはわかった。だが、お断りしよう!」

「…………断る?」

 なぜだ? 何か失敗したか?

「理由を聞いても宜しいですか?」

「我が国には時間がない。ジュノス殿下が帝国の力を持ってすれば、あの植物を駆除することは容易だろう。しかし、それはいつになる? 一月か……或いは三月か? 我々にはもう時間がないのだ」

「しーしっしっしっ。ライン国王陛下の仰る通り。ジュノス殿下では時間がかかり過ぎ、この国が手遅れになりかねますまい。その点、私達レヴァリューツィヤならば、一月とかからず駆除してみせましょう!」

 なるほど、時間ね。
 俺がどの程度でこの国を救えるのかわからない。
 つまり、期限がはっきりしなければ承諾できないと言うことですね。了解です。

「明日……私が明日一日であれを綺麗さっぱり取り除いて差し上げましょう!」

「バカなっ!? デタラメですぞ、陛下!」

「デタラメも何も、明日あれを俺が駆除できなければ、レヴァリューツィヤ国――セルバンティーヌ・マッコル・ノイッティシュさんが、駆除なされれば良いことでは?」

「一日で……あれを?」

「ええ、さらに、アフターケアもさせて頂きますよ! アメストリアの民は現在体力を失い、脱水症状に似た症状が発生している。違いますか?」

「ああ、その通りだ」

「喰魔植物を駆除したところで、民が衰弱死しては元も子もありません。しかし、私ならすべて丸っと救ってみせましょう!」


 こうして、俺は猶予期間一日を手に入れることに成功した。

「待ちなさい!」

 国王陛下が用意して下さった部屋へ移動しようと廊下を歩いていると、追いかけて来たレイラに呼び止められてしまった。

「どうかした?」

「どうかって……あなた正気ですの! アメストリアがどうにもすることの出来なかったあれを……明日一日で取り除くなんて!」

「うん、取り除くよ!」

「……あなたのその自信は何なのです!」

「言ったはずだよレイラ。俺は丘の向こう側を君とも見に行きたいと」

「正気……ですの?」

「もちろん! そのために、レイラにも一つお願いがあるんだけど……」

「お願い……?」


 陛下に用意して頂いた部屋で寛いでいると、

「しかし、ジュノスは凄いな。まさかあの状況で俺達海住連合のことまで考えてくれているとは」

「まさに、ジュノは神の使いだな!」

 おい、何かとんでもない勘違いをしていないか? つーか、神の使いってなに?
 変な噂広めないでよ。

「でも、本当に大丈夫なのですか? ジュノス殿下」

 うーん、レベッカが心配するのもわかるが、これは単なるクソイベントだしな。
 それよりも、アメストリア民の衰弱を何とかする方が……骨が折れそうだな。

 まっ、クレバに頼んだし何とかなるか。

「まぁ問題ないかな」

「しかしだな、ジュノス。衰弱しきった者達を回復させることは可能なのか?」

「兄上の言う通り、いくらなんでも無茶じゃないか?」

「ああ、それなら一週間もあれば回復するんじゃないかな?」

 ――コンコン!

 おっ、レイラとエルザに頼んでおいた物がやって来たかな。

「持って参りましたわよ。で、こんな物をどうすると言うのですか?」

「回復薬を作るんだよ!」

「か、回復薬……これでですか?」

「あなた頭がおかしいのでは? どこの世界に水、砂糖、食塩と果実で回復薬を作れると言うのですか! あなたを少しでも信用した私が愚かでしたわ!」

「まぁまぁ、そう言わないで見ててよ」

 さてと、あれを作るか。
 まずは一リットルくらいで試すか。

 1000ccの水を沸騰させ冷まし、その中に砂糖40g(大4と2/1)、食塩3g(小2/1)を良く溶かす。
 飲みやすい温度まで冷ますと、お好みでレモンやグレープフルーツを適量絞って飲みやすく味を整える。

 うん、これで完成だ。

「何ですの……その液体は?」

「俺特製回復薬、OS1だ!」

「「「「「OS1?」」」」」

「このOS1は、電解質と糖質の配合バランスを考慮した経口補水液だよ。軽度から中等度の脱水状態の者の水と電解質を補給、維持するのに適した病者用食品。感染性腸炎、感冒による下痢、嘔吐、発熱を伴う脱水状態、高齢者の経口摂取不足による脱水状態、過度の発汗による脱水状態等に適した飲み物だ!」

「で、デタラメよ! こんなどこにでもある材料でそんなに都合のいい物が作れるなんて……信じられませんわっ!」

 俺が居た前世では常識なんだけどな。
 風邪を引いた時には俺もよく飲んだものだ。

「まぁ、試しに飲んでみてよ!」

「嫌よっ!」

「では、私が」

「ちょっとエルザ!?」

「私が頼んだのですから、これくらいの毒味は……」

「エルザ……」

 おい、今の材料のどこに毒なんてあったんだよ! こいつら失礼過ぎるだろ!

「お、美味しい!」

「だろ?」

「一口飲んだ瞬間、体中の細胞に溶け込んでいくような優しさ、まるで太古の時代――まだ人類が海で過ごしていた頃に戻ったような感覚です!」

 いや、大袈裟過ぎるだろ!
 どこの料理漫画だよ! 俺はミ◯ター味っ子かっ!

 それともおあがりよ! と、松◯くんばりに言えばいいのか?
 その場合エルザの衣服ははち切れたりするのかな?

「まぁ……果汁で味付けしてあるから、小さなお子さんでも飲みやすくなっているからね。レイラも飲んでみたら?」

「……では、一口…………っ!?」

 うん、美味かったようだな。

 その後、風呂上がりのステラがOS1をがぶ飲みしてしまった。
 OS1は少しずつ飲まなければ逆効果なのに……人の話しを聞かない奴だな。

「なぁジュノス、オイラは嘘つきじゃないんだよな!」

「ああ、アゼルは嘘つきじゃないよ! それを証明するためにクレバにオール草を持ってくるように頼んだんだからな」

 万が一、OS1で症状が改善しない重度の患者を見越して、俺は帝国に伝わる秘宝、オール草を取ってくるようにクレバに頼んである。
 ついでに、マーカスの力も借りるように伝言を頼んだ。


 あとは明日、ステラの聖女誕生イベントをこなすだけだ。
 正直楽勝だな。

 度肝抜かしてやるぜ、セルバンティーヌ・マッコル・ノイッティシュ!!
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