貧乏国家のクズ王子~国家建て直しのため魔王軍に入った俺が天才と呼ばれ始める。

葉月

文字の大きさ
27 / 45

第27話 余計な一言

しおりを挟む
 翌朝――『木漏れ日亭』を出て里の中央広場にやって来た俺の前には、すでに数百もの戦士たちがずらりと並び立っていた。

 大剣や長剣、弓に槍など多種多様な武器を携えたエルフたち。騎士の一等星の精悍な顔がそこにある。囚われたドライアドたちを救い出したいという意志がひしひしと伝わってくる。

 エルフたちが考えたドライアド救出作戦は、あらかじめエルビン国内にセットしておいたゲートから侵入を果たし、彼女たちが囚われている搭へ侵入するというもの。

 しかし、作戦遂行までに時間を有してしまえば、その時点でエルビン国の膨大な兵が集まってくるだろう。そうならないためにも迅速かつ正確にドライアドを救出し、急いで撤退しなければならない。

 ようは即座に撤退する戦術――ヒットアンドアウェイ戦術を行うというものである。

 この戦術においてもっとも重要となる要素の一つが、情報伝達のスピードだ。
 ドライアドを救出したことをすべての仲間に伝え、尚且つ即座に撤退の意を伝えなければならない。
 少しでも情報伝達に支障をきたせば、危険な状況に陥ってしまいかねないからだ。

 常に正確な情報を共有するために、エルフたちは言の葉を用いた魔法を行使するという。
 が、それではまだ足りない。

 常識的に考えて、突然町の外に武装した数百ものエルフが確認されれば、その時点で見張りから各兵に伝達が行き渡り、町へ侵入を果たすことすら困難となる。
 仮に町へ侵入を果たしたとしても、その時には町の警備は数段強固なものとなっているだろう。

 その中でドライアドが囚われている搭へ侵入し、救出するとこは限りなく困難であると考えられる。

 そこで、俺は提案する。

「先に俺とフォクシー、それにユニがゲートを通りエルビン国へ向かいます。エルフの皆さんはユニからの連絡があり次第、ゲートを通り町への侵入を行ってください」
「失礼ですが……いくら偉大なる王といえど、敵の目を撹乱することは不可能では? 我々が攻めいるのは敵国なのですよ」
「確かに、普通の者ならば敵国へ単身乗り込み、彼らの注意を別の場所へ向けることは困難でしょうね。しかし、私は偉大なる王ですよ?」

 余裕の微笑みとともに泰然と言ってのける。
 そうすることで彼らの胸の中に芽生えたわずかな不安を霧散させると同時に、俺が如何にすごい人物であるかを頭の中に叩き込む。

 ミラちゃん凄い! となれば彼らは今後、敬意や感服の念から絶対に俺を裏切らなくなる。
 国や民が俺に不信の念を抱いたとしても、結局最後には従う。

 それはこれまでの実績がミラスタール・ペンデュラムというカリスマ性を燦然と輝かせ、必要だということを心のどこかで皆が感じているからだと思われる。

 彼らもこのドライアド救出作戦を通して、真のカリスマなくしては平和は手に入らないと思い込むように、絶対的なカリスマ性を見せつけてやらねばならない。
 それこそが人心掌握――完全なる支配なのだ。

「わかりました。あなたは魔王が泣きついた程のお方、あなたの手腕を信じましょう」
「うん。俺の手にかかれば彼らの目を欺くなど、エルフが山菜を摘みに森へ赴くようなものさ」

 目尻に皺を作ったエルフたちの表情が、本来の穏やかなものへと変わっていく。兵の不安を拭い士気をあげる。
 これもカリスマ性のある俺だからこそ成せる技なのだ。

 まったく緊張感に欠けていては使い物にならないが、強張った心と身体では上手く戦場を駆け抜けられなくなる。適度なガス抜きは事を円滑に進めるために必要なことだと考えている。
 これが俺なりのやり方だ。

「話が済んだようじゃな」
「なら作戦開始と行こうぜ、相棒!」
「スケベなボクもご主人さまのために頑張るよ!」
「…………っ!?」

 ユニが突然変なことを言い出すから、心臓が止まりかけたじゃないかっ!
 しかもエルフのみんながギョッと我が目を、耳を疑うようにユニと俺を交互に見ている。

 まずいっ!? せっかくここまで順調だったのに、不審に思われちゃうじゃないか。

「あ、あの……」

 戦士長のお姉さんが戸惑いの声音を発している。誤魔化さないとっ!
 俺のカリスマ性が霧散霧消してしまうっ。体から剥がれ落ちていくオーラを捕まえてくっつけないとっ!

「ユ、ユニノジョークハ……アイカワラズオモシロイデース……」

 しまったぁぁあああああああっ!?
 動揺し過ぎて片言になってしまった。不覚だっ! ミラちゃんのお馬鹿ちゃんっっ!
 恐る恐るチラッとエルフたちを見やると、

「あ~なんだジョークか」

 笑っている……皆笑ってくれている。
 た、助かった……。

 まだ完璧に信頼を勝ち得ていないうちから変態さんを育ててしまったことがバレたら、せっかくの紳士的なミラちゃんのイメージが崩壊してしまうところだ。

 そうでなくてもエルフがエッチなことに疎いことは昨日の男たちの反応と、それを見た女たちの反応からも簡単に見てとれる。

 闇に生きる魔族とは違い、光の加護をその身に受けるエルフたちは純粋無垢だからな。
 ゆっくり性教育を施し免疫をつけていかないと、計画がパーになってしまう。

 ゴホンと気を取り直し、俺はみんなに「じゃあ行ってくるよ」と愛想笑いを浮かべて、魔方陣の上に立つ。


 オーロラみたいな光のカーテンが俺たちを包み込むと、俺は危なかったと盛大に嘆息してしまう。
 ミラちゃん危機一髪である。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...