貧乏国家のクズ王子~国家建て直しのため魔王軍に入った俺が天才と呼ばれ始める。

葉月

文字の大きさ
35 / 45

第35話 二人の野望

しおりを挟む
「うめぇええええええっ!? なんだこりゃ!?」
「これがこの値段で買えるのか!?」
「しかもこれを売るのは国だって言うじゃねぇか」
「ああ、売った利益で学校や孤児院を設立し、さらに売り上げが落ちた農民にも最低保証手当てが支給されるってんだから……信じられないよな」
「誰だよミラスタール陛下を愚王なんて言ったバカ野郎はっ!」
「愚王どころか賢王じゃねぇかっ」

 町を歩けば皆が跪き拝んでくる。
 一体何なんだこれは? 正直気持ち悪いな。

 それにあんなに小さな女の子まで跪いてるじゃないか……仕方ないな。

「ダメだぞ。こんなところで膝を突いたら膝小僧さんが黒ずんでしまうじゃないか」
「王さま……」

 大きくなったら美少女になるかも知れぬ逸材を、このようなところで傷物にするわけにはいかない。それは俺のポリシーに反することだ。

 小さな女の子を立たせて埃を払ってあげる。
 大きくなったらミラちゃんの夜のお相手をしてねと、気持ちを込めてしっかり叩き落とす。

「なんて謙虚でお優しいお方なんだ」
「私たちみたいな平民にもあのように……」
「本当に誰なんだよ、あの聡明なミラスタール王を愚王と罵ったバカ貴族はっ!」
「あのお方こそ、我らがペンデュラム国の救世主!」

 花にむらがる夏の蜂のように、一斉にウアーッと歓声を挙げる人々に戸惑い立ち止まってしまう。
 本当に一体全体どうなってしまったんだよ……この町の連中は。

「どうやら町の連中は相棒が打ち出した政策を随分歓迎しているみたいだぜ」

 町の連中の変化に困惑していると、マフラーと化したスリリンが愉快そうな声で話しかけてくる。

「それは当然だろ。美少女ちゃんたちの命を守ることは誰もが望むことだからな」
「でもよ、農民にまで最低保証手当てなんて出す意味があるのか?」
「農民の中にも美少女ちゃんはいるんだよ。魔界で収穫したあれを食べてしまったら、誰だって優先的にそちらを購入するだろ? すると売り上げが落ちてしまった農民出身の美少女ちゃんたちが飢えに苦しんでしまう可能性も否定できない。ただでさえ農民の暮らしは貧しいと聞いたことがあるしな」
「なるほど。スケベな相棒のスケベ欲がなぜかがっちり的を得てたってわけか」

 つい数ヶ月程前までうつむき、誰もがしかめっ面をぶらさげていたとは思えぬほど町が活気にあるれている。
 これが本当に我が国ペンデュラムの姿とは、にわかに信じられぬ程だ。

 それは町だけではない。
 城に戻りいつものように城内を闊歩していると、すれ違う侍女が丁寧に立ち止まって頭をさげる。
 彼女たちのこれほど穏やかな笑顔を見たことがあっただろうか?

 いや、侍女たちだけではない。
 当初魔族を国に招き入れたことに対し、納得いかないと反発していた文官や武官たちも皆、清々しい笑顔で恭しく頭をさげてくる。

「陛下、ミラスタール陛下!」

 はつらつとした声に名を呼ばれて振り返れば、そこにはにこやかに微笑む公爵令嬢、ユリアナ・アスタロッテの姿がある。

 はて……ユリアナはまだチャームの効果が切れていないのか? そんなに持続効果あったかな?

「陛下、素晴らしいお考えですわ!」
「はぃ?」

 突然ユリアナに両手を握られ、グッと胸元に引っ張られてしまった。
 ふわふわでぷにゅぷにゅの感触が手に当たる度、口元がお月さまのように引きあがる。
 ムフフ……である。

「陛下の打ち出した政策に、わたくしも深く感銘を受けたましたわ」
「そそ、そうか……ムフフ」
「そこで陛下にご相談がございます」
「うん、申してみよ♪」
「わたくしを新たに設立する学園の教員に任命してほしいのです!」

 公爵令嬢のユリアナが学校の教師……だと?

「なぜ? ユリアナは公爵家の人間なのだぞ? わざわざそのようなことをする必要がどこに?」
「わたくしは予てより女性の社会進出を強く訴えて参りました。その第一歩として男女問わず優秀な者を文官・武官に採用するという陛下のお考えに心を打たれたのです。そこで……」

 ユリアナは言葉を一旦区切り、何かを決意したように瞳が力を宿していく。
 そこで言うべき言葉を逡巡し、

「わたくしはペンデュラム国内において、女性の地位と向上を手助けをしたいのです!」

 芝居がかってるというか……なんか嘘臭いな。少し引っかけてみるか。

「本当にそれだけか? 本当はもっと別の目的があるんじゃないのか? 素直が一番だぞ、ユリアナ」
「……っう」

 顔が……頬がピクピク痙攣している。意外とわかりやすいやつだな。

「じ、実は……陛下もご存じの通り。この国……いいえ、どこの国においても女性が家督を継ぐことは許されません! 不公平ではありませんかっ。女に生まれたという理由だけで、家督さえも継ぐことができないなんてあんまりですわっ!」

 ああ、なるほど……そういうことか。
 つまりユリアナは優秀な女文官を自らの手で育て上げ、彼女らに女性の地位と向上について、徹底的に学ばせようと考えているらしい。

 即座の者が新たに設立された学校で教員を勤めても、結局は偏った教育思想を植えつけられてしまう。それでは従来までと何も変わらないと判断したのだ。

 そこで自ら教壇に立ち、一から女性の地位の向上を……最終目標である女性が家督を継げるための改革を行おうとしているのだろう。

「わかった。では新たに設立される教育機関に置いての全責任と権限をユリアナ・アスタロッテ――そなたに任命する」
「陛下っっ!!」

 ちょうど面倒臭いことは誰かに押しつけようと考えていたわけだし、やりたいと言うならやらせてやろう。
 それに、美少女を育てるのも美少女……これもまた一興ではないか!

 だから俺はこう付け加えた。

「その際、勉学だけに留まらず、女性としての振る舞いはもちろん、化粧の仕方など……女性らしさも徹底的に教え込むのだ、よいな!」
「もちろんですわ! 教養が身についても肝心の女性らしさが損なわれれば身も蓋もないありませんもの。必ずや我らがペンデュラム国を全女性が羨む華の都に変えてみせますわ!」
「素晴らしい! 素晴らしいいぞ、ユリアナ! そなたがそこまで……」
「当然ですは、陛下っ!」

 全女性が羨む国……そうなれば自ずと美少女ちゃんの方から我が国に、俺の側室になりたいとやって来るではないか。
 見事な名案だ、ユリアナ・アスタロッテよ!

 世界中の美少女を片っ端からペンデュラムに集めてくれるわ!
 そしてゆくゆくは……ムフフ。

「がっはははは!」
「オーッホホホ、ですわ!」


 俺とユリアナの密かなる野望が一致し、城内にはしばらくの間、高笑いが木霊したことは云うまでもない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...