7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍

文字の大きさ
15 / 100
天才公爵令息は、7番目の婚約者⁉

第15話

しおりを挟む
「私が生み出したモノを乗りこなしてくれるのはうれしいですが、もっと丁寧に扱っていただかないと」

「あなた……!」


 クリスティーナは目を見開き、己の手首を掴むと男を凝視した。
 視線が絡むと、男はニッと口の端を上げ、手首を掴まれたまま、ぐいっと引き上げられる。
 そのまま腰を抱かれて引き寄せられると、男が乗るカヴァルリーの前に乗せられた。


「ちょ……っ!?」


 後ろから抱きしめられるような格好に、クリスティーナは抗議するために声を上げかけた。
 しかし、被せるようにワイバーンがギャアッ、と短く吠えた。
 獰猛な視線で狙いを定めて、翼をばさりと羽ばたかせながら、こちらに向かって飛んでくる。
 はっと気がついたクリスティーナが、手元の黒いロッドを見るが、すでに元に戻っている。
 それでも応戦するために立ち上がろうとすると、無骨な掌でぐっと肩を押さえられた。


「操縦をお願いします」

「え!?」


 パッと手を離された操縦桿を、クリスティーナは慌てて握りしめる。
 手を離した本人はステップに軍靴を固定していたのか、すでに立ち上がっていた。
 男はワイバーンを睨みつけて何かを呟くと、男の拳からブンッと短い音が鳴り、同時に光を放つ。
 思わず振り返ったクリスティーナは、男の手にしているものを見て、目を瞠った。


「……魔刀アシュラだわ」


 男が握りしめている黒い柄の先に、魔力を帯びた長めの鋭い刀身が生成されている。まるで異国の地の文化にある刀のようだ。
 一直線に向かってくるワイバーンに対して、男はアシュラを構えた。
 そしてワイバーンに向って、八の字を描くようにすばやく刀を動かした。
 瞬間、刀身が三本に増え、ビュンッと鞭のようにしなる。
 三本の刀身が電光石火の勢いで、ワイバーンに喉に突き刺さった。
 ワイバーンがこれでもかと目をひん剝き、全身を痙攣させ、声もなく絶命する。
 その巨体は魔力の炎に焼かれ、塵となって消滅した。


(一瞬で殲滅したわ。すごい、これが魔刀アシュラなのね。初めて見たわ)


 魔導武器・魔刀アシュラは、扱いが難しいと言われている武器の一つだ。
 通常より魔力を多く使用するのと同時に、繊細なコントロールが必要とされる。
 しかし、その武器の威力は絶大だ。
 ほうと感嘆の溜息を零すと、魔導武器を元の黒いロッドに戻した男と目が合った。
 男がふっと笑うと、あっという間にクリスティーナの背後に座り、さらっと彼女から操縦桿を取った。


「全て殲滅できたみたいですよ、婚約者殿」

「あなた、どうして……」


 魔刀アシュラを操る男は、天才機械士と名高いシキ・ザートツェントル。
 この世界で初めて戦空艇を開発した張本人だ。
 それだけでなく、小型迎撃艇カヴァルリーや魔導武器を開発したのも彼だ。
 帝国軍魔導研究所に所属し、副所長の肩書もあり、帝国軍内での発言権も強いと聞いている。

 そんな男だが元は近衛騎士団の所属で、魔力保有量がトップクラスで実力も高い。
 彼が頭角を現したことで、彼が身にまとっている魔導研究所の青の制服に憧れを持つ者が多いと聞く。
 これがクリスティーナの調べた表向きに流れている情報だ。

 しかし、なぜこんなところに彼がいるのか?
 眉根を寄せ、問い詰めようとくるりと振り向けば、端正な男の顔が間近にあった。
 ひっと短く悲鳴を上げそうになったが、すんでのところで飲み込んだ。


「まずはあなたの無事な姿を団員に見せてはいかがですか? ほら、戦空艇が見えてきましたよ。着艦しますね」


 シキが手慣れた手つきで操縦桿を動かすと、カヴァルリーのモーター音が静かになると同時に、徐々に速度が落ちていく。
 バラバラバラ……と、勢いよく回転する戦空艇のプロペラ音が、だんだん大きくなっていく。
 二人を乗せたカヴァルリーは、戦闘を終えて空に佇んでいた戦空艇の甲板にふわりと着艦した。


「クリス閣下、ご無事で!」

「閣下、おかえりなさい!」


 戦空艇内に入室したとたん、肩の力を抜き、ホッとした表情の団員たちが次々と迎えてくれた。
 そこには戦闘部隊の団員もいる。どうやら自分たちより先に、無事に戦空艇に戻っていたようだ。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

処理中です...