7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍

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第三師団の魔獣討伐

第39話

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 ふっと短い息を吐いたクリスティーナは、カヴァルリーのステップに軍靴をガチリと固定する。操縦桿を器用に操りながら、己の肚に力を込めて、すくっと立ち上がった。


「撤退なさい」

『クリス閣下!?』


「わたくし以外は全員撤退! わたくしが引きつけるわ。これ以上、被害を拡大することは許さなくてよ」

『何言ってんだよ!』

「わたくしは師団長。これは師団長命令よ。副官は従う以外の選択肢はないわ」


 通信機からはっと息を飲む音が聞こえた。
 クリスティーナはもう一度、黒いロッドを握りしめながら、なけなしの魔力を込めた。


「もう一度言う。撤退なさい。わたくしは皇女である前に軍人であり、第三師団の師団長よ。団員を最後まで守るのがわたくしの使命。あなたたちを生かす義務がある。指示に従いなさい」


 ハルバード、と呟けば、ロッドがブンッと低く短い音を発したと同時に、ぶわりと光を放つ。魔力で作られた鋭い斧が生成され、右腕に重みが加わった。


『……了解。閣下、必ず帰って来いよ』


 わずかな沈黙の後、エドワードが了承した。
 エドワードは通信機の向こうで、ナウシエト遺跡からの撤退を指示する。少ししてから戦空艇が戦場を離脱する動きを見せた。


「……シキ。今の話、聞いていて?」

「もちろん」


 クリスティーナは通信機を切りながら、雨を厭わず、今までの背後に控えていたシキに声をかける。


「あなたもよ。副官として従いなさい」


 ことは一刻を争う状況だ。戦空艇が離脱するサポートをすぐに始めなければならない。
 シキを振り返ることなく、クリスティーナは三度カヴァルリーの操縦桿をフルスロットルにし、雨を切り裂いて戦場へ向かった。

 クリスティーナの視線の先には、降りしきる雨の中、ドパパパパパンッ、と魔力のこもった弾丸が、三体の巨大化したワイバーンを襲った。
 第三師団の殿を務める戦闘部隊が、魔導ライフルで一斉に射撃したのだ。だが、巨大化したワイバーンたちは、避けることなくその体で受け止めていく。
 そこへ召喚されたワイバーンが翼を大きく広げて猛進し、長くて太い尻尾を振り上げた。団員は寸でのところで避けはしたが、風圧でカヴァルリーごと飛ばされた。


(なんて力なの……!)


 クリスティーナはカヴァルリーを加速させながら、唇を噛んだ。戦闘部隊はマルスがいない上、いつも以上に団員が減っている。これ以上、団員に怪我をさせるわけにはいかない。
 戦闘部隊がワイバーンを引きつけている間に、クリスティーナは雨雲に近づき姿を隠す。
 眼下ではドパパパパパンッ、と団員たちが後退しながら一斉に射撃した。しかし、ワイバーンたちはものともせず、速度を緩めず団員たちを襲う。


(そのまま、引きつけていて!)


 クリスティーナは魔獣たちの上空を取ると、一体の巨大化したワイバーンに狙いを定めて、一気にカヴァルリーを下降させた。
 ぐっと奥歯を噛みしめて、右腕に渾身の力を込め、ハルバードでズバンッと大きく斬りつけた。


「ギャアッ、ギャアッ!!」


 隙を突かれたワイバーンが痛みに声を上げるが、致命傷には程遠い。
 クリスティーナを敵と認識した魔獣たちが、血走った鋭い眼光でギロリと睨んだ。


「閣下!」

「クリス閣下!」

「撤退なさい!」


 クリスティーナは団員たちを背に隠しながら、すぐさま指示を出した。


「しかし……!」

「致命傷は与えられていないわ。師団長命令よ!」




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