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第三師団の魔獣討伐
第41話
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戸惑うクリスティーナをよそに、次の瞬間、ワイバーンがぐわっと大きく口を開け、炎のブレスを吐いた。しかも、この一体だけではない。シキを追っていたはずの二体のワイバーンも、同時に炎のブレスを吐いていた。
その先にいたのは……戦空艇だ。
クリスティーナの心臓が激しく早鐘を打ち、身体中に響き渡った。
「やめて!!」
雨を切り裂くような悲痛な声が、クリスティーナの喉からあふれ出た。
狙われた戦空艇は、わずかに避けきれなかった。
木造の戦艦の側面に火がつき、雨にもかかわらず燃え広がる。
「あ、ああ……戦空艇が……」
揺らめく炎が視界を捉えて離さない。歯の根が合わずガチガチと震える。
無意識に震える手を伸ばすが、届くはずもない。
(戦空艇には、第三師団が、みんながいるのに)
冷静になろうと呼吸を繰り返すが、ハッ、ハッと呼吸がどんどん浅くなり、心臓がぎゅっと押しつぶされそうになる。
腹の底がぐらぐらと揺れて、喉元まで吐き気が込み上げた。
目の前の状況に、処理が追い付かず思考を停止した脳が、真っ白に染まっていく。
それなのに、脳裏に何かが映った。
(また、だ)
金色の長い髪を持つ小さな女の子が、土で汚れることを厭わず跪いている。
その印象的な紫紺の瞳を潤ませていた。
『お、かあ……っ、目を、あけ……っ!!』
少女は悲痛な声で叫んでいた。顔をぐしゃぐしゃにしながら、誰かを懸命に揺すっている。
その誰かは、少女と同じく金の髪が印象的な女性。しかし、その全身は赤々と血にまみれて、少女に応えることはない。
ただ、小さな手が真っ赤に染まっていくだけだった。
炎に包まれた戦空艇のように、赤く。
お願、い……、いか……な、いでっ!
クリスティーナと少女の想いが重なった。
次の瞬間、想いが濁流のように流れ込み、クリスティーナの肚の底がぐらぐらと激しく打ち震える。
全身の血が沸騰して、急激に体温が上がり、じんじんと皮膚が溶けそうになる。
肚の底で何かがぐるりとひっくり返ると、あるはずもないものが、ぐっと押し出されるように外へあふれ出した。
あの時と一緒だ、と脳内で音を拾った。
どうして忘れていたのだろう。
胸がどきどきして、苦しくて、絶望する気持ちを。
背筋が震えて、憎しみの籠った目で、誰かを壊したい気持ちを。
切なくて、連れて行って欲しくても、叶わない想いを。
ふわふわと柔らかくて優しいあの人を、忘れることなんて、できるわけがないのに。
思い出せ、あの時の想いを。
目覚めよ、肚の底に眠る真の力よ。
今度こそ鉄槌を下し、大切な存在を自らの手で救うのだ。
……自らの命を差し出してでも。
最後に、感情がごっそりと抜け落ちた音だけが聞こえた。
「ティナ!」
クリスティーナの纏う空気が、ビリビリと震えた。
その振動は周辺の空気を震わせて、中心にいるクリスティーナを巻き込むように、空気が嵐のような大きな渦を描き始めた。やがてクリスティーナから眩い光が煌めくと、ズンッと重くて強大なエネルギーが発現した。
バアアァアアンンッ
纏う空気が爆発を起こし、重く垂れこめる雲を突き抜けた。
撃ち抜かれた雨雲が霧散し、雨が止んだ。隠れていたコバルトブルーの青空が姿を現し、燦々と陽光が降り注ぐ。
乗っていたカヴァルリーは地上へ落ち、岩山と衝突したが、クリスティーナは空中にとどまっている。
陽光を背に受けながら、さらに強大なエネルギーが放つ眩い光を纏った姿は神々しい。
ざっと風が吹き、彼女の艶やかな髪が光を含んでキラキラと靡き、その双眸は紫紺ではなく、金色に輝いていた。
その先にいたのは……戦空艇だ。
クリスティーナの心臓が激しく早鐘を打ち、身体中に響き渡った。
「やめて!!」
雨を切り裂くような悲痛な声が、クリスティーナの喉からあふれ出た。
狙われた戦空艇は、わずかに避けきれなかった。
木造の戦艦の側面に火がつき、雨にもかかわらず燃え広がる。
「あ、ああ……戦空艇が……」
揺らめく炎が視界を捉えて離さない。歯の根が合わずガチガチと震える。
無意識に震える手を伸ばすが、届くはずもない。
(戦空艇には、第三師団が、みんながいるのに)
冷静になろうと呼吸を繰り返すが、ハッ、ハッと呼吸がどんどん浅くなり、心臓がぎゅっと押しつぶされそうになる。
腹の底がぐらぐらと揺れて、喉元まで吐き気が込み上げた。
目の前の状況に、処理が追い付かず思考を停止した脳が、真っ白に染まっていく。
それなのに、脳裏に何かが映った。
(また、だ)
金色の長い髪を持つ小さな女の子が、土で汚れることを厭わず跪いている。
その印象的な紫紺の瞳を潤ませていた。
『お、かあ……っ、目を、あけ……っ!!』
少女は悲痛な声で叫んでいた。顔をぐしゃぐしゃにしながら、誰かを懸命に揺すっている。
その誰かは、少女と同じく金の髪が印象的な女性。しかし、その全身は赤々と血にまみれて、少女に応えることはない。
ただ、小さな手が真っ赤に染まっていくだけだった。
炎に包まれた戦空艇のように、赤く。
お願、い……、いか……な、いでっ!
クリスティーナと少女の想いが重なった。
次の瞬間、想いが濁流のように流れ込み、クリスティーナの肚の底がぐらぐらと激しく打ち震える。
全身の血が沸騰して、急激に体温が上がり、じんじんと皮膚が溶けそうになる。
肚の底で何かがぐるりとひっくり返ると、あるはずもないものが、ぐっと押し出されるように外へあふれ出した。
あの時と一緒だ、と脳内で音を拾った。
どうして忘れていたのだろう。
胸がどきどきして、苦しくて、絶望する気持ちを。
背筋が震えて、憎しみの籠った目で、誰かを壊したい気持ちを。
切なくて、連れて行って欲しくても、叶わない想いを。
ふわふわと柔らかくて優しいあの人を、忘れることなんて、できるわけがないのに。
思い出せ、あの時の想いを。
目覚めよ、肚の底に眠る真の力よ。
今度こそ鉄槌を下し、大切な存在を自らの手で救うのだ。
……自らの命を差し出してでも。
最後に、感情がごっそりと抜け落ちた音だけが聞こえた。
「ティナ!」
クリスティーナの纏う空気が、ビリビリと震えた。
その振動は周辺の空気を震わせて、中心にいるクリスティーナを巻き込むように、空気が嵐のような大きな渦を描き始めた。やがてクリスティーナから眩い光が煌めくと、ズンッと重くて強大なエネルギーが発現した。
バアアァアアンンッ
纏う空気が爆発を起こし、重く垂れこめる雲を突き抜けた。
撃ち抜かれた雨雲が霧散し、雨が止んだ。隠れていたコバルトブルーの青空が姿を現し、燦々と陽光が降り注ぐ。
乗っていたカヴァルリーは地上へ落ち、岩山と衝突したが、クリスティーナは空中にとどまっている。
陽光を背に受けながら、さらに強大なエネルギーが放つ眩い光を纏った姿は神々しい。
ざっと風が吹き、彼女の艶やかな髪が光を含んでキラキラと靡き、その双眸は紫紺ではなく、金色に輝いていた。
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