7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍

文字の大きさ
67 / 100
7番目の婚約者の元婚約者

第67話

しおりを挟む
「まずいな……」


 追跡者が漏らした声をクリスティーナは聞き逃さなかった。


「あなた方、民を巻き込むのは上官の意に反しているのではなくって?」


 クリスティーナが鋭く見据えれば、追跡者はたじろいだ。
 やはり彼らの行動はやり過ぎたのだ。であれば、できればここで退いてほしい。
 接近戦が得意なクリスティーナは、魔導士との相性がよくない。それに、先ほど令嬢を守るために魔法を避けられなかったため、少し腕にダメージを負った。
 誰かを守りながらでは不利だ。


「あなた方、退くならこの者たちも連れて行ってください」


 ドサリ、と何かが落ちた音がした方を見ると、戦意を喪失し伸びている追跡者が横たわっていた。
 そこにいたのはシキだった。


「あと二人は路地裏で伸びています。街に迷惑をかけないように連れて帰ってください」

「……チッ、退くぞ」


 追跡者たちは横たわった仲間を担ぎ上げ、一目散に路地の方へ駆けて行った。
 その姿が消えたのを確認したクリスティーナは、ホッと安堵の息を吐いた。


「ご無事でして?」

「は、はい。助けてくださりありがとうございます」


 どこか儚げな令嬢は侍女に支えられて、立ち上がれるようになっていた。


「怖かったでしょう? わたくし、あなたを巻き込んでしまったわ」

「いいえ、いいえ。守ってくださってありがたかったです」


 眉を下げたクリスティーナに、令嬢は首を横に振って優しく笑った。


「ティナ、ご無事ですか?」

「シキ、ありがとう。いいタイミングだったわ」

「……シキ? シキさま?」


 近づいてきたシキに反応した令嬢は目を丸くした。
 そして、その反応はシキも同様だった。


「サラですか!?」

「ええ、シキさま! お久しぶりです」


 サラと呼ばれた令嬢は、シキに向ってふわりと微笑んだ。


「……知り合いなのかしら?」

「ええ、彼女はサラ。ブランデンブルク辺境伯のご令嬢です」

「まあ」


 クリスティーナは軽く目を見開いた。
 ブランデンブルク辺境伯の一族は武官の一族だが、その娘は病弱で領内から出られないと耳にしていた。
 なるほど彼女が、とクリスティーナは納得する。
 儚げに微笑むサラは大人しく、軍人であるクリスティーナと対極に位置する。まさに深窓の令嬢といった雰囲気をまとっている。


「サラ。こちらはクリスティーナ・ヴィクトール皇女殿下です。今はお忍びでこちらにいらっしゃる」

「ま、まあ! そうでいらっしゃいましたか。ご無礼をお許しください、皇女殿下。お初にお目にかかります。ブランデンブルク辺境伯の娘、サラ・ブランデンブルクでございます。この度は助けていただきありがとうございました」


 頭を下げたサラの言葉にシキが目を眇めた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

処理中です...