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次兄・第二皇子の画策
第85話
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「本当に訪ねてくるとは思わなかったよ、クリスティーナ」
「まぁ。訪ねればいいとおっしゃったのは、ジェレミーお兄様ではなくって?」
「ふふ、そうだね」
合同演習から一週間後、クリスティーナは魔導士団第二隊の作戦室へ赴いた。
他の部隊の作戦室に入室することなんてほとんどないが、帝宮の部屋と同じような気品のある上質な部屋だった。
部屋の主であるジェレミーは、仕事をするわけでもなく優雅にソファに座っていた。
「さて、合同演習の総括でもする?」
「お兄様ったら面白いのね。わたくしがここへ一人で来た理由をご存じのはずなのに、冗談をおっしゃるなんて。わたくしは妹で夜会にいるご令嬢ではないから、楽しませなくてよくてよ?」
柔和な表情でこちらを見ているジェレミーに、にっこりと綺麗な微笑みを見せた。
クリスティーナはここへ一人で来た。伴はつけなかった。これは全くの個人的なことだから。
副官であるエドワードも、もちろんシキも不在の時を狙ってここへ来たのだ。
「全く……クリスティーナときたら肝が据わっているね。そうだよ、君は僕の妹だ。兄として妹の要求には応えてあげないとね」
「うれしいですわ、ジェレミーお兄様」
「じゃあ、場所を変えようか。ここで話すには、内容が込み入り過ぎているからね」
「どちらに?」
クリスティーナが疑問に思っていると、ジェレミーが立ち上がり空間に向って指を動かした。
何かを描くように動く指。
クリスティーナは眉を寄せた。
「お兄様、何をされて……」
「空間移動だよ、クリスティーナ。母上の持つ離宮へ行こう」
指先があった空間に、緑の光を帯びた魔方陣が浮かび上がった。
その魔方陣がビカビカと煌めいた。
クリスティーナが驚きの声を上げる間もなく、部屋いっぱいに光が満たされ視界が歪む。
きつく目を閉じたクリスティーナが再び目を開けた時、そこは見知らぬ部屋の中だった。
思わず息を飲み、そして警戒感を強めた。
「そんなに固くならないで、クリスティーナ」
「ここは、まさか……」
「着いたよ、母上の離宮に」
空間移動は魔導士団の中でも一部の人間しか使えない古代魔法の一つだ。
次兄も使えたのか、とクリスティーナは内心唇を噛みしめる。
「……テオドラ妃殿下はいらっしゃるの? ご挨拶がいるかしら」
「いいや。母上は帝宮にいるよ。ここは僕が休暇を過ごすために使うことが多いかな」
「そうですか」
コンコン、とノックの音が鳴る。
失礼します、と声をかけ入って来たのは年配のメイドだった。
ジェレミーが目配せをすれば、心得たとばかりに一つ頷く。
「お茶を飲みながら話そうか、クリスティーナ。君は知りたいんだろう?」
小さく頷いたクリスティーナは、先に歩き出したジェレミーの背中を追った。
「まぁ。訪ねればいいとおっしゃったのは、ジェレミーお兄様ではなくって?」
「ふふ、そうだね」
合同演習から一週間後、クリスティーナは魔導士団第二隊の作戦室へ赴いた。
他の部隊の作戦室に入室することなんてほとんどないが、帝宮の部屋と同じような気品のある上質な部屋だった。
部屋の主であるジェレミーは、仕事をするわけでもなく優雅にソファに座っていた。
「さて、合同演習の総括でもする?」
「お兄様ったら面白いのね。わたくしがここへ一人で来た理由をご存じのはずなのに、冗談をおっしゃるなんて。わたくしは妹で夜会にいるご令嬢ではないから、楽しませなくてよくてよ?」
柔和な表情でこちらを見ているジェレミーに、にっこりと綺麗な微笑みを見せた。
クリスティーナはここへ一人で来た。伴はつけなかった。これは全くの個人的なことだから。
副官であるエドワードも、もちろんシキも不在の時を狙ってここへ来たのだ。
「全く……クリスティーナときたら肝が据わっているね。そうだよ、君は僕の妹だ。兄として妹の要求には応えてあげないとね」
「うれしいですわ、ジェレミーお兄様」
「じゃあ、場所を変えようか。ここで話すには、内容が込み入り過ぎているからね」
「どちらに?」
クリスティーナが疑問に思っていると、ジェレミーが立ち上がり空間に向って指を動かした。
何かを描くように動く指。
クリスティーナは眉を寄せた。
「お兄様、何をされて……」
「空間移動だよ、クリスティーナ。母上の持つ離宮へ行こう」
指先があった空間に、緑の光を帯びた魔方陣が浮かび上がった。
その魔方陣がビカビカと煌めいた。
クリスティーナが驚きの声を上げる間もなく、部屋いっぱいに光が満たされ視界が歪む。
きつく目を閉じたクリスティーナが再び目を開けた時、そこは見知らぬ部屋の中だった。
思わず息を飲み、そして警戒感を強めた。
「そんなに固くならないで、クリスティーナ」
「ここは、まさか……」
「着いたよ、母上の離宮に」
空間移動は魔導士団の中でも一部の人間しか使えない古代魔法の一つだ。
次兄も使えたのか、とクリスティーナは内心唇を噛みしめる。
「……テオドラ妃殿下はいらっしゃるの? ご挨拶がいるかしら」
「いいや。母上は帝宮にいるよ。ここは僕が休暇を過ごすために使うことが多いかな」
「そうですか」
コンコン、とノックの音が鳴る。
失礼します、と声をかけ入って来たのは年配のメイドだった。
ジェレミーが目配せをすれば、心得たとばかりに一つ頷く。
「お茶を飲みながら話そうか、クリスティーナ。君は知りたいんだろう?」
小さく頷いたクリスティーナは、先に歩き出したジェレミーの背中を追った。
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