ランゲルハンス島奇譚(1)「天使は瞳を閉じて」

乙訓書蔵 Otokuni Kakuzoh

文字の大きさ
31 / 46
三章

七節

しおりを挟む
 その日の夕方、ユウは厨房の勝手口で速達を受取った。クリスマスケーキの追加制作に追われる彼女は封筒をジーンズのポケットに突っ込んだ。レジではバステトとリュウが大勢の予約客へのケーキの受け渡しに追われていた。

 振られたのがクリスマスイブの前で良かった。デコレーションをしつつケーキを箱詰めするユウは瞳を伏せる。忙しさで悲しみを忘れるし恋人が居ないリュウと共に家族水入らずで食事が出来る。信仰の無いユウにとってクリスマスは共に居る人に感謝をする日だ。去年はシュリンクスとパーンと共に過ごした。ユウとリュウはケーキを作りシュリンクスは料理を、パーンは部屋の飾り付けやゲームを用意して互いに感謝し過ごした。楽しい想い出だ。今年はリュウとクチバシ医者と食事出来たらと心待ちにしていた事を想い出した。

 涙が頬を伝う。コックシャツの袖で涙を拭ったユウは箱詰めしたケーキをレジへ運んだ。

 日が落ちて予約客が捌けた。店を閉めてバステトにクリスマスケーキを渡し、三人で外に出ると雪が降っていた。ユウは白い息を吐き、夜空から舞い落ちる雪を眺める。

「冷えると思ったら道理で。ホワイトクリスマスですね。お二人とも良いクリスマスイブを」バステトはケーキの箱を抱え恋人の許へと急いだ。

「俺達も帰るぞ」リュウは雪を眺めるユウに声を掛けた。

 ユウは頷くとケーキの箱を提げて先を歩くリュウを追った。

 リフォームしたての家に入り箱を玄関のカウンターに置き、リュウはキッチンに立つ。

「ありがとう。リュウの料理美味しいから楽しみ」微笑むユウは速達を改める。

 琥珀色の瞳が見開かれる。差出人はクチバシ医者だった。鼓動が頭に鳴り響く。静かに深呼吸しユウは自室に入る。

 後ろ手でドアを閉めると筆跡を見つめる。恋しい想いと共に悲しみが溢れる。振った女へ速達を寄越すなんて何を考えているんだろう。レターナイフで封を切り便箋に眼を通す。

 読み終えた瞬間、便箋を破り捨てた。恋心を弄んで最低な男! 振った女なら傷つけてもいいって訳? 他の女に頼みなさいよ。私だって好きで処女な訳じゃないんだから!

 小さな拳を握り締めるとユウは唇を噛み、瞳を潤ませ涙を堪えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

処理中です...