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五章
一節
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クチバシ医者は目覚めた。
視覚情報と脳が巧く接続しない。ぼんやりとした気分を味わっていたが正気に戻った。枕許のマスクに手を伸ばす。しかしそこにはない。看護疲れで眠るユウの頭が乗っていた。
良い香りがしたユウの髪は短くなっていた。クチバシ医者は金の鹿の角を分けて貰いに黒い森へ行った事を思い出した。
ユウを起さぬように静かに上体を起すと、掛け布団の上に掛けられていたブランケットを彼女に掛けた。彼の温もりが残るブランケットに気付いたユウは目を覚ました。
「……おはよう」ユウはクチバシ医者を見つめた。
「……おはよう」クチバシ医者はユウの顔を見据えた。
愛らしい笑顔のユウの首には雪の結晶のチョーカーが掛かっていた。
「丸七日も眠ってたのよ。その間にハンスさんが眼を入れてくれたの。キルケーも元気になったわ。あなただけ眠ってたから心配しちゃった。ハンスさん達呼んで来るね」
丸椅子から立ち上がるとユウは踵を返そうとしたが手首を掴まれた。彼女は振り返る。
「ト……リカブト?」
問うた瞬間、クチバシ医者は彼女の手首を強く引いた。ベッドに倒れかけた彼女を抱きしめた。自分の容貌も立場も力加減も構わずにクチバシ医者はユウを強く抱きしめた。
頬を染めたユウは頭の中で鼓動を聞いていたが、彼の首筋に頬を寄せた。愛する男の背には大きな黒い翼が生えていた。
「……あれからずっと君やリュウの事を考えていた。会えるとは思ってもみなかった。あの雪の日、無責任にもプロポーズを受けてごめん」
記憶を取り戻した事に驚いたユウは体をピクリと動かした。
「……いいよ。おにいちゃんのお嫁さんになるのは私の勝手だから。だからずっと好きでいさせて。永遠に会えなくても後悔しない」
クチバシ医者はユウの唇にキスを落とした。彼からこんな事をするなんて想像だにしなかったユウは驚いたが瞳を瞑った。
クチバシ医者は唇を離すと彼女の琥珀色の瞳を見つめた。
「僕はローレンス。本当の名前はタナトス。僕は罰を受けなければならないんだ」
ユウは青白く光る瞳を見つめていた。
「……僕は死神だ。永遠を生き続け魂をここや冥府に運ばなければならない」
「知ってる。私とリュウはあなたに愛され、看取られ、抱かれてこの島へ来たの。だからいつだって私達の魂はあなたと共にあるわ。黒い翼の天使さん」
ローレンスとユウは見つめ合った。ユウは瞳を潤ませた。彼女はベッドから起き上がると踵を返す。
「ハンスさん達呼んで来るね。みんなあなたが目覚めるのを待っていたから」
数分後ベッドの周りにランゲルハンスやキルケー、ニエ、リュウが集まった。
「記憶を取り戻したようだな、聖なるマゾヒスト君」始めに声を掛けたのはランゲルハンスだった。彼の右眼窩には鈍色の瞳が嵌まっている。
「気持ち悪い呼び名を付けるなよ。……ハンス、君は僕に気付いていたんだろ?」
「水脈に君が現れた時からな。大方ハデスの仕業とは思っていたが驚いたよ。死神の君がこちらを訪れるなんてね」ランゲルハンスは鼻で笑った。
「君が僕の管理者になったのは何故だ?」
「友人の面倒を見るのに理由なぞあるのかね?」
「じゃあ今度パンドラの店で会ったら僕の国の観光案内くらいしてやるよ」
「やはり君は帰るのだな」
ローレンスは親友の一言に頷いた。
沈黙の後にキルケーが口を開いた。
「まずはお礼だね。ありがとう、あんた私を二度も救ってくれたんだね」
「二度って……覚えていてくれたんだね」ローレンスは微笑んだ。
「当たり前さ。あの時はランゲルハンスが姿を変えて現れたのかと思ってたけれどもね。この面構えは忘れられるものか。それが火刑の途中だとしてもね。人魚だってあんたを覚えていたよ。私の魂を島まで送ってくれたんだね。本当にありがとう」
「元気になってくれて良かった。……もう二度と心配事を支えに生きるのはよしてくれよ。キルケーは皆のお母さんなんだからもっと子供達を頼らなきゃ」
「子供のくせして生意気だ」微笑んだキルケーは彼の額を指で小突く。
ローレンスも微笑んだ。
ローレンスの手をニエが取った。彼女は掌に字を綴った。
『回復して良かった。ローレンス、私もあなたに会った事があるの。覚えてる?』
「うん。君が十にも満たない少女の時だったね。山頂で魂を回収して島に送ったんだよね」
『ええ。あなたが慈悲を掛けてくれたからここに来る事が出来たの』
「……それがこんな結果になってしまってごめんなさい。君の伴侶となる筈だった太陽神にも君にも悪い事をしてしまった」
ニエは首を横に振る。
『あのお方の最期に会えたの。大きな骨が森にあったけど分かったわ、あのお方だって。私が祈りを捧げると生きろ、と囁いたの。もう一度あのお方に会わせてくれてありがとう、そしてアロイスに会わせてくれてありがとう、ローレンス』
ローレンスは首を横に振った。
「俺さ!」
大きな声を出したリュウに驚き、ローレンスは肩を跳ね上げた。リュウは言葉を続ける。
「……俺さ、約束したの覚えてる。俺、姉貴の騎士だって。記憶を失ってもこの言葉だけは覚えてた。だから姉貴を泣かす奴には容赦しなかった。でもやっぱり俺じゃダメだよ」
「そんな事ないよ。リュウがユウを守って来た事、僕は知ってるよ。君は立派な騎士だ。これからもずっと」
ローレンスは俯いたリュウの頭を搔き撫でる。リュウは首を横に振る。
「……正直言うと俺、にいちゃん居ないと面白くないよ。折角……会えたのにまだまだ一緒に仕事をして遊びたいのに」
「随分久し振りに弟が出来たみたいだ」
ローレンスは瞳を潤ませ唇を噛み締めた。そして拳を差し出した。
「ほら」
リュウは洟をすすり、拳を握るとローレンスの拳に当てた。
「クソ兄貴」
拳を下ろしたリュウは泣いたような笑ったような何とも形容し難い表情を向けた。ローレンスはリュウを見て微笑んだ。するとローレンスの爪先が光の粒子となり霧散する。彼はユウを見つめた。
ユウはローレンスに近寄ると首筋に頬を寄せて抱きしめた。ローレンスもユウを抱きしめる。ユウの首筋から彼女の幼き日と同じ甘い香りが漂う。
「……君を置いて行かなければならないのが心残りだ」
「いいの。忘れて。覚えているとおにいちゃん傷ついちゃう」
ローレンスはユウを見つめて誓った。
「もう臆病は止めだ。どんなに傷ついてもいい。君を忘れない」
「おにいちゃ……」
ローレンスは彼女の唇を人差し指で制した。そして『ローレンス』と呟いた。
頬を染めたユウは誓った。
「……ローレンス、私もあなたを忘れない」
頷いたローレンスは首筋に頬を寄せ何かを囁いた。ユウは赤い頬を更に濃く染めた。ローレンスの腹部は既に光となって霧散している。
ユウを抱きしめたままランゲルハンスを見遣る。ランゲルハンスはいつもの仏頂面でローレンスを見下ろしていた。
「お前にもお礼を言わなきゃな。僕が運んできた魂達を丁重に扱ってくれてありがとう」
「死後の魂と引き換えに君と契約をしたのだからな。選択は一度きりだ。今度はしっかり死んでここに来給え」ランゲルハンスは鼻を鳴らす。
ローレンスは鼻で笑い返した。既に胸が霧散していた。
「お生憎様だな。僕は子孫を残さない限り死は認められない。僕のお嫁さんはここに残して行く。お前になんか僕を好きにさせてやるものか」
「君といい、ニエといい、キルケーといい、狡猾な奴らばかりで手を焼かせられる」
ローレンスとランゲルハンスは互いを見遣ると笑った。
ローレンスは最期に一目ユウを見ようとした。しかし急に息苦しくなり呼吸が出来なくなった。島に来る前にハデスに心臓を掴まれ魂を取り上げられた事を思い出した。それでもユウを一目見ようとしたが最後の表情が苦悶だと彼女が哀れだと思い、微笑みを作った。
そして瞳を閉じた。
涙を浮かべたユウは眼に焼き付けるが愛した男の笑顔は光の粒子となり霧散した。先程まで彼が座していたベッドには光の粒子が妖精の粉のように宙を舞っていた。
数年後、ランゲルハンス宅の向かいの土地でフォスフォロが剣を振っていた。彼の下肢は花畑に隠れている。広大な土地には色とりどりの花が咲き乱れていた。
花には青い蝶が止まっていたが剣に驚くと飛び去った。
剣を振る度にウェーブが掛かった長い髪が軌跡を描く。額から汗を流す。すると突如花畑の中から剣を握った黒髪の少女が飛び出し、隙を突こうとした。しかしフォスフォロは少女の剣を払った。
バランスを崩した少女は尻を着く。
微笑したフォスフォロは剣を鞘に納めると屈んで少女に手を差し伸べた。長い黒髪を一つに結わえた少女は彼の手を振り払い『そういうのは人魚だけにしてよね』と鼻を鳴らす。フォスフォロは笑うと手を引っ込めた。
海岸へ続く道から裸の人魚が歩いてくる。彼女は眉根を寄せ、頬を膨らませている。少女は人魚に泳ぎを教えて貰う約束をしていた事を思い出すと頭を掻いた。小さな溜め息を吐いたフォスフォロは『カナ先生は生徒を迎えに来るんだから優しいなあ』と人魚に声を掛けた。
剣を鞘に納めた少女は艶やかな黒髪をなびかせ、人魚へと駆けて行く。少女の頬は紅潮し薄紅色の唇に微笑みを湛え、青白く光る不思議な瞳は目一杯見開かれていた。
闇のように美しい黒髪が花畑を駆けて行くと花弁が舞い散る。
少女は駆けて行く。
物語は眠らない。
了
視覚情報と脳が巧く接続しない。ぼんやりとした気分を味わっていたが正気に戻った。枕許のマスクに手を伸ばす。しかしそこにはない。看護疲れで眠るユウの頭が乗っていた。
良い香りがしたユウの髪は短くなっていた。クチバシ医者は金の鹿の角を分けて貰いに黒い森へ行った事を思い出した。
ユウを起さぬように静かに上体を起すと、掛け布団の上に掛けられていたブランケットを彼女に掛けた。彼の温もりが残るブランケットに気付いたユウは目を覚ました。
「……おはよう」ユウはクチバシ医者を見つめた。
「……おはよう」クチバシ医者はユウの顔を見据えた。
愛らしい笑顔のユウの首には雪の結晶のチョーカーが掛かっていた。
「丸七日も眠ってたのよ。その間にハンスさんが眼を入れてくれたの。キルケーも元気になったわ。あなただけ眠ってたから心配しちゃった。ハンスさん達呼んで来るね」
丸椅子から立ち上がるとユウは踵を返そうとしたが手首を掴まれた。彼女は振り返る。
「ト……リカブト?」
問うた瞬間、クチバシ医者は彼女の手首を強く引いた。ベッドに倒れかけた彼女を抱きしめた。自分の容貌も立場も力加減も構わずにクチバシ医者はユウを強く抱きしめた。
頬を染めたユウは頭の中で鼓動を聞いていたが、彼の首筋に頬を寄せた。愛する男の背には大きな黒い翼が生えていた。
「……あれからずっと君やリュウの事を考えていた。会えるとは思ってもみなかった。あの雪の日、無責任にもプロポーズを受けてごめん」
記憶を取り戻した事に驚いたユウは体をピクリと動かした。
「……いいよ。おにいちゃんのお嫁さんになるのは私の勝手だから。だからずっと好きでいさせて。永遠に会えなくても後悔しない」
クチバシ医者はユウの唇にキスを落とした。彼からこんな事をするなんて想像だにしなかったユウは驚いたが瞳を瞑った。
クチバシ医者は唇を離すと彼女の琥珀色の瞳を見つめた。
「僕はローレンス。本当の名前はタナトス。僕は罰を受けなければならないんだ」
ユウは青白く光る瞳を見つめていた。
「……僕は死神だ。永遠を生き続け魂をここや冥府に運ばなければならない」
「知ってる。私とリュウはあなたに愛され、看取られ、抱かれてこの島へ来たの。だからいつだって私達の魂はあなたと共にあるわ。黒い翼の天使さん」
ローレンスとユウは見つめ合った。ユウは瞳を潤ませた。彼女はベッドから起き上がると踵を返す。
「ハンスさん達呼んで来るね。みんなあなたが目覚めるのを待っていたから」
数分後ベッドの周りにランゲルハンスやキルケー、ニエ、リュウが集まった。
「記憶を取り戻したようだな、聖なるマゾヒスト君」始めに声を掛けたのはランゲルハンスだった。彼の右眼窩には鈍色の瞳が嵌まっている。
「気持ち悪い呼び名を付けるなよ。……ハンス、君は僕に気付いていたんだろ?」
「水脈に君が現れた時からな。大方ハデスの仕業とは思っていたが驚いたよ。死神の君がこちらを訪れるなんてね」ランゲルハンスは鼻で笑った。
「君が僕の管理者になったのは何故だ?」
「友人の面倒を見るのに理由なぞあるのかね?」
「じゃあ今度パンドラの店で会ったら僕の国の観光案内くらいしてやるよ」
「やはり君は帰るのだな」
ローレンスは親友の一言に頷いた。
沈黙の後にキルケーが口を開いた。
「まずはお礼だね。ありがとう、あんた私を二度も救ってくれたんだね」
「二度って……覚えていてくれたんだね」ローレンスは微笑んだ。
「当たり前さ。あの時はランゲルハンスが姿を変えて現れたのかと思ってたけれどもね。この面構えは忘れられるものか。それが火刑の途中だとしてもね。人魚だってあんたを覚えていたよ。私の魂を島まで送ってくれたんだね。本当にありがとう」
「元気になってくれて良かった。……もう二度と心配事を支えに生きるのはよしてくれよ。キルケーは皆のお母さんなんだからもっと子供達を頼らなきゃ」
「子供のくせして生意気だ」微笑んだキルケーは彼の額を指で小突く。
ローレンスも微笑んだ。
ローレンスの手をニエが取った。彼女は掌に字を綴った。
『回復して良かった。ローレンス、私もあなたに会った事があるの。覚えてる?』
「うん。君が十にも満たない少女の時だったね。山頂で魂を回収して島に送ったんだよね」
『ええ。あなたが慈悲を掛けてくれたからここに来る事が出来たの』
「……それがこんな結果になってしまってごめんなさい。君の伴侶となる筈だった太陽神にも君にも悪い事をしてしまった」
ニエは首を横に振る。
『あのお方の最期に会えたの。大きな骨が森にあったけど分かったわ、あのお方だって。私が祈りを捧げると生きろ、と囁いたの。もう一度あのお方に会わせてくれてありがとう、そしてアロイスに会わせてくれてありがとう、ローレンス』
ローレンスは首を横に振った。
「俺さ!」
大きな声を出したリュウに驚き、ローレンスは肩を跳ね上げた。リュウは言葉を続ける。
「……俺さ、約束したの覚えてる。俺、姉貴の騎士だって。記憶を失ってもこの言葉だけは覚えてた。だから姉貴を泣かす奴には容赦しなかった。でもやっぱり俺じゃダメだよ」
「そんな事ないよ。リュウがユウを守って来た事、僕は知ってるよ。君は立派な騎士だ。これからもずっと」
ローレンスは俯いたリュウの頭を搔き撫でる。リュウは首を横に振る。
「……正直言うと俺、にいちゃん居ないと面白くないよ。折角……会えたのにまだまだ一緒に仕事をして遊びたいのに」
「随分久し振りに弟が出来たみたいだ」
ローレンスは瞳を潤ませ唇を噛み締めた。そして拳を差し出した。
「ほら」
リュウは洟をすすり、拳を握るとローレンスの拳に当てた。
「クソ兄貴」
拳を下ろしたリュウは泣いたような笑ったような何とも形容し難い表情を向けた。ローレンスはリュウを見て微笑んだ。するとローレンスの爪先が光の粒子となり霧散する。彼はユウを見つめた。
ユウはローレンスに近寄ると首筋に頬を寄せて抱きしめた。ローレンスもユウを抱きしめる。ユウの首筋から彼女の幼き日と同じ甘い香りが漂う。
「……君を置いて行かなければならないのが心残りだ」
「いいの。忘れて。覚えているとおにいちゃん傷ついちゃう」
ローレンスはユウを見つめて誓った。
「もう臆病は止めだ。どんなに傷ついてもいい。君を忘れない」
「おにいちゃ……」
ローレンスは彼女の唇を人差し指で制した。そして『ローレンス』と呟いた。
頬を染めたユウは誓った。
「……ローレンス、私もあなたを忘れない」
頷いたローレンスは首筋に頬を寄せ何かを囁いた。ユウは赤い頬を更に濃く染めた。ローレンスの腹部は既に光となって霧散している。
ユウを抱きしめたままランゲルハンスを見遣る。ランゲルハンスはいつもの仏頂面でローレンスを見下ろしていた。
「お前にもお礼を言わなきゃな。僕が運んできた魂達を丁重に扱ってくれてありがとう」
「死後の魂と引き換えに君と契約をしたのだからな。選択は一度きりだ。今度はしっかり死んでここに来給え」ランゲルハンスは鼻を鳴らす。
ローレンスは鼻で笑い返した。既に胸が霧散していた。
「お生憎様だな。僕は子孫を残さない限り死は認められない。僕のお嫁さんはここに残して行く。お前になんか僕を好きにさせてやるものか」
「君といい、ニエといい、キルケーといい、狡猾な奴らばかりで手を焼かせられる」
ローレンスとランゲルハンスは互いを見遣ると笑った。
ローレンスは最期に一目ユウを見ようとした。しかし急に息苦しくなり呼吸が出来なくなった。島に来る前にハデスに心臓を掴まれ魂を取り上げられた事を思い出した。それでもユウを一目見ようとしたが最後の表情が苦悶だと彼女が哀れだと思い、微笑みを作った。
そして瞳を閉じた。
涙を浮かべたユウは眼に焼き付けるが愛した男の笑顔は光の粒子となり霧散した。先程まで彼が座していたベッドには光の粒子が妖精の粉のように宙を舞っていた。
数年後、ランゲルハンス宅の向かいの土地でフォスフォロが剣を振っていた。彼の下肢は花畑に隠れている。広大な土地には色とりどりの花が咲き乱れていた。
花には青い蝶が止まっていたが剣に驚くと飛び去った。
剣を振る度にウェーブが掛かった長い髪が軌跡を描く。額から汗を流す。すると突如花畑の中から剣を握った黒髪の少女が飛び出し、隙を突こうとした。しかしフォスフォロは少女の剣を払った。
バランスを崩した少女は尻を着く。
微笑したフォスフォロは剣を鞘に納めると屈んで少女に手を差し伸べた。長い黒髪を一つに結わえた少女は彼の手を振り払い『そういうのは人魚だけにしてよね』と鼻を鳴らす。フォスフォロは笑うと手を引っ込めた。
海岸へ続く道から裸の人魚が歩いてくる。彼女は眉根を寄せ、頬を膨らませている。少女は人魚に泳ぎを教えて貰う約束をしていた事を思い出すと頭を掻いた。小さな溜め息を吐いたフォスフォロは『カナ先生は生徒を迎えに来るんだから優しいなあ』と人魚に声を掛けた。
剣を鞘に納めた少女は艶やかな黒髪をなびかせ、人魚へと駆けて行く。少女の頬は紅潮し薄紅色の唇に微笑みを湛え、青白く光る不思議な瞳は目一杯見開かれていた。
闇のように美しい黒髪が花畑を駆けて行くと花弁が舞い散る。
少女は駆けて行く。
物語は眠らない。
了
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