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しおりを挟むその時、チンチンっとグラスを叩く音がした。顔を上げると、バーの中央の辺りでさっき受付をしていた若い社長さん――鈴原さんがお酒の入ったグラスを弾いて注目を集めていた。
「えっと……、今日は皆さん、お集り頂きありがとうございます」
鈴原さんは全体を見回してちょこんと頭を下げた。
背が高いからその動作が可愛く見える。
「父が――前社長が急に倒れまして――、急遽僕が父のびっくり新事業を継ぐことになってしまいましたが」
鈴原さんはちょっと照れたように鼻の頭を掻いてから、また会場を見回した。
「どうにか皆さんのお陰で、ネット通販のお客様ジャンルランキング1位という良いスタートダッシュを切ることができました。主たるシリコン事業は依然厳しい状況が続いていますが――、今後は色んなお客様に当社の技術力で満足を与えられるよう、がんばっていきましょう」
グラスを掲げると、周囲から拍手が起こってみんな乾杯をし出したので、私も何となく横にいた女の人と乾杯をした。
女の人は乾杯して一口お酒を飲むと、私に聞いた。
「――あの、どなたのお知り合いですか?」
「いえ、ちょっと――お招きいただいて」
私は言葉を濁して、辛口のシャンパンを一口飲んだ。
そのとき、挨拶を終えた鈴原さんがとことこと私の方に近づいてきた。
「栗原さん、お待たせしてすいません」
「あ、社長のお知り合いですか?」
女の人はどうも、と頭を下げた。
「そうなんですよ。恩人と言いますか、何といいますか……」
鈴原さんは私に笑いかけた。
知り合いではないですが……。
私は乾杯を求められて微妙な表情でそれに応じた。
女の人は別の人に話しかけられて去っていく。
「うちの関係者ばかりのところに招待して……来て頂けないかと思ったんですが、来て頂けて良かったです。直接お礼を言いたかったので」
鈴原さんは少し照れたように笑って眼鏡を直した。
背が高いけど威圧感がないというか、腰の低い社長さんだ。
「いえ……そんな」
お礼を言われるようなことをした覚えはなかったので、私は頭を掻いた。
「いえ、鈴原さんにご提案頂いた『フィニッシュ機能』を読んで、新商品の方向性が閃きましたので――ありがとうございます。おかげ様の1位です」
鈴原さんは頭を下げた。
その単語で、ここがバイブの会社のお祝い会場だっていうのを思い出すよー……。
私は顔が熱くなった。
鈴原さんはそんな私を無視してさらに語る。
「色味や形状についてはたくさんご意見を頂いたのですが、フィニッシュ機能という新しい提案をくださったのは鈴原さんだけで。僕もそれを読んで――そのアイデアは思いつかなかったと胸を打たれました」
鈴原さんはそう言って、「ありがとうございます」と繰り返した。
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