【完結】オタク女子はクラス転移で愛を知り哀を察る(しる)

秋空花林

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12話

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 暗闇の中。小雨の音と、時折、獣の鳴き声や唸り声が混じる。

 わたし達の隠れている窪みの前も、何度か獣が行き来した。

 その度に鈴木くんは、わたしを出来るだけ死角になる様に隠してくれた。幸い、先程鈴木くんが土に刺した像が何か作用してるのか、獣達には気づかれずにすんだ。

 鈴木くんに抱きしめられながら、どの位経っただろう。遠くから複数の人の声が聞こえてきた。

 鈴木くんと、ハッと顔を見合わせた。窪みから出ようとソッと外を見回すとー。

 木の周辺を数体の獣に囲まれていた。

 いつの間にこんなに?
 思わずゾッとした。

 見つからなかったんじゃない。
 ここにわたし達がいるのをわかってて、近づけないだけだったんだ!
 これじゃ助けを求めれない!

 鈴木くんが下げていた鞄から何かを取り出した。

 棒みたいのを組み立てて、Y字型する。先にゴムみたいのがついてた。

 同じく鞄から取り出した何かをゴムにくっつけて思い切り引っ張って外に放った。

 バンッ!パパパンッ!

 辺りに大きな破裂音が響き渡った!
 いきなりの大きい音に獣達が興奮して騒ぎ始める。怖い。

 その時、上の方から魔法を唱える呪文が聞こえて来た。いくつもの小さな炎の玉が、獣に当たり、獣が叫び声を上げる。

 辺りが仄かな灯りでほんの少し明るくなった。斜面の上から松明か何かかざしてる様だ。

 数人が斜面の上から滑り降りて来て、瞬く間に剣で獣を斬り殺した。

「おい!大丈夫か!?」
「田中さんと鈴木さん、いる!?」

 その声でクラスメイト達が助けに来てくれたんだとわかった。 

「ここにいる!田中さんも一緒だよ!」

 鈴木くんが土に刺してた小さな像を取り外して外に叫んだ。

 今気づいた、と言う様にクラスメイト達が駆け寄ってくる。

「それ隠匿のヤツだな!だから無事だったのか。良かった!」
「あと魔除けの指輪を持ってたんだ。だから襲ってこなかったんだと思う」

 クラスメイトで戦闘組の戸田くんが、鈴木くんに手を差し伸べた。それを掴んで先に鈴木くんが外に出る。

 続いて戸田くんは、わたしにも手を差し伸べてくれたんだけど、わたしはその手を掴もうとして前のめりに転んでしまった。

 安心したら腰が抜けちゃった!
 恥ずかしい!
 
 戸田くんが大丈夫?とわたしを起き上がらせようとしたけど、それを遮る人がいた。大河だった。

「俺が運ぶよ」

 そう言って、大河はサッサとわたしを横抱きにして窪みから運び出した。

 こ、これは!お姫様だっこ!
     …だっこ!
         …だっこ!
             …だっこ!

 ハッ!衝撃のあまり、頭でエコーしてまった!

「大河これ恥ずかしい!」
「お前鈍臭いのに、この斜面登れんの?」

 言われて斜面を見上げる。真っ暗だし、急斜面だし。何より高すぎて怖い。

「無理です、ごめんなさい」
「口閉じてろ」

 そう言って大河は、軽く助走をつけると。わたしを横抱きにしながら急斜面をトントントンと軽く駆け登った!

 何と!!

「忍者!」
「プハッ!相変わらず意味わかんねー」

 斜面を登りきった大河は、息一つ乱さずに笑った。

 斜面の下では、置いてくなよ~と何人かの戦闘組が騒いでた。よく見るとロープを伝って上がって来ている!

 大河の身体能力の恐ろしさよ!

「どうだ、俺カッコいいだろ」

 得意げにドヤ顔する大河は、ちょっとムカつくけど。木々の間から溢れる月明かりに照らされて。とてもカッコ良く見えた。

「うん。カッコいい!本当に勇者なんだね」
「まあな」

 ふん、と偉そうに再びドヤ顔だ。またちょっとムカついたけど助けてもらったから許す事にした。

 何やかんやで、大河は頼りになる。
 小さい時もこんな風に助けてもらった気がする。

 そのままお姫様抱っこされたまま、山を移動する。周りにはいくつもの松明の灯り。わたしと鈴木くんを心配した捜索隊は戦闘組のみんなだった。

 嬉しくて胸がいっぱいになる。思わず泣きそうなって、大河の胸に顔を隠した。

 上から大河の声が聞こえた。

「お前ってさ。側にいても、遠ざけても危ない目に合うのな。ガキの頃はそんな事気にしなかったのに」
「…どういう事?」
「…なんでもねーよ」

 大河のしっかりした腕に運ばれて。山道を抜ける頃には、わたしは安心して眠ってしまっていた。
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