19 / 45
16話
しおりを挟む
ひと通り若ちんから話を聞いたわたしと鈴木くんは、午後からは非戦闘組の訓練に混じる事になった。
若ちんに、お大事にねー、と言って部屋を出た所で、鈴木くんに声をかけられた。
「あのさ、田中さんは、その、伊藤くんの事を好きなんじゃないの?」
「へ?大河の事?別に嫌いじゃないよ。昨日も助けてもらったし」
「あ、えーと、そういうのじゃなくて」
あぁ、恋愛的な事かな?
「んー、大河とはそんなんじゃないよ。小さい時から知ってるから、お兄ちゃんみたいな感覚かな」
イジメて来た女子にも、多分そう言ったと思うんだけど。無駄だったなー。
「あの、それならさ」
ちょっと鈴木くんがモジモジしてる。何だろ?
「田中さんに付き合って欲しいって言ったら、こんな僕でもチャンスある?」
「いいよ!どこか行きたいとこあるなら付き合うよ!」
助けてもらったお礼も出来てないし、任せて!と胸を叩いて鈴木くんを見つめた。
「……」
「……」
ん?何か空気が微妙だ。
鈴木くんが、明らかにズーンと落ち込んだのがわかった。
「うん、わかった、迷惑だったかな。ごめんね」
「え?待って待って!何でどうしたの?迷惑じゃないよ」
慌てて鈴木くんの腕を掴んだ。
わたしそんなヒドい事言った!?これはほっといたらダメなやつだ、多分!
逆に鈴木くんも戸惑ってる様子で。
「僕は恋愛的な意味で、田中さんとお付き合いしたいって言ったんだ」
「え…それって。わたしの事、好きって事?」
「あ、はい。そうです」
お互い顔を見合わせながら、しばし無言。徐々にお互いの顔が赤くなった。
「えー!!嘘!何で!」
「前から田中さんの元気な所が可愛いなって思ってて。でもてっきり伊藤くんの事が好きなのかなって思ってたから」
「え?何で?」
「だって田中さんが喋る男子、伊藤くんしかいなかったから」
何と!わたしの場合、そもそも女子とも話すのが得意じゃない。だから男子と話すのはもっとハードルが上がる。まさかそれが自分の首を絞めていたなんて!
これまで女子にイジメられた一因をこんな事で知ろうとは…ショックだ。
「まあ、僕の気持ちを伝えられただけでも良かったよ。返事はまた今度でいいから」
じゃあね、と踵を返した鈴木くんの姿は何だか寂しそうで。
あ、この人はきっと良い返事がもらえる筈無いって思ってるんだってわかった。
何でそんなに自信がないんだろう。鈴木くんは、そんなに身長は高くないし、瓶底メガネがいつもキラリとして素顔なんてちゃんと見た事ない。運動神経も良くないし、クラスでも大人しいから目立たない。
でも、とても強い人だと思う。
自分に力が無い事を理解した上で、出来る事をして備える努力をする人だ。
あの時、森で持っていた道具も、万が一に備えて作って常備していたって聞いた。
鈴木くんは「こんな僕なんか」って言ってた。違う。こんな僕なんかじゃない。
待って!って、気づいたら鈴木くんの洋服の端を掴んで引き留めていた。
ビックリして鈴木くんが振り返る。瓶底メガネがキラッと光った。少し端が欠けている。わたしを庇った時に出来た傷だ。
「わたし、男の子と話すのが苦手で!だから付き合った事もなくて!」
「あ、うん」
そんな気がしてたよ、と言って鈴木くんが笑った。
「わたしオタクだし!だから、もしかしたらトンチンカンな事するかもしれないけど!」
「僕は地学オタクだから、お揃いだね」
ニコニコする表情に、何だかキュンとした。
「だから、そんなわたしでもよければ、鈴木くんの彼女にしてください。よろしくお願いします」
鈴木くんに向かって頭を下げた。
暫く反応を待つけど、返事が無い。
恐る恐る顔を上げて鈴木くんを見ると、真っ赤になっていた。
「鈴木くん?」
「あ、ごめん。まさかそんな風に言って貰えると思わなくて。でも本当に僕なんかでいいの?自分で言うのも何だけど、僕全然冴えないし。伊藤くんや戸田くん達みたいに戦って守ったり出来ないし…」
「僕なんか、じゃないよ!私はあの時、斜面から落ちるのを庇ってくれたり、色んな道具を使って沢山のモンスターから守ってくれた貴方が良いの!」
「っ…ありがとう。嬉しい」
夢じゃないか確かめたいから、抱きしめてもいい?と恐る恐る聞かれた。
わたしも急に恥ずかしくなって、無言で頷くと、鈴木くんがまるで壊れ物を扱うみたいに、優しく抱きしめてきた。
緊張と恥ずかしさで鼓動はうるさい位なのに。不思議と鈴木くんの腕の中は安心した。甘酸っぱい様な嬉しい様な、でも幸せな気持ちが溢れてくる。
もしかしたら。わたしもあの森の中で彼に恋したのかもしれない。不思議とそう思った。
「おい、もういいか。ドア開けたいんだがよ」
若ちんの声がして、2人で振り返ると。すぐ横のドアの隙間から。不機嫌そうな若ちんが顔を出していた!
若ちんに、お大事にねー、と言って部屋を出た所で、鈴木くんに声をかけられた。
「あのさ、田中さんは、その、伊藤くんの事を好きなんじゃないの?」
「へ?大河の事?別に嫌いじゃないよ。昨日も助けてもらったし」
「あ、えーと、そういうのじゃなくて」
あぁ、恋愛的な事かな?
「んー、大河とはそんなんじゃないよ。小さい時から知ってるから、お兄ちゃんみたいな感覚かな」
イジメて来た女子にも、多分そう言ったと思うんだけど。無駄だったなー。
「あの、それならさ」
ちょっと鈴木くんがモジモジしてる。何だろ?
「田中さんに付き合って欲しいって言ったら、こんな僕でもチャンスある?」
「いいよ!どこか行きたいとこあるなら付き合うよ!」
助けてもらったお礼も出来てないし、任せて!と胸を叩いて鈴木くんを見つめた。
「……」
「……」
ん?何か空気が微妙だ。
鈴木くんが、明らかにズーンと落ち込んだのがわかった。
「うん、わかった、迷惑だったかな。ごめんね」
「え?待って待って!何でどうしたの?迷惑じゃないよ」
慌てて鈴木くんの腕を掴んだ。
わたしそんなヒドい事言った!?これはほっといたらダメなやつだ、多分!
逆に鈴木くんも戸惑ってる様子で。
「僕は恋愛的な意味で、田中さんとお付き合いしたいって言ったんだ」
「え…それって。わたしの事、好きって事?」
「あ、はい。そうです」
お互い顔を見合わせながら、しばし無言。徐々にお互いの顔が赤くなった。
「えー!!嘘!何で!」
「前から田中さんの元気な所が可愛いなって思ってて。でもてっきり伊藤くんの事が好きなのかなって思ってたから」
「え?何で?」
「だって田中さんが喋る男子、伊藤くんしかいなかったから」
何と!わたしの場合、そもそも女子とも話すのが得意じゃない。だから男子と話すのはもっとハードルが上がる。まさかそれが自分の首を絞めていたなんて!
これまで女子にイジメられた一因をこんな事で知ろうとは…ショックだ。
「まあ、僕の気持ちを伝えられただけでも良かったよ。返事はまた今度でいいから」
じゃあね、と踵を返した鈴木くんの姿は何だか寂しそうで。
あ、この人はきっと良い返事がもらえる筈無いって思ってるんだってわかった。
何でそんなに自信がないんだろう。鈴木くんは、そんなに身長は高くないし、瓶底メガネがいつもキラリとして素顔なんてちゃんと見た事ない。運動神経も良くないし、クラスでも大人しいから目立たない。
でも、とても強い人だと思う。
自分に力が無い事を理解した上で、出来る事をして備える努力をする人だ。
あの時、森で持っていた道具も、万が一に備えて作って常備していたって聞いた。
鈴木くんは「こんな僕なんか」って言ってた。違う。こんな僕なんかじゃない。
待って!って、気づいたら鈴木くんの洋服の端を掴んで引き留めていた。
ビックリして鈴木くんが振り返る。瓶底メガネがキラッと光った。少し端が欠けている。わたしを庇った時に出来た傷だ。
「わたし、男の子と話すのが苦手で!だから付き合った事もなくて!」
「あ、うん」
そんな気がしてたよ、と言って鈴木くんが笑った。
「わたしオタクだし!だから、もしかしたらトンチンカンな事するかもしれないけど!」
「僕は地学オタクだから、お揃いだね」
ニコニコする表情に、何だかキュンとした。
「だから、そんなわたしでもよければ、鈴木くんの彼女にしてください。よろしくお願いします」
鈴木くんに向かって頭を下げた。
暫く反応を待つけど、返事が無い。
恐る恐る顔を上げて鈴木くんを見ると、真っ赤になっていた。
「鈴木くん?」
「あ、ごめん。まさかそんな風に言って貰えると思わなくて。でも本当に僕なんかでいいの?自分で言うのも何だけど、僕全然冴えないし。伊藤くんや戸田くん達みたいに戦って守ったり出来ないし…」
「僕なんか、じゃないよ!私はあの時、斜面から落ちるのを庇ってくれたり、色んな道具を使って沢山のモンスターから守ってくれた貴方が良いの!」
「っ…ありがとう。嬉しい」
夢じゃないか確かめたいから、抱きしめてもいい?と恐る恐る聞かれた。
わたしも急に恥ずかしくなって、無言で頷くと、鈴木くんがまるで壊れ物を扱うみたいに、優しく抱きしめてきた。
緊張と恥ずかしさで鼓動はうるさい位なのに。不思議と鈴木くんの腕の中は安心した。甘酸っぱい様な嬉しい様な、でも幸せな気持ちが溢れてくる。
もしかしたら。わたしもあの森の中で彼に恋したのかもしれない。不思議とそう思った。
「おい、もういいか。ドア開けたいんだがよ」
若ちんの声がして、2人で振り返ると。すぐ横のドアの隙間から。不機嫌そうな若ちんが顔を出していた!
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる