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第1部 呪いの館 復讐編

26話

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 落ち着いた華と怜が部屋を出て来た。2人の目元は明らかに泣いたのがわかる程、腫れていた。

「随分遅かったな」
「2人っきりにさせてあげたんだよ」

 怜の目は再び碧く変化した。そのまま3人で祭壇の前に進む。

 儀式が始まる。

 何となくそれがわかり、華は邪魔にならない場所で待機する。

 3人は腕輪のついた側の手を、祭壇前の台に乗せた。

 怜が華を見て、腕輪のついてない側の手を伸ばす。

 その手を取っていいか迷ったが、怜が手を下ろす様子はない。

 ためらいがちに華は手を繋いだ。

 腕輪が淡く光り、ほのかな光の粒が立ちのぼる。祭壇の上部で、それぞれの光がゆっくり円を描くように回り出した。

 初日に此処に来た時に聞いた声が、再び頭に響いた。

『腕輪を台へ。置いたら下がるがいい』

 怜が華の手を離して腕輪を外した。その途端に、怜の瞳が黒に戻る。

 3人は言われた通り腕輪を台に載せ、祭壇から少し離れて並ぶ。華も怜の横に並んだ。

 祭壇で回っていた3つの優しい光が、そのまま下に降りてきて…人の形に変わった。

 現れた人物はいずれも綺麗な顔立ちの金髪碧眼の外国人だった。身体は透けて、淡い光を帯びていた。

 勇輝の前には、20歳前後の凛々しい青年が立っていた。長身でサラサラの髪に意志が強そうな瞳をした美形だった。初めて見た時のような、魂が抜け落ちた顔ではなく、意志を感じられる目だ。

 桃の前にはふわふわウェーブの髪型に大きな瞳をした少女が立っていた。華達と同じ10代後半に見える。上品な雰囲気をまとった美少女だった。

 怜の前にはゆるいウェーブの髪に理知的な瞳の少年が立っていた。やはり10代後半位に見える。柔らかい雰囲気の美しい少年だった。

 この3人が、勇輝達3人に取り憑いた幽霊。そしてこの洋館で殺された住人。

 その残酷な過去を思うと、見守っていた4人は胸が苦しくなった。

『ー呼ばれた者は帰り、魂は元に戻るー』

 その言葉に、呼ばれた側の4人は安堵の息を吐く。

 だが言葉はまだ続いた。

『ー救いには救いを。恨みには恨みをー』

 不吉な言葉に4人の顔が強張った。

 祭壇上部の女神像が全体的に淡く光り、その眼が一際強く光り輝いた。
 
 ガチャリ

 華達4人の遥か後方から何か外れるような音がした。

『扉をくぐれば現世に戻るー』

 そう言い終え、女神像の光りが少しずつ弱まっていく。

 4人は後ろを振り返った。

 あの、勇輝が体当たりしたドアの隙間から光が差し込んでた。この世界に来た時には出れなかった扉だ。

 真っ黒に塗り潰されていた、扉横の窓からも、明るい光が室内に入り込んでいる。

「これで帰れる?!」

 そう言ったのは誰の声だったのか。もしかしたら自分含め、何人かの声が重なっていたかもしれない。

 その位、その一言はみんなの気持ちを代弁していた。ここから出れる!喜びで身体が震えそうだった。

「ちょっと待って!」

 早る心に駆け出そうとした華達に、ストップをかける声があった。怜だった。
 

ーーー


 次で第1部は最終話です。
 第2部に続きます。
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