1 / 1
人間
しおりを挟むこれは僕が人間を期待しなくなった話。
妖の僕は人間から煙たがられていた
別に悲しくなんてない。蹴られたり罵声を浴びせられたりしてもあいつがそばに居るから平気だった。
そう、あの時までは。
いつもみたいに暴力をふられ家に帰ってきた時だった。
あいつが居ない。
あいつは両親を人間に殺されてそれ以来僕と共に暮らしていた。
嫌な予感がした。
走った。とにかく走った。でも雨が酷く視界はかすみ辺りは暗くなっていた。
するとあいつは森の奥深いところにいた。
『よかった…。』
安心したのもつかの間、次の瞬間心臓がドクンと音を立てる。
目の前に飛び込んできたのは血まみれで倒れていたあいつだった。
『え…。』
世界から音が消えたようだった。
息苦しくめまいがする。この感覚はなんだろう、初めての感覚に戸惑いながらあいつの元に駆けつける。あいつは生きていた。
『…!!!誰にやられた!!』
「人間…」
『今すぐ手当するから!!!』
「よく聞いて…、お前はこの村を…、離れろ…、」
『!!!何言ってんだよ!』
「…俺は…もう、ダメだがら…お前だ、けでも…。」
『おい!!!やめろよ!最期みたいなこと言うなよ…!!!』
「大丈夫…お前なら、きっとうまくやれる…」
するとあいつは笑いながら息を引き取った。
『うわああああ!!!!!!』
僕は泣いた。叫んだ。
冷たくなったあいつの体を抱き抱えながら。
いくら叫んでも泣きわめいても死んだやつは戻ってこない。
一晩中僕は泣き続けた。
あの出来事のあと、俺は人間の村とは遠い山奥で暮らした。
500年もの月日が経っていた。
するとある日歳6つの子供が山の奥に入ってきた。
日が暮れても帰ろうとしないので声をかけてみることにした。
『小僧、そこで何をしている。さっさと村へ帰れ。』
「僕は生贄です。僕を食べてください。」
人間はなんて愚かなのだろう。
作物が実らないからといって子供を差し出すのか。
『くだらない』
「食べてくださいそうしないと村に雨が降りません。」
最近退屈していたところだ。少しの間食用にしておくのも悪くない。
『いいだろう。だがお前は食べるのにはまだ小さすぎる。食べ頃になるまで俺の世話係でもしていろ。』
それから人間との生活が始まった。
人間との日々はすごく新鮮だった。まるであいつと過ごしているかのようだった。
何となく傍において4年の月日がたった。
「あの、僕を食べないんですか。」
『まだお前を食べるのには早すぎる。』
「そうですか。」
すると人間は何故か自分が生贄になった経緯を話し始めた。
人間は両親に捨てられ村の人達から蔑まれていたという。
何となく昔のあいつに似ている。
(こいつも、あいつと同じなのか…。)
あいつの事をふと思い出した。
これ以上人間と関わってはいけないのに人間に興味を持ってしまった。
この出来事から8年の年月が過ぎた。
「あの…。そろそろ僕を食べてください。」
『ダメだ。まだお前は食べ頃じゃあない。』
「でももうすぐ20になるんですが…」
『人間の年なんぞ関係ない。』
「そうですか。わかりました。」
(本当は食べ頃なんてとっくに過ぎている。俺はあいつに似ている人間を手放せずにいた、食うつもりなんてサラサラない。)
50年後
人間が病にかかった。
別れの時が来る。
「妖さん、僕を食べてください。」
『まだ食べ頃じゃない。』
「そう言って食べる時期逃してますよ。」
『そうか。』
「あなたと過ごした日々とても楽しかった…幸せでした……。」
『………俺もだ。』
すると人間は笑みを浮かべて息を引き取った。
まるであの頃のあいつと同じように。
気がつくと俺の目から雫が垂れていた。
人間は憎い。だがこいつと過ごした日々は新鮮で楽しかった。
これは俺が人間に期待しなくなった話。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
クロワッサン物語
コダーマ
歴史・時代
1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
第二次ウィーン包囲である。
戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。
敵の数は三十万。
戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。
ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
彼らをウィーンの切り札とするのだ。
戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。
そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。
そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。
戦闘、策略、裏切り、絶望──。
シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。
第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる