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592 閑話 一方その頃のあの人達やこの人達 3 sideハロス
※ハロス近衛騎士副団長の一人称です。
──何故、どうして。
こんなはずじゃなかった。何もかも上手くいっていたはずだ。幽閉塔は母クレエのおかげで完璧に隠蔽されていたし、自分だって疑われないように細心の注意を払っていた。だから目をつけられるはずはなかったんだ。
それなのに──
「歯を食いしばれー! ハロス近衛騎士副団長ぉー!!!」
そう言って、捕らえられた俺の顔を殴る近衛騎士団長──俺の実の父親の形相に、心臓が止まりそうだった。
何故、どうして。そればかりが頭をよぎり、ついで母クレエも捕まったのかと思い至る。
……そうか。それならば、俺の愛しいサムラートも、すでに保護されているのかもしれない。
そう思ったら、自然と諦めがついて、身体の力が抜けた。父はそれ以上殴ることはしなかったが、その拳はブルブルと震え、力みすぎて爪で傷つけたのだろう、血が滲んでいた。
「……申し訳……ありません、でした」
「……連れて行け」
曲がったことが大嫌いな父。真面目でお堅い近衛騎士団長。俺の憧れであり、コンプレックスでもあった父を、十年もの間裏切り、欺いていた。
その代償は大きい。そして俺と母の尻拭いをさせて申し訳ないと思う。
俺は重い足取りで、貴族牢へと連れて行かれた。俺の入る牢の隣には母クレエがすでに収監されており、俺を見て鉄柵にしがみ付いてきた。
「ハロスッ! 貴方、その頬は……」
「近衛騎士団長──父に殴られたんだよ。それくらい、してはいけないことをしていたから仕方ない」
「でも、だからって──!」
「いいんだ、母上。俺達は罪人。あとは素直に自供して、法の裁きを受けないと」
そんな会話に口を挟まずに淡々と貴族牢へと収監する近衛騎士の一人が、憐れむような顔で呟く。
「法の裁き、か。それは無理かもなぁ」
それを聞いた他の近衛騎士も、苦笑して言う。
「そうだな。最初は裁かれるだろうが……最終的には竜王国預かりになるんだろう? 団長も、お気の毒にな」
「……どういうことだ?」
同僚──すでに元がつくだろう近衛騎士達の会話に口を挟むと、彼らは驚きの情報を教えてくれた。
「いや、これ言っていいのか? でもすぐに知らされるからいいのか……貴方が拉致監禁していたオリヴァン侯爵子息は、竜人の番いだったんだよ」
「……は?」
俺は最初、何を言われているのか分からなかった。理解したくなかった。でも続く近衛騎士達の話で、じわじわと実感が湧いてくる。
「それもヴァルハラ大公子の従兄弟で魔法騎士団長アルバトロス殿の番いだって。いやもう、話を聞いたときはこの国終わったなって思ったね」
「……竜人の……番い? サミュが?」
俺のサムラート──サミュが、番い至上主義だと言われる竜人の、しかも王族に近しい身分の──
「それ、もう、俺の命、ないんじゃ……」
「……」
隣で聞いていた母も、絶句している。それはそうだろう。今までの彼への監禁生活を知られれば、それはもう、確実になぶり殺しだ。彼らは番いのために平然と相手を殺す。関わった人も国も滅ぼす。そういう種族だと知っている。
「……俺のせいで、何も悪くない父や兄も、殺されるのか……? 国が、滅びるのか?」
「その辺りは俺達では何とも言えない。まあ、国自体は存続されるだろうが……。とにかく、事情聴取には素直に応じたほうがいい」
「まあ、自業自得だ。甘んじて受け入れろ」
そう言い置いて、近衛騎士達は去って行った。あとは見張りの近衛騎士が数名残りるのみ。
静まり返る貴族牢で、俺と母はなすすべもなく、ベッドに倒れ込む。
普段のベッドの寝心地とはほど遠い質素なその寝具に顔を埋めて、サムラートの虚無の顔を思い浮かべる。
最初の方こそ抵抗もあったが、媚薬を使い、無理矢理にその身体を開いていけば、やがて俺に身体を預けるようになった。
それを俺は、俺に絆されて受け入れてくれたんだと、都合のいいように思い込んで。
行為の最中に微笑み、嬌声をあげるサミュ。あれは俺を見て微笑んでいたんじゃない。虚ろな瞳で、きっと、まだ見ぬ番いを夢見て縋っていたんだ。俺自身を見ていなかったんだ。
──そっか。俺はこの十年、一方的に愛を注いで、サムラートを壊していたんだな。いや、愛と言いながらも、結局は独りよがりの性暴力だ。
確かにここ数年は事後、見つからないようにさっさと幽閉塔をあとにしていた。気を失っているサミュを介抱もせず、行為のあとの始末もせず、愛していると言いながら、ヤり捨てていたんだ。
これでもう逃げられないと安心して、それで満足して、籠の鳥の世話をおざなりにして。釣った魚に餌を与えないで放置していたようなもの。
冷静になって考えれば考えるほど、酷い仕打ちだ。最低だな、俺。
今更遅いが、押し寄せる後悔や申し訳なさに、俺が泣くのはお門違いと思いながらも、涙が止まらなかった。
──何故、どうして。
こんなはずじゃなかった。何もかも上手くいっていたはずだ。幽閉塔は母クレエのおかげで完璧に隠蔽されていたし、自分だって疑われないように細心の注意を払っていた。だから目をつけられるはずはなかったんだ。
それなのに──
「歯を食いしばれー! ハロス近衛騎士副団長ぉー!!!」
そう言って、捕らえられた俺の顔を殴る近衛騎士団長──俺の実の父親の形相に、心臓が止まりそうだった。
何故、どうして。そればかりが頭をよぎり、ついで母クレエも捕まったのかと思い至る。
……そうか。それならば、俺の愛しいサムラートも、すでに保護されているのかもしれない。
そう思ったら、自然と諦めがついて、身体の力が抜けた。父はそれ以上殴ることはしなかったが、その拳はブルブルと震え、力みすぎて爪で傷つけたのだろう、血が滲んでいた。
「……申し訳……ありません、でした」
「……連れて行け」
曲がったことが大嫌いな父。真面目でお堅い近衛騎士団長。俺の憧れであり、コンプレックスでもあった父を、十年もの間裏切り、欺いていた。
その代償は大きい。そして俺と母の尻拭いをさせて申し訳ないと思う。
俺は重い足取りで、貴族牢へと連れて行かれた。俺の入る牢の隣には母クレエがすでに収監されており、俺を見て鉄柵にしがみ付いてきた。
「ハロスッ! 貴方、その頬は……」
「近衛騎士団長──父に殴られたんだよ。それくらい、してはいけないことをしていたから仕方ない」
「でも、だからって──!」
「いいんだ、母上。俺達は罪人。あとは素直に自供して、法の裁きを受けないと」
そんな会話に口を挟まずに淡々と貴族牢へと収監する近衛騎士の一人が、憐れむような顔で呟く。
「法の裁き、か。それは無理かもなぁ」
それを聞いた他の近衛騎士も、苦笑して言う。
「そうだな。最初は裁かれるだろうが……最終的には竜王国預かりになるんだろう? 団長も、お気の毒にな」
「……どういうことだ?」
同僚──すでに元がつくだろう近衛騎士達の会話に口を挟むと、彼らは驚きの情報を教えてくれた。
「いや、これ言っていいのか? でもすぐに知らされるからいいのか……貴方が拉致監禁していたオリヴァン侯爵子息は、竜人の番いだったんだよ」
「……は?」
俺は最初、何を言われているのか分からなかった。理解したくなかった。でも続く近衛騎士達の話で、じわじわと実感が湧いてくる。
「それもヴァルハラ大公子の従兄弟で魔法騎士団長アルバトロス殿の番いだって。いやもう、話を聞いたときはこの国終わったなって思ったね」
「……竜人の……番い? サミュが?」
俺のサムラート──サミュが、番い至上主義だと言われる竜人の、しかも王族に近しい身分の──
「それ、もう、俺の命、ないんじゃ……」
「……」
隣で聞いていた母も、絶句している。それはそうだろう。今までの彼への監禁生活を知られれば、それはもう、確実になぶり殺しだ。彼らは番いのために平然と相手を殺す。関わった人も国も滅ぼす。そういう種族だと知っている。
「……俺のせいで、何も悪くない父や兄も、殺されるのか……? 国が、滅びるのか?」
「その辺りは俺達では何とも言えない。まあ、国自体は存続されるだろうが……。とにかく、事情聴取には素直に応じたほうがいい」
「まあ、自業自得だ。甘んじて受け入れろ」
そう言い置いて、近衛騎士達は去って行った。あとは見張りの近衛騎士が数名残りるのみ。
静まり返る貴族牢で、俺と母はなすすべもなく、ベッドに倒れ込む。
普段のベッドの寝心地とはほど遠い質素なその寝具に顔を埋めて、サムラートの虚無の顔を思い浮かべる。
最初の方こそ抵抗もあったが、媚薬を使い、無理矢理にその身体を開いていけば、やがて俺に身体を預けるようになった。
それを俺は、俺に絆されて受け入れてくれたんだと、都合のいいように思い込んで。
行為の最中に微笑み、嬌声をあげるサミュ。あれは俺を見て微笑んでいたんじゃない。虚ろな瞳で、きっと、まだ見ぬ番いを夢見て縋っていたんだ。俺自身を見ていなかったんだ。
──そっか。俺はこの十年、一方的に愛を注いで、サムラートを壊していたんだな。いや、愛と言いながらも、結局は独りよがりの性暴力だ。
確かにここ数年は事後、見つからないようにさっさと幽閉塔をあとにしていた。気を失っているサミュを介抱もせず、行為のあとの始末もせず、愛していると言いながら、ヤり捨てていたんだ。
これでもう逃げられないと安心して、それで満足して、籠の鳥の世話をおざなりにして。釣った魚に餌を与えないで放置していたようなもの。
冷静になって考えれば考えるほど、酷い仕打ちだ。最低だな、俺。
今更遅いが、押し寄せる後悔や申し訳なさに、俺が泣くのはお門違いと思いながらも、涙が止まらなかった。
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