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連載
閑話 ヴァルハラ大公家(sideアヴィール)
本日の午後、旦那様とともに王城に登城予定のアルカンシエル様とノア様が精霊王様の転移でヴァルハラ大公家に帰宅されました。
「あ、アークとノアちゃんが来た!」
執務室で執務中だった旦那様が、その気配を察知して即座に動きます。何時も思うのですが、この家の主様方は何故それが分かるのでしょうか。
まあ、旦那様方を探してお呼びするときには便利なのでヨシとしましょう。アルカンシエル様やノア様の来訪を告げれば、どこにいても即座に現れますからね。
こうして執務室に側近のレーゲン様を留守番させて向かっているところで、その先の廊下で仲睦まじいお二方を発見。
旦那様の言葉に顔を赤くするノア様が微笑ましい。
それはそれで何時までも眺めていたいのですが、何しろこのあと登城を控えておりますゆえ、早々に支度を整えなければいけません。
そう思って衣装部屋に待機中のルフトのことを口にすると、ノア様のお言葉が……
「空気のような人だよね」
それを聞いて私は微笑み、アルカンシエル様は噴き出すのを堪えております。ノア様はキョトンとしておりますが、その言葉は我ら使用人にとっては最上級の褒め言葉ですよ。気配を消して寄り添い、先を読んで行動する。これが修練するのにどれほどかかることか。
中には天賦の才で数年足らずで出来る者もおりますが、普通は幼い頃より励み、上級使用人ともなれば早くとも一〇年くらいはかかるものです。
ルフトも幼少よりアルカンシエル様付きに決定してからずっとお仕えしておりますから、きっと伝えたら喜ぶでしょうね。
「ではお着替えをお願い致します」
「うん。わあ、綺麗な服だね!」
「お揃いの色と型だな」
「ルフト、あとは頼みますね」
「はい、お任せ下さい」
部屋に用意しておいた衣装一式を見て、ノア様が感嘆の声を上げる。それにアルカンシエル様も同意し、和やかな空気になる。
私が部屋に控えていたルフトに声をかけると、ノア様はハッとしていた。やはり気づいていなかったらしい。
「ルフト、いたんだね。ああ、いるとは聞いてたけど、空気みたいで分からなかった」
「それは、ありがとうございます」
「ええ、ありがとう、なんだ? やっぱり貴族の人の感覚がよく分からないよ」
「ノアはそのままでいい」
そんな会話を聞きながら、私は旦那様と隣の衣装部屋に移動し、旦那様の支度を致します。
あちらはおそらくアルカンシエル様がノア様の支度を整えるでしょう。ルフトはアルカンシエル様のお着替えの補助くらいのものです。
ルフト本人はずっと仕える主が不在がちでちょっとやりがいがなさそうでしたが、ノア様という番い様が出来たことでわりと頻繁に帰省されるようになり、心なしかウキウキしているようです。そこはよかったと思いますよ。
そうして三〇分ほどしてすっかり支度が済んだお三方は、側近のレーゲン様と共にヴァルハラ大公家の家紋付きの黒塗りの立派な四頭立ての馬車に乗り込むと、護衛騎士達に囲まれ、颯爽と王城に向かわれました。
「……今日も滞りなく済んでよかったですね」
「本当です。こちらは気を抜くと主様方がイチャイチャ始めるので、止めるのが大変でしたよ」
全く、私の存在を完全に忘れていますので、などと愚痴るルフトの頭をポンと撫でる。
「それだけルフトの前では気を抜いているということでしょう。それこそ使用人冥利に尽きるとは思わないですか?」
「──っあ……はい」
私の言葉にハッとするルフト。主様方から信頼を寄せられている。無防備な姿を見せてくれる。
そんな使用人になれたということではないだろうか。
「……そう考えると、嬉しいです」
「ええ、これからもそうでありたいですね。なので私達もまだまだ精進しましょう」
「アヴィール様はもういいのでは?」
「いえいえ、まだ若い者には負けられませんよ」
ほっほっほと笑って邸に戻る私のあとを微笑みながら付いてくるルフト。
今日もヴァルハラ大公家は平和です。
──このあと、怒濤の忙しさになるとは思いもせず、しばしの平和を堪能するのでした。
「あ、アークとノアちゃんが来た!」
執務室で執務中だった旦那様が、その気配を察知して即座に動きます。何時も思うのですが、この家の主様方は何故それが分かるのでしょうか。
まあ、旦那様方を探してお呼びするときには便利なのでヨシとしましょう。アルカンシエル様やノア様の来訪を告げれば、どこにいても即座に現れますからね。
こうして執務室に側近のレーゲン様を留守番させて向かっているところで、その先の廊下で仲睦まじいお二方を発見。
旦那様の言葉に顔を赤くするノア様が微笑ましい。
それはそれで何時までも眺めていたいのですが、何しろこのあと登城を控えておりますゆえ、早々に支度を整えなければいけません。
そう思って衣装部屋に待機中のルフトのことを口にすると、ノア様のお言葉が……
「空気のような人だよね」
それを聞いて私は微笑み、アルカンシエル様は噴き出すのを堪えております。ノア様はキョトンとしておりますが、その言葉は我ら使用人にとっては最上級の褒め言葉ですよ。気配を消して寄り添い、先を読んで行動する。これが修練するのにどれほどかかることか。
中には天賦の才で数年足らずで出来る者もおりますが、普通は幼い頃より励み、上級使用人ともなれば早くとも一〇年くらいはかかるものです。
ルフトも幼少よりアルカンシエル様付きに決定してからずっとお仕えしておりますから、きっと伝えたら喜ぶでしょうね。
「ではお着替えをお願い致します」
「うん。わあ、綺麗な服だね!」
「お揃いの色と型だな」
「ルフト、あとは頼みますね」
「はい、お任せ下さい」
部屋に用意しておいた衣装一式を見て、ノア様が感嘆の声を上げる。それにアルカンシエル様も同意し、和やかな空気になる。
私が部屋に控えていたルフトに声をかけると、ノア様はハッとしていた。やはり気づいていなかったらしい。
「ルフト、いたんだね。ああ、いるとは聞いてたけど、空気みたいで分からなかった」
「それは、ありがとうございます」
「ええ、ありがとう、なんだ? やっぱり貴族の人の感覚がよく分からないよ」
「ノアはそのままでいい」
そんな会話を聞きながら、私は旦那様と隣の衣装部屋に移動し、旦那様の支度を致します。
あちらはおそらくアルカンシエル様がノア様の支度を整えるでしょう。ルフトはアルカンシエル様のお着替えの補助くらいのものです。
ルフト本人はずっと仕える主が不在がちでちょっとやりがいがなさそうでしたが、ノア様という番い様が出来たことでわりと頻繁に帰省されるようになり、心なしかウキウキしているようです。そこはよかったと思いますよ。
そうして三〇分ほどしてすっかり支度が済んだお三方は、側近のレーゲン様と共にヴァルハラ大公家の家紋付きの黒塗りの立派な四頭立ての馬車に乗り込むと、護衛騎士達に囲まれ、颯爽と王城に向かわれました。
「……今日も滞りなく済んでよかったですね」
「本当です。こちらは気を抜くと主様方がイチャイチャ始めるので、止めるのが大変でしたよ」
全く、私の存在を完全に忘れていますので、などと愚痴るルフトの頭をポンと撫でる。
「それだけルフトの前では気を抜いているということでしょう。それこそ使用人冥利に尽きるとは思わないですか?」
「──っあ……はい」
私の言葉にハッとするルフト。主様方から信頼を寄せられている。無防備な姿を見せてくれる。
そんな使用人になれたということではないだろうか。
「……そう考えると、嬉しいです」
「ええ、これからもそうでありたいですね。なので私達もまだまだ精進しましょう」
「アヴィール様はもういいのでは?」
「いえいえ、まだ若い者には負けられませんよ」
ほっほっほと笑って邸に戻る私のあとを微笑みながら付いてくるルフト。
今日もヴァルハラ大公家は平和です。
──このあと、怒濤の忙しさになるとは思いもせず、しばしの平和を堪能するのでした。
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