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連載
669 再びの接触 1
ティンバー達は、俺達と同じ『火の鳥』に二部屋とった。ツイン一つにティンバーとヴァン、あと四人部屋が一つ空いててそっちにアオとアルフレートとゼルダが泊まるそうだ。
そっか、ティンバーとヴァンはニコイチだった。
部屋を取ったあと、俺はアークと一緒にティンバー達を連れて『ファームの焔』を訪れた。
店は開店後間もないのに、あっという間に大行列ができていた。
「今日も大盛況だね」
「美味いもんな。それに量も多くて俺みたいな大食漢でも満足できるし」
『うむむ、先ほどから思っていたが、何やらノアの料理に似た匂いがするぞ。これはどういうことだ』
ヴァンが思わずという感じでスリングから顔だけ出してクンクンと匂いを嗅いでいる。さすが鼻のいいイッヌもといフェンリル。
「この店はギギルル兄弟の実家のギルファームの野菜や果物をふんだんに使った料理を出す店なんだ。俺が以前にレシピを提供したから俺の料理に似てるわけ」
「食材や香辛料で上手いことアレンジしてこの国に合う味付けになっている。辛いものも多いがヴァンは大丈夫か?」
俺とアークの説明にヴァンは目を輝かせて頷く。
『我は美味ければ何でも大丈夫だ。そうか、辛いものは寒いところで身体を温めるのに向いていると思っていたが、暑いところでも使うのか』
確かに体温を上げるのにもってこいの料理だよね。俺はギギ達から聞いたことを教えてあげる。
「暑いからこそ辛い刺激で汗をかいて気分爽快になるらしいよ」
『ほう……我は汗などかかんからその気持ちは分からん』
「それもそうか」
イッヌは汗をかかないんだっけ。いや、そもそもヴァンは氷の幻獣だったね。
そんな俺とヴァンの会話を聞いてティンバー達も思わず失笑する。
「あとね、たぶん今日もギギルル兄弟が給仕をしていると思うから、いたらティン、んんっ、ティグ達にも紹介するね」
「あ、ああ、分かった」
「うう、まだ言い慣れないな」
思わず本名が出てきそうになって言い直すけど、うっかり出ちゃいそう。気をつけるけど、そのときはアーク達にフォローしてもらおう。
するとアオが何か察したようで、俺にこっそりと声をかけてきた。
「ノアさん、魔人国で俺達のことをよく知る人は少ないと思うからぁ、ちょっとくらい言い間違えても大丈夫だよぉ」
「そ、そう?」
そう言われればそうかもしれない。じゃあ緊張しなくてすむね。
「分かった、ありがとう、アス」
そう言ったら、聞いていたティンバーがちょっとムッとした。
「む、俺の名前は間違えそうになるのに、なぜアスは間違えないんだ」
ティンバーにそう言われて考える。
「……言いやすいから?」
「あんまり変わらないよな?」
本気で分からないからそう答えれば、ティンバーが突っ込んできた。そう言われても理由が思いつかないんだもの。
そんな俺達のやりとりを見ていたヴァンがスンッとした顔で言った。
『そんなに間違えそうならティンバーとティグの頭のティだけで呼べばいいだろうが』
「──あっ」
「その手があった」
それならどっちも同じだからおかしくない。
「ヴァンってたまにいいこと言うね!」
『たまにとは何だ!』
「いえいえ、いつもいいことを言いますよね」
「ティはヴァンに甘い」
行列に並びながらワイワイガヤガヤと賑やかな俺達を周りの人達が見ているのに気づき、俺達はちょっと声を抑える。
うるさくしてごめんなさい。
ただ周りはSランク冒険者の俺達と一緒にいるティンバー達に興味津々だったらしくて、迷惑だったわけじゃなかったらしい。
ティンバーの胸元のスリングから顔を出すヴァンを可愛いと言っていたり、可愛い顔立ちのアオ達をちらちら見ていたり。
どれも悪意は感じなかったから気にしないようにしていた。
しばらくして案内の順番がきて店内に入るとまた視線が集まったが、ティンバー達にも視線が散ったのでそこまで気にはならなかった。
奥の方の四人掛けの机を隣同士で二つ案内され、俺とアーク、ティンバー達四人と別れて座った。
「さて、今日は何がいいかな」
「おう、いらっしゃい! 今日はホーンラビットの煮込みがオススメだぞ」
机に置いてあるメニュー表を見てそう言うと、聞き馴染んだ声が聞こえてきて顔を上げる。
「ギギ、こんにちは」
「おう、また来てくれて嬉しいぜ。そっちは知り合いか?」
「うん、獣人国の知り合い。あとでよく紹介するね。あ、ティ、彼がギギで向こうにいる人がルルだよ」
俺がそう言って手を上げると、ルルも気づいて手を上げた。
「よろしくな、ギギとルルだ」
ギギがルルの分もまとめて挨拶するとティンバー達も軽く挨拶を交わした。
「よろしく。ティグだ。あとアスとレトとゼン」
「よろしく」
「どうも」
「よろしくお願いします」
ギギはニカッと笑った。
「おう、じゃああとでな。注文を言ってくれ」
「うん、じゃあ──」
そうしてギギは注文を受けると忙しなく厨房に戻っていった。
それから雑談をしている間、ティンバー達はちょこちょこと給仕の手伝いをするクルール達を目で追ってはほわんとした空気を醸し出していた。
「可愛いねぇ」
思わず漏れたアオの呟きに頷くアルフレートとゼルダが微笑ましくなる。
そんなときに不意に声をかけられてビクッとなった。
「あれ、やっぱりノアだ。こんにちは!」
見ればいつの間にか俺達の席の空いている場所にヴィンがいた。
※冒頭にティンバー達の宿の状況を追加しました。忘れていたので。
そっか、ティンバーとヴァンはニコイチだった。
部屋を取ったあと、俺はアークと一緒にティンバー達を連れて『ファームの焔』を訪れた。
店は開店後間もないのに、あっという間に大行列ができていた。
「今日も大盛況だね」
「美味いもんな。それに量も多くて俺みたいな大食漢でも満足できるし」
『うむむ、先ほどから思っていたが、何やらノアの料理に似た匂いがするぞ。これはどういうことだ』
ヴァンが思わずという感じでスリングから顔だけ出してクンクンと匂いを嗅いでいる。さすが鼻のいいイッヌもといフェンリル。
「この店はギギルル兄弟の実家のギルファームの野菜や果物をふんだんに使った料理を出す店なんだ。俺が以前にレシピを提供したから俺の料理に似てるわけ」
「食材や香辛料で上手いことアレンジしてこの国に合う味付けになっている。辛いものも多いがヴァンは大丈夫か?」
俺とアークの説明にヴァンは目を輝かせて頷く。
『我は美味ければ何でも大丈夫だ。そうか、辛いものは寒いところで身体を温めるのに向いていると思っていたが、暑いところでも使うのか』
確かに体温を上げるのにもってこいの料理だよね。俺はギギ達から聞いたことを教えてあげる。
「暑いからこそ辛い刺激で汗をかいて気分爽快になるらしいよ」
『ほう……我は汗などかかんからその気持ちは分からん』
「それもそうか」
イッヌは汗をかかないんだっけ。いや、そもそもヴァンは氷の幻獣だったね。
そんな俺とヴァンの会話を聞いてティンバー達も思わず失笑する。
「あとね、たぶん今日もギギルル兄弟が給仕をしていると思うから、いたらティン、んんっ、ティグ達にも紹介するね」
「あ、ああ、分かった」
「うう、まだ言い慣れないな」
思わず本名が出てきそうになって言い直すけど、うっかり出ちゃいそう。気をつけるけど、そのときはアーク達にフォローしてもらおう。
するとアオが何か察したようで、俺にこっそりと声をかけてきた。
「ノアさん、魔人国で俺達のことをよく知る人は少ないと思うからぁ、ちょっとくらい言い間違えても大丈夫だよぉ」
「そ、そう?」
そう言われればそうかもしれない。じゃあ緊張しなくてすむね。
「分かった、ありがとう、アス」
そう言ったら、聞いていたティンバーがちょっとムッとした。
「む、俺の名前は間違えそうになるのに、なぜアスは間違えないんだ」
ティンバーにそう言われて考える。
「……言いやすいから?」
「あんまり変わらないよな?」
本気で分からないからそう答えれば、ティンバーが突っ込んできた。そう言われても理由が思いつかないんだもの。
そんな俺達のやりとりを見ていたヴァンがスンッとした顔で言った。
『そんなに間違えそうならティンバーとティグの頭のティだけで呼べばいいだろうが』
「──あっ」
「その手があった」
それならどっちも同じだからおかしくない。
「ヴァンってたまにいいこと言うね!」
『たまにとは何だ!』
「いえいえ、いつもいいことを言いますよね」
「ティはヴァンに甘い」
行列に並びながらワイワイガヤガヤと賑やかな俺達を周りの人達が見ているのに気づき、俺達はちょっと声を抑える。
うるさくしてごめんなさい。
ただ周りはSランク冒険者の俺達と一緒にいるティンバー達に興味津々だったらしくて、迷惑だったわけじゃなかったらしい。
ティンバーの胸元のスリングから顔を出すヴァンを可愛いと言っていたり、可愛い顔立ちのアオ達をちらちら見ていたり。
どれも悪意は感じなかったから気にしないようにしていた。
しばらくして案内の順番がきて店内に入るとまた視線が集まったが、ティンバー達にも視線が散ったのでそこまで気にはならなかった。
奥の方の四人掛けの机を隣同士で二つ案内され、俺とアーク、ティンバー達四人と別れて座った。
「さて、今日は何がいいかな」
「おう、いらっしゃい! 今日はホーンラビットの煮込みがオススメだぞ」
机に置いてあるメニュー表を見てそう言うと、聞き馴染んだ声が聞こえてきて顔を上げる。
「ギギ、こんにちは」
「おう、また来てくれて嬉しいぜ。そっちは知り合いか?」
「うん、獣人国の知り合い。あとでよく紹介するね。あ、ティ、彼がギギで向こうにいる人がルルだよ」
俺がそう言って手を上げると、ルルも気づいて手を上げた。
「よろしくな、ギギとルルだ」
ギギがルルの分もまとめて挨拶するとティンバー達も軽く挨拶を交わした。
「よろしく。ティグだ。あとアスとレトとゼン」
「よろしく」
「どうも」
「よろしくお願いします」
ギギはニカッと笑った。
「おう、じゃああとでな。注文を言ってくれ」
「うん、じゃあ──」
そうしてギギは注文を受けると忙しなく厨房に戻っていった。
それから雑談をしている間、ティンバー達はちょこちょこと給仕の手伝いをするクルール達を目で追ってはほわんとした空気を醸し出していた。
「可愛いねぇ」
思わず漏れたアオの呟きに頷くアルフレートとゼルダが微笑ましくなる。
そんなときに不意に声をかけられてビクッとなった。
「あれ、やっぱりノアだ。こんにちは!」
見ればいつの間にか俺達の席の空いている場所にヴィンがいた。
※冒頭にティンバー達の宿の状況を追加しました。忘れていたので。
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