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連載
574 夢現(ゆめうつつ)sideサムラート
※ちょっと無理矢理に行為をされる表現や精神的に不安定な描写があります。苦手な方はご自衛をお願いします。
今日も私は抱かれている。
顔の分からない相手に、ずっと抱かれている。何時から? 分からない。憶えていない。
何時も記憶は曖昧だ。ぼんやりと、ただひたすらに、靄がかった誰かに揺さぶられる。
薄い膜の向こうから聞こえる、酷く甲高い誰かの掠れた声が、耳を通り抜けていく。
──違う。これは私じゃない。
何時も不意に始まって、唐突に終わるその行為を、膜を隔てたところから眺めている感覚。ただただ、目に映っているだけで理解はできていないのだけれど。
──……
顔の分からない誰かの気配が消えてしばらくすると、ぼんやりしていた意識が戻る。
ベッドに散る、伸び放題の濃いグレーの髪を引きずりながら気怠い身体を何とか動かし、自分のいる部屋を丸ごと浄化魔法で綺麗にすると、脱ぎ散らかされた衣服をおざなりに身に着ける。
と言っても、前開きのヒラヒラした薄い生地のチュニックと七分丈のズボンくらいだけど。ボタンを留めるのも億劫で、真ん中辺りのいくつかを適当に留めるだけ。
それだけでもう、動きたくなくて、ベッドに寝転んで目を閉じる。睡魔はあっと言う間だ。
どれくらい眠ったのか、空腹で目が覚める。誰かが置いていったマジックボックスに入っている食べ物を、適当に出して口にする。
果実水と丸いパンと……チーズかな。これでいいや。
もそもそと口を動かしていると、不意に笑いが込み上げてきた。
「……ふ、ふふっ……ぁはっ……」
こんな状況でも、やっぱりお腹は空くんだ。生きている。まだ生きている。おかしいな。もう、生きていたくないのに。
己の細い首には、細く真っ黒な首枷。私を縛り付ける魔力封じの枷。逃亡も自死も禁止されている。使える魔法は、浄化魔法と少しの飲み水を生み出す生活魔法としての水魔法くらい。
攻撃魔法が使えれば、こんな塔、一発で破壊できるのに。
「これでもぉ、私はぁ、魔導師でぇ」
現役の頃は、目立たないけどそれなりの成果を上げていた。このまま頑張れば、数年後には男爵位くらいは叙爵されるだろうって言われるくらいには、魔法の腕はよかった。
そうしたら、オリヴァン侯爵家とは縁を切って、一人で生きていこうって思っていたのに──
「ふ、ふふっ……今は……今の私は」
まるで性奴隷。アイツが、私の人生を壊した。
こんなの、まともな精神状態じゃやってられない。だから私は、偶然発現したスキルを密かに使って何時も薬を生成する。
顔の分からない誰かは、アイツだ。ハロス・コローネ。近衛騎士。あれ? 今は副団長とか言っていたかもしれない。
何時も私を抱くときにアイツに盛られる媚薬を、こっそりとスキルで解毒する。何時だったか、初めて使われたときは気がおかしくなるんじゃないかと思うほどイキまくった。あのときに憶えたから、スキルでその媚薬を解毒する薬を生成して、次は大丈夫だったんだ。
それを耐性が強いのかと思ったアイツは、今度は違う種類の媚薬を盛った。辛かった。でもそれも同じように二度目にはやはり解毒して。アイツはそれならばと、また別の媚薬を……そしてまたそれを解毒。
まさにイタチごっこ状態だった。
そんなことをどれくらい続けたのか。性暴力に対する身体の防衛本能のせいか、最後は媚薬なんて効いてなくても、この身体は快感を拾ってイキ善がるように躾けられてしまった。
でも、心だけは屈したくない。
それでもやがて心も疲弊していき、私は過去に侯爵家で散々盛られた毒の中にあった『フレンジー』を無意識に生成していた。解毒薬ももちろん生成できるが、私はわざと解毒せずに、自らフレンジーを摂取して幻影を見るようになった。
アイツを、顔のハッキリしない誰かと認識し、それを私の番いだと思い込み、番いに抱かれる夢を見る。
そうでもして現実逃避をしないと、廃人になってしまう。
それが行為中の私。フレンジーで心を護っている私。今はその効果が切れて、壊れかけている現実の私。いや、もうとっくに廃人かもしれない。
「ふふ、この薬……アイツにも盛ってるのに、ちっとも効きやしない。悪夢でも見てくれたらいいのに……。だから、恨みを込めて、ぶちまけるんだ」
スキルで大量に生成して、塔の小窓から毎日毎日、外に垂れ流す。
地面に染み込ませて、この城の飲み水に混じるように魔法で誘導する。枷があっても、それくらいの魔法操作は私には容易いんだよ。
私のこの生成のスキルは弱いから効果は薄いだろうけど、何年も続けていれば、きっと、少しは効果は出るよね?
「……誰か、気づいて。私は、生きてるよ。ここにいるよ」
誰か、助けて。
叶わぬ願いと恨みを込めて。幽閉塔から、ありったけの願いを込めて。
明日も私は、また抱かれるだろう──
この命尽きるまで。アイツに飽きられて捨てられるまで。
ああ、その時が、待ち遠しい。
私は今日も、叶わぬ夢を見ながら眠る。
夢現の中で、誰かが頭を撫でてくれたような気がした──
今日も私は抱かれている。
顔の分からない相手に、ずっと抱かれている。何時から? 分からない。憶えていない。
何時も記憶は曖昧だ。ぼんやりと、ただひたすらに、靄がかった誰かに揺さぶられる。
薄い膜の向こうから聞こえる、酷く甲高い誰かの掠れた声が、耳を通り抜けていく。
──違う。これは私じゃない。
何時も不意に始まって、唐突に終わるその行為を、膜を隔てたところから眺めている感覚。ただただ、目に映っているだけで理解はできていないのだけれど。
──……
顔の分からない誰かの気配が消えてしばらくすると、ぼんやりしていた意識が戻る。
ベッドに散る、伸び放題の濃いグレーの髪を引きずりながら気怠い身体を何とか動かし、自分のいる部屋を丸ごと浄化魔法で綺麗にすると、脱ぎ散らかされた衣服をおざなりに身に着ける。
と言っても、前開きのヒラヒラした薄い生地のチュニックと七分丈のズボンくらいだけど。ボタンを留めるのも億劫で、真ん中辺りのいくつかを適当に留めるだけ。
それだけでもう、動きたくなくて、ベッドに寝転んで目を閉じる。睡魔はあっと言う間だ。
どれくらい眠ったのか、空腹で目が覚める。誰かが置いていったマジックボックスに入っている食べ物を、適当に出して口にする。
果実水と丸いパンと……チーズかな。これでいいや。
もそもそと口を動かしていると、不意に笑いが込み上げてきた。
「……ふ、ふふっ……ぁはっ……」
こんな状況でも、やっぱりお腹は空くんだ。生きている。まだ生きている。おかしいな。もう、生きていたくないのに。
己の細い首には、細く真っ黒な首枷。私を縛り付ける魔力封じの枷。逃亡も自死も禁止されている。使える魔法は、浄化魔法と少しの飲み水を生み出す生活魔法としての水魔法くらい。
攻撃魔法が使えれば、こんな塔、一発で破壊できるのに。
「これでもぉ、私はぁ、魔導師でぇ」
現役の頃は、目立たないけどそれなりの成果を上げていた。このまま頑張れば、数年後には男爵位くらいは叙爵されるだろうって言われるくらいには、魔法の腕はよかった。
そうしたら、オリヴァン侯爵家とは縁を切って、一人で生きていこうって思っていたのに──
「ふ、ふふっ……今は……今の私は」
まるで性奴隷。アイツが、私の人生を壊した。
こんなの、まともな精神状態じゃやってられない。だから私は、偶然発現したスキルを密かに使って何時も薬を生成する。
顔の分からない誰かは、アイツだ。ハロス・コローネ。近衛騎士。あれ? 今は副団長とか言っていたかもしれない。
何時も私を抱くときにアイツに盛られる媚薬を、こっそりとスキルで解毒する。何時だったか、初めて使われたときは気がおかしくなるんじゃないかと思うほどイキまくった。あのときに憶えたから、スキルでその媚薬を解毒する薬を生成して、次は大丈夫だったんだ。
それを耐性が強いのかと思ったアイツは、今度は違う種類の媚薬を盛った。辛かった。でもそれも同じように二度目にはやはり解毒して。アイツはそれならばと、また別の媚薬を……そしてまたそれを解毒。
まさにイタチごっこ状態だった。
そんなことをどれくらい続けたのか。性暴力に対する身体の防衛本能のせいか、最後は媚薬なんて効いてなくても、この身体は快感を拾ってイキ善がるように躾けられてしまった。
でも、心だけは屈したくない。
それでもやがて心も疲弊していき、私は過去に侯爵家で散々盛られた毒の中にあった『フレンジー』を無意識に生成していた。解毒薬ももちろん生成できるが、私はわざと解毒せずに、自らフレンジーを摂取して幻影を見るようになった。
アイツを、顔のハッキリしない誰かと認識し、それを私の番いだと思い込み、番いに抱かれる夢を見る。
そうでもして現実逃避をしないと、廃人になってしまう。
それが行為中の私。フレンジーで心を護っている私。今はその効果が切れて、壊れかけている現実の私。いや、もうとっくに廃人かもしれない。
「ふふ、この薬……アイツにも盛ってるのに、ちっとも効きやしない。悪夢でも見てくれたらいいのに……。だから、恨みを込めて、ぶちまけるんだ」
スキルで大量に生成して、塔の小窓から毎日毎日、外に垂れ流す。
地面に染み込ませて、この城の飲み水に混じるように魔法で誘導する。枷があっても、それくらいの魔法操作は私には容易いんだよ。
私のこの生成のスキルは弱いから効果は薄いだろうけど、何年も続けていれば、きっと、少しは効果は出るよね?
「……誰か、気づいて。私は、生きてるよ。ここにいるよ」
誰か、助けて。
叶わぬ願いと恨みを込めて。幽閉塔から、ありったけの願いを込めて。
明日も私は、また抱かれるだろう──
この命尽きるまで。アイツに飽きられて捨てられるまで。
ああ、その時が、待ち遠しい。
私は今日も、叶わぬ夢を見ながら眠る。
夢現の中で、誰かが頭を撫でてくれたような気がした──
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