拾われた俺、最強のスパダリ閣下に全力で溺愛されてます 迷い子の月下美人

エウラ

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539 再調査と魔導具 12

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結局、明日の朝八時半ということで落ち着いた。

あれから連絡を入れてすぐに返事があり、八時でもいいですよって言われたんだけど、アークの提案した九時の間を取った形だ。

やっぱりアークの予想通り、リンクスはすごい勢いで食いついてきた。
そこで慌てた周りの側近達が宥めて、何とか収まった。うん、通信魔導具の先でわちゃわちゃしてるのが面白かったね。

「やっぱり余裕を持たせて言っておいてよかったろう?」
「うん、本当にすごかったね。周りの人、大丈夫だったかな。リンクスも見た目にそぐわず元気だったし」

興奮して暴れてるリンクスを側近達が抱えて止めてるのが竜王陛下に似てて、アーク達と苦笑しながら最終調整に入る。

「今回の移動も、精霊王エレフに転移してもらう。というか、その前提で予定組んでたな。今更無理だってことはないよな?」

アークに言われて、そういえばそうだなと思い出す。確認してないけど、エレフがいて当然のように行動してた。

「特に予定はないだろうし、大丈夫でしょ。一応、聞いてみる? エレフ」
《──はーい、喚んだぁ?》

さっきもエレフって言ったのに珍しく出てこなくて、どうしたのかなとは思ってたけど、今度は現れた。

「……やっと来たな」
「どこにいたの?」
《え、そこの庭に。何やら新顔がいたのでな、ヴァンと遊んでおったのだ》
「新顔?」

──まさか。

「大祖父様のところの影四人?」
《おお、クリリンのところのヤツらなのか。皆、いい腕をしておって、遊び甲斐があってな、楽しかったぞ》

相当楽しかったのか、ホクホク顔でそう言うエレフに、俺達はちょっと顔を青くした。さすがに凄腕の竜人と言っても、あそこは古の森とあまり変わらない魔境と化していて危険だから。そこにヴァンも加わったら……

「えええ、大丈夫なの?」
「おい、彼らはこれから重要任務で俺達と獣人国に行くんだぞ。まさかボロボロにしてないだろうな」

思わず焦る俺達を見て、エレフも顔色が悪くなる。ちょっと、マジでヤバいかも。

《え、嘘、いつ?》
「明日の朝。もちろんエレフに転移で送り迎えしてもらうことになっているから、そのために今、喚んだんだけど」
《えっ、うわ、大変! ごめんなさい、今すぐここに転移させるね!》

そう言った側から、カイリ達四人とヴァンがウラノス義父様の執務室にパッと現れた。
……全員、傷だらけで倒れてる。否、ヴァンは無傷でキョトンとお座りしている。
そして広いはずの執務室はぎゅうぎゅう詰めになった。

「ギャーッ! 早くポーション、俺のHGSハイパーグレートスペシャルポーション飲ませてぇ!」
「落ち着け、ノア。普通の錬金術師ポーションで治るから。見た目ほど重傷じゃないから」

思った以上に血塗れな四人を見て、身近な人達の怪我にちょっとパニックになった俺は、アークに抱きしめられて、ハッと正気に戻った。

「……大丈夫?」
「そうだよ。皆、急所は外れてる。竜人は頑丈だから深い傷はない」
「そっか、よかった。じゃあ普通のポーション渡すから、飲んでね」

今まで独りだったし、周りは皆、桁違いに強い人ばかりで大怪我を負うようなこともなかったから、ものすごく驚いてしまった。

え、レインは例外だよ。出会ったときには大怪我してたけど、今はアル義兄様がかすり傷一つつけさせないもん。
でも知人や身内がこんな状態になるって、ものすごく哀しくて辛い気持ちになるんだな。

アークの言葉にひとまずホッとして、アヴィールに頼んで四人に錬金術師ポーションを渡す。
ムクリと起き上がって受け取ったカイリ達は、それぞれ鑑定アナライズをしたらしい。
表情は変わらないけど、戸惑うような呟きが聞こえた。

「……これで普通」
「普通って何だっけ?」
「……さぁ」
「明日、大丈夫かな」

カイリ、テトラ、ノナ、モノの順で聞こえた呟きに首を傾げる。
普通だよ。大丈夫だよ。それにどうせ使うなら性能が高い方がいいよね。

戸惑いながらもポーションを煽って、あっと言う間に回復した四人に、声をかける。

「傷は治っても体力までは回復しないから、明日に備えて身体を休めて。義父様も、それでいいよね?」
「もちろん。元々そのために来てもらってるんだから、他のことはやらなくていいよ。明日のことだけに集中してね」
「御意」

ウラノス義父様に言質を取ったら、カイリが代表して応えて、四人とも執務室から消えた。
残ったのはエレフとヴァン。

俺はアークの膝から下りると、二人に近づいていく。エレフ達は蛇に睨まれた蛙状態になって、震えるだけで足が動かないようだった。

俺はにっこり笑って言った。威圧も出てたかもしれない。

「ヴァンは当分、肉抜きご飯ね。エレフは獣人国の送迎と、こっちも当分俺のお菓子抜きね。他所様の庭をこんな風にした挙げ句、面白そうだって理由で他人を巻き込まないでね」
『え、我はとばっちりでは──』
《そんな、ヴァンも楽しんでたろう》
「どっちでもいいよ。とにかく、返事は?」

さらに笑いながら言うと、顔を青ざめさせてぶるぶる震える二人。

『ひいっ、悪かった』
《我も、すまなかった。ここじゃ、もうしない》
「──よし」

全く、ちょっと目を離すとこれだから、困っちゃうよな。

そんなことを思っていた俺は、アーク達がエレフとヴァンに向ける憐れみの視線に気づかなかった。何なら消えたカイリ達も密かに見ていたことも気づいていなかった。

「じゃあ、明日の支度をしに戻ろうか」
「ああ、そうだな」

パッと威圧を消していつも通りに戻った俺をアークが抱えてくれたので、ギュッと抱きつく。

「明日の朝、八時にここに来るから、よろしくね」
「ああ、明日はよろしく頼むよ」
「あ、カイリ達にご飯渡してくれる? 栄養つけて体力戻してもらわないとね。身内の尻拭いはしないと」
「畏まりました」

アヴィールにマジックバッグを一つ渡す。四人の食の好みは分からないけど、中には色々入ってるから、大丈夫だよね。

それから古の森に転移した。もちろん腕輪の付与魔法でね。ショックで立ち尽くしていたエレフ達は置いてきた。
どうせ自力で戻れるでしょ。





※カイリ達にマジックバッグを渡すくだりを加筆しました。
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