重たすぎる愛~【重たい愛】のもう一つの物話~

エウラ

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9 魔力検査 3

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「・・・・・・ティメール師団長、まずは自己紹介を」

頭が痛いというようにミリィが右手を額にあてて、はーっと深い溜め息を吐いてそう言うと、師団長らしき人はハッとして俺に深くお辞儀をした。

その所作からはさっきの変態っぽさはナリをひそめ、キチンとした貴族なのだと思われた。

「失礼いたしました。私、王立魔導師団長を務めさせて頂いております、マギナ・ティメールと申します。僭越ながら魔導伯爵位を賜っております」
「ムツキ・クサカベです。よろしくお願いします。あの、魔導伯爵位って、なんですか?」

俺もちゃんとミリィの横に立って挨拶を返すと、聞き慣れない爵位に首を傾げた。
するとミリィが教えてくれた。

「魔導伯爵位とは魔法に特化してるとか魔法で多大な貢献をしている者に授ける一代限定の特別な爵位のことだ。他にも騎士爵なども一代限定が多いな」
「魔導伯爵位は伯爵とは言っているが、実質私達の侯爵位と立場は変わらん。辺境伯爵位と同等だ。まあ辺境伯爵位は一代限定ではないがな」

ササナギも追加情報をくれる。それによるとティメール師団長の代だけだけどかなりの高位貴族の肩書きってことなんだな。

「はあ。凄いんですねティメール師団長様って」
「魔法は凄いが、さっき見たとおり魔法バカで変態だぞ」
「ムツキは尊敬しなくていい」
「・・・・・・ははは」

俺が感心したらササナギが渋面でそう言い、ミリィは真顔で尊敬するなと言い、ナツメは乾いた笑いを漏らした。

背後で控える近衛騎士達も同意見なのか、顔には出さないが雰囲気で同意している気がする。

───本当に大丈夫なのかな?

「ああ見えても腕はちゃんとしてるから安心して」

不安げになった俺に気付いたミリィが苦笑して背中をポンポンと宥めた。

「はい」
「では中へどうぞ」

そうだった。ここはまだ入口だった。

こうして俺達はようやく魔導師団の建物内部に入るのだった。

近衛騎士達は五人だけ着いてきて残りの人は入口付近にある控えの部屋に通されて、そちらで待機とのこと。
まあ王宮内で刃傷沙汰になることもそんなにないだろうし───昨日自分で刃傷沙汰を起こしそうだったことは置いておこう。

案内された部屋は入口からだいぶ奥まったところにある頑丈そうな一室。

・・・・・・ところでココに来る道中、無言で魔導師団員と思わしきローブを纏った人達が俺達をガン見して、更には遠巻きで着いてきてるんだが・・・・・・。

「・・・・・・あの、ミリィ」

もの凄く気になるけど、それを表には出さずにぼそっと疑問をぶつけた。
声の調子で困惑が伝わったのか、ミリィはそれだけで察したようで微笑んで応えてくれた。

「ああアレは気にしなくていい」
「・・・・・・・・・・・・いいんだ?」

いやでも気になるんだけど。

「異世界転移者であるムツキのことは、魔力検査のためにすでに魔導師団に通知済みだから気になってるだけで、危害を加えるわけじゃないから」
「はあ・・・・・・ティメール師団長と同類ってこと?」
「そういうこと」

・・・・・・魔導師団って魔法バカの変人の巣窟だったようだ。

「大丈夫。私がついてる」
「───うん」

そう言ってギュッと手を繋いでくれたミリィのおかげで身体の力が抜けて気が楽になった。

「ありがとう」
「どういたしまして」

さあ、いよいよ魔力検査だ。

部屋の中は二〇畳くらいの広さで一面石造り。無骨で寒々としている。
中央には俺の胸の位置くらいの高さのテーブルの上に水晶玉が置かれていた。
それ以外には何もない。窓すらない部屋だった。
魔導具のランプが壁に下げられていて、その灯りとぼんやり光る水晶玉が何とも言えない雰囲気を作っていた。
神秘的と言えばそうだし、怪しげと言えばそうにもみえる、不思議な空間だった。

「じゃあまずは魔力量と属性を鑑定しましょう。クサカベ侯爵様、この水晶玉に触れて頂けますか?」
「・・・・・・はい」

ティメール師団長が指したテーブルの上の水晶玉におそるおそる近付いて右手を乗せる。
すると何かが身体からスウッと流れていく感じがしてビクッと肩が跳ねた。

「大丈夫です、クサカベ侯爵様。今、鑑定のために身体の中にある魔力が少し水晶玉に吸われているんです。鑑定可能になるまでちょっと吸われる違和感があるでしょうが我慢して下さい」

ティメール師団長が俺の違和感に気付いたようで、あっという感じで伝えてくれたことに納得してホッとする。

「ああいえ、大丈夫です。その・・・・・・初めての感覚だったのでちょっと驚いただけで───」
「───そういえばムツキは今まで魔法を使ったことがないんだったな?」
「ええ。だから魔力が───とか言われてもよく分からなくて、それで違和感が・・・・・・」

そんな会話をしているうちに、魔力が吸われる感覚が止まった。ティメール師団長も気付いたようだ。

その手にはいつの間にか向こうの世界でいうところのタブレットのような魔導具があった。

「もう手を離しても大丈夫です。こちらの魔導具に鑑定結果が現れますよ。───どれどれ───・・・・・・」

タブレット型魔導具を覗き込んだティメール師団長が不意に言葉を切った。
俺達は不思議に思ってティメール師団長をジッと見つめたが・・・・・・。

ニッコニコだったのが難しい顔になり、しまいには片手で口元を覆ってしばらく黙り込んでしまった。

「───おい、ティメール師団長」
「・・・・・・何かあったのか?」
「・・・・・・ナツメ? 俺、どこか変?」
「いや、そんなことないと思うよ。でも、なんだろうね?」

ササナギとミリィの言葉にも気付いていないのか反応が薄いティメール師団長。
俺はナツメのローブを摘まんでコソッと話しかけたがナツメもよく分からないみたいだった。

それから数十秒して魔導具から静かに顔を上げたティメール師団長の表情は真剣だった。

「スミマセンがミリオネア王太子殿下も水晶玉に触れて頂けますか?」
「・・・・・・構わないが、なぜと聞いても?」
「ええと。確認のためです」
「───分かった」

今度はミリィを鑑定するらしい。ミリィも疑問を呈したがと言われて何かを察したのか、軽く頷いて手を置いた。

ミリィの鑑定もすぐに終わり、さっきのタブレット型魔導具に結果が出たようだ。

それをひとまずティメール師団長が一人でチェックし、そのあとまずは端的に結果をということで教えてくれたことは───。

「まず三つ、稀少で重要なことが分かりました」

この間も最初の様子からは想像もつかないほど真顔で真面目な様子だった。
それほどヤバい案件なのだろうか・・・・・・。

「一つはクサカベ侯爵様の魔法属性ですが・・・・・・『光』と『闇』でした」
「───っ光と闇だと? 特殊な魔法属性だぞ。それを二つも!?」
「・・・・・・っ」

ササナギとナツメがそう言ってざわめく中、ミリィは無言で真剣な顔だったがあまり動揺はしていないように見えた。

それよりも俺は、その魔法属性がなぜそんなに驚かれるのかの理由が分からなくてキョトンとしていた。









※魔法属性が属性魔法と逆になってましたので修正しました。また反対になっていたら気付き次第修正します。
ササナギがムツキの特殊な魔法属性二つに驚いた部分を修正しました。違和感があったので。




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