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7 可愛い義息子(sideアディス)
私がセラータを養子にしたのは17年ほど前。
あの日、大通りを馬車で通行していたのは偶然だった。
あのひと月ほど前に両親が流行病で亡くなり、急に公爵位を継ぐことになってその死を悼む暇もなく手続きに追われた。
ぎりぎり成人していたので後見人などは必要なかったのが幸いだった。分家で野心家のヤツらがこれ幸いと擦り寄ってきてウザかったしな。これが未成年でなおかつ弟などいたら要らぬ後継者争いを起こされるところだった。
その野心家達の弱味を握っていた私はそれとなくチラつかせて分家を黙らせ、粛々と引き継ぎの準備をしていった。
そしてあの日、王城に提出書類を届けに行くところだった。
これで一息吐けると気を抜いた時、窓に引いていたカーテンの隙間から何かが横切ったのが見えて咄嗟に馬車と騎乗している護衛の騎士達、その何かに防御魔法をかけた。
『危ない!』
『アディス様、───子供がっ!』
御者も咄嗟に手綱を引いて馬を止めたのでぎりぎり接触はなかったようだが・・・・・・。
『!』
馬車の上に異様な量の魔力を感じ、馬車を降りると空を見上げた。
そこには薄汚れてほっそりしたぼさぼさ頭の幼児が立って浮かんでいた。
驚いた。
浮遊魔法は空中でバランスを取るのが難しいので、本来はこんな子供が使えるモノじゃない。
私は慌てて浮遊魔法で近づく。するとその子は殴られたのか顔を腫らして、手足も痣だらけ。もしかすると骨が折れているかもしれない。
その中でひときわ目を引く、絶望の色を濃くした藍色の瞳。
藍色の髪に入ったメッシュと同じ夕焼け色の星がきらきらと藍色の瞳に舞っていて、なんともいえない不思議な瞳だった。
ガタガタと震えて声を出さずにぼろぼろ泣く様子がひと月前の自分にそっくりで・・・・・・。
気付いたら抱きしめていた。
そのまま保護を言い訳に、王城には行かず一度公爵家に連れ帰り、本人に事情を聞く。
馬車の中ですでに傷は癒しておいたので身体的にはもう大丈夫だろう。
サイモンに軽く事情を話し風呂に入れさせる。
その後ぼさぼさの髪を整えられて私の小さい時の服を着たら、何この天使。
可愛過ぎるだろう!
どうやら藍色の瞳は魔法が発動するときに夕焼け色の星が散るらしく、今はただの綺麗な宵闇色だ。
そして何時からあんな状態だったのか細い手足は、満足に食事を摂れていなかったからだな。いっぱい食べさせてふっくらしたらもっと可愛いはずだ!
『・・・・・・アディス様』
『───っコホン。すまない。で、私に話してくれるかな? どうしてあんなコトになったんだい?』
思考が斜め上に飛んでいて、執事長のサイモンに呆れた声をかけられハッとする。うん、仕方ないだろう。可愛いは正義だ!
現にお前も表情が崩れているぞ。何時ものポーカーフェイスはドコ行った。
そして彼に話を聞くと、どうやら住んでいた離れから攫われてスラム街の傍らに捨て置かれたらしい。
とても4歳の幼子とは思えない理路整然とした話に驚く。賢いなんてもんじゃない。
しかしそのおかげで正確な情報が分かった。
父親はロステム侯爵、母親は愛人で没落した元子爵令嬢。正妻の侯爵夫人がいまだ子が出来ずに嫉妬でこの子を殺そうとしたらしい。
あと半年ほどで5歳の誕生日が来るから、もし認知されてお披露目をされたら次期後継者になるだろうと。
そこで身ぐるみ剥いで捨て置き、野垂れ死ぬのを待っていたようだ。さすがに直接手を下すのはイヤだったのだろう。スラム街では幼子だけでなく毎日のように誰かの命が消えていくからな。
何処の街でも抱える闇だ。
そして空腹で動けないところを酔っ払いに絡まれ、暴行の末、大通りに蹴り飛ばされたという。
馬車に気付いて死ぬと思った瞬間、気付いたら馬車の上に浮いていた・・・・・・と。
なるほど、死に直面して魔法を発現したようだな。おかげで私の養子にする正当な理由が出来た。今でさえ膨大な魔力量なのだ。下手に悪用されたらこの子が可哀想だ。
そこで養子のことを話すと、諦めたような、でも吹っ切れたような顔で言った。
『貴方に新しい名前を付けて欲しい』
そう言われて私は驚き、そして歓喜した。
新しく生まれ変わるこの子を、私の本当の家族にしていいんだ、と。
『セラータ。宵闇色をさす言葉だよ』
そうして『父様』と呼ばれ、嬉しくて震えていたらおずおずと頭を撫でる小さな手に、思わず泣きそうになった。
『父様も辛いことがあったの? いい子いい子』
私の事情など知らぬだろうに何か察したのか、抱きしめ返して頭を撫でる可愛い我が子を、絶対に幸せにすると誓う。
その後ドーン公爵家にも連絡をして、すぐさま両家で徹底的にセラータの痕跡を消して新しい身分を作った。
それを確認して、セラータが眠っている間に再び王城へ赴き、爵位継承の手続きと養子縁組の手続きを平行して行い、その日のうちに無事に受理された。
いや、受理させた。
陛下は苦笑しておられたが、先日まで私が死人のような目をしていたのを知っていたから、セラータの養子縁組の件では、よかったなと最速で動いて下さった。
『亡きダスク公爵家の二人には大変世話になったからな。これで少しはあの二人も安心だろう』
そう和やかに笑っておられた。
セラータはドーン公爵の友人の忘れ形見として籍を作り、同じ人族のダスク家に預けられ、魔法を発現したためそのまま養子にした、ということになっている。
これは後でセラータにもきちんと話をした。
もちろんしっかり理解している賢いセラータにでろ甘になる私や使用人達。
可愛いは正義!
しかし養子にした翌日にアルヴァが無自覚とはいえセラータを番い認定するとは思わなかった。
無意識にセラータを甘やかして給餌行為をしたりマーキングよろしくスリスリしたり・・・・・・。
そして勝手に純真無垢なセラータを作り上げて神聖化した挙げ句に噂を鵜呑みにして、天使が穢れてしまったかのように思い込んで距離を置いておいて・・・・・・。
いやいや、セラータは真実、純真無垢だよ?
私達がヘンなヤツらを徹底的に排除してるし、セラータも結界魔法で常に身を覆って守ってるからね。
アルヴァは堅物な性格が裏目に出たようで、思い込んだら周りが見えにくくなり、拒絶するように人の話を聞かない傾向があるようだった。
そのせいでセラータも声をかけられずにずるずると二年近くすれ違いをしていた。
今回の魔力枯渇の件でカーティスが面と向かって訂正しなければ未だに疑っていただろう。
セラータは元サヤに戻ってホッとしていたが、セラータが許しても私は許さない。
影でセラータがどれだけ泣いた(実際は泣いてないが)と思ってる!
休暇中は我慢するが、後で一発お見舞いしてやるから覚悟していろ!
やっと穏やかな日常が戻ってきたんだ。
───だから、あんな噂を流してくれたロステム侯爵家には相応の報いをせねばな。
この二年間、何もせずに放っておいたわけじゃないんだよ?
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