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9 アビスの事情 2
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11年前のあのとき、あと一年で孤児院を出る俺は最後だからと下の子供達を目一杯構い倒した。
その中に初顔のシンという子がいた。しょっちゅう俺にくっ付いてきて、孤児院に来たばかりで周りに馴染めないのかなと気にかけてよく一緒にベッドで寝たりしていた。
あの甘えん坊のシンがアビスで王弟殿下!?
「実はあの一年、俺はノヴァに救われていたんだよ」
「どういうこと?」
俺、特に何もしてないと思うけど。でもアビスは首を横に振って言った。
「ノヴァはね、無意識に俺の姿を認識阻害の魔法で隠してくれていたんだ。だから俺はこの王族の色に変化してても周りにバレずにいたんだよ」
「ええ、マジで? そんなつもり全くなくて──あ、じゃあもしかして一年で引き取られたのって……」
「そう、ノヴァが孤児院を出て俺に認識阻害の魔法がかからなくなったからバレたんだ」
うわ、俺、知らぬ間に色々とやらかしてたんだ!?
認識阻害なんて……いや使えたな。前世の記憶からなんちゃって魔法みたいなのを独自に使ってたな。
でもそっか、それで少しでもアビスが平穏に過ごせていたならよかった。
「それからは王城で教育を受けて、でも王太子が国王になったときに許可を得て冒険者として過ごし始めたんだ」
「ええ? よく許して貰えたな。危険だったから引き取られたんだろう?」
せっかく安全に過ごせるようになったのにわざわざ危険な道に進まなくてもいいんじゃ?
そう思ったけど、アビスはなんてことないように言った。
「あれから剣や魔法の腕を磨いたよ。それに実は護衛としてキースがついてた」
そう言って扉の方を見たアビスにつられて見ると、ニカッと笑うキースが立っていた。いつの間に?
てか、王弟殿下の護衛というからにはやっぱりキースも貴族なんだろう。どうりで冒険者っぽくないわけだ。
「まあ俺が守れたのは最初だけで、あっという間に追い越されて護衛の意味がないけどな」
そう言ってハハハと笑うキースはアビスとは気の置けない間柄なんだと知れた。
「それはともかく、俺が冒険者になったのは実はノヴァに会うためだったんだ」
「へ、俺に? 何で? 認識阻害なら無意識だったし気にしなくていいのに」
「違うよ。いやそれもあったけど、それよりももっと重要なことがあるからだ」
「それ、もしかして前世の記憶持ちが関係してる?」
それ以外に平凡な俺に重要なことがあるとは思えないけど。
「それも関係してるけど……ノヴァは、実は東にある島国の王族なんだ。そこの王族は黒髪黒目で前世の記憶持ちばかりだそうだよ」
……なんだそれ、まるで日本のことみたいだな。もしかして前世の記憶持ちは皆、日本人だったのか?
「その国の第一王子が、生まれて間もない頃に侍女に攫われ行方知れずになったそうだ。それから半年後に盗賊に襲われたらしく侍女は遺体で見つかり、王子は再び行方知れず」
アビスの言葉に近寄ってきていたキースが続けた。
「しかしその後、侍女が住んでいた小さな小屋で泣いていた生後半年ほどの黒髪黒目の赤子を通りかかった商人夫婦が見つけて引き取って育てたそうだよ」
それって……。
「君は魔物に襲われて大怪我を負って、そのときご両親が亡くなったと言ったね。そのご両親がそのとき君を引き取った商人夫婦だ」
「……俺と似てないから、もしかしてとは思ってた。でも二人は俺を愛して育ててくれた」
たった3年足らずでも、俺には本当の親だった。
「うん、君を見ていると分かる。とても大切に、愛情を持って育てられたんだろうなって。だから本当のご両親がいたとしても忘れなくていいんじゃないか?」
「うん」
そうだよな、別に血の繋がりだけが家族じゃない。
「現王がかの国に確認を取ったら、状況を見ても君が第一王子なのは間違いないだろうと返答があって。そこで君を保護するために俺が出向いたんだ」
「……そのときに何で言ってくれなかったんだ」
「言ってもほぼ初対面の俺に警戒するだけでしょ? だから同じ冒険者になって接触しようと……」
「なるほど、それで」
「でもなぜかSランクになってしまって、反対に遠ざかってしまったけどね」
遠い目をしてははは、と乾いた笑いをするアビスに俺は吹き出す。
確かに近寄りがたくて距離は取ってたな。本末転倒だ。
でもまあ、アビスがシンだと分かっていたとしても無理だったろうけどな。
だってアビスはカッコいいし、反対に俺は平々凡々を絵に描いたような男だし、何より平和に平穏に目立たず過ごしたかったから。
──あれ、もしかして俺、これからは平々凡々に過ごせないのか?
※誤字脱字、気付き次第修正してます、すみません。けっこう多かった。
その中に初顔のシンという子がいた。しょっちゅう俺にくっ付いてきて、孤児院に来たばかりで周りに馴染めないのかなと気にかけてよく一緒にベッドで寝たりしていた。
あの甘えん坊のシンがアビスで王弟殿下!?
「実はあの一年、俺はノヴァに救われていたんだよ」
「どういうこと?」
俺、特に何もしてないと思うけど。でもアビスは首を横に振って言った。
「ノヴァはね、無意識に俺の姿を認識阻害の魔法で隠してくれていたんだ。だから俺はこの王族の色に変化してても周りにバレずにいたんだよ」
「ええ、マジで? そんなつもり全くなくて──あ、じゃあもしかして一年で引き取られたのって……」
「そう、ノヴァが孤児院を出て俺に認識阻害の魔法がかからなくなったからバレたんだ」
うわ、俺、知らぬ間に色々とやらかしてたんだ!?
認識阻害なんて……いや使えたな。前世の記憶からなんちゃって魔法みたいなのを独自に使ってたな。
でもそっか、それで少しでもアビスが平穏に過ごせていたならよかった。
「それからは王城で教育を受けて、でも王太子が国王になったときに許可を得て冒険者として過ごし始めたんだ」
「ええ? よく許して貰えたな。危険だったから引き取られたんだろう?」
せっかく安全に過ごせるようになったのにわざわざ危険な道に進まなくてもいいんじゃ?
そう思ったけど、アビスはなんてことないように言った。
「あれから剣や魔法の腕を磨いたよ。それに実は護衛としてキースがついてた」
そう言って扉の方を見たアビスにつられて見ると、ニカッと笑うキースが立っていた。いつの間に?
てか、王弟殿下の護衛というからにはやっぱりキースも貴族なんだろう。どうりで冒険者っぽくないわけだ。
「まあ俺が守れたのは最初だけで、あっという間に追い越されて護衛の意味がないけどな」
そう言ってハハハと笑うキースはアビスとは気の置けない間柄なんだと知れた。
「それはともかく、俺が冒険者になったのは実はノヴァに会うためだったんだ」
「へ、俺に? 何で? 認識阻害なら無意識だったし気にしなくていいのに」
「違うよ。いやそれもあったけど、それよりももっと重要なことがあるからだ」
「それ、もしかして前世の記憶持ちが関係してる?」
それ以外に平凡な俺に重要なことがあるとは思えないけど。
「それも関係してるけど……ノヴァは、実は東にある島国の王族なんだ。そこの王族は黒髪黒目で前世の記憶持ちばかりだそうだよ」
……なんだそれ、まるで日本のことみたいだな。もしかして前世の記憶持ちは皆、日本人だったのか?
「その国の第一王子が、生まれて間もない頃に侍女に攫われ行方知れずになったそうだ。それから半年後に盗賊に襲われたらしく侍女は遺体で見つかり、王子は再び行方知れず」
アビスの言葉に近寄ってきていたキースが続けた。
「しかしその後、侍女が住んでいた小さな小屋で泣いていた生後半年ほどの黒髪黒目の赤子を通りかかった商人夫婦が見つけて引き取って育てたそうだよ」
それって……。
「君は魔物に襲われて大怪我を負って、そのときご両親が亡くなったと言ったね。そのご両親がそのとき君を引き取った商人夫婦だ」
「……俺と似てないから、もしかしてとは思ってた。でも二人は俺を愛して育ててくれた」
たった3年足らずでも、俺には本当の親だった。
「うん、君を見ていると分かる。とても大切に、愛情を持って育てられたんだろうなって。だから本当のご両親がいたとしても忘れなくていいんじゃないか?」
「うん」
そうだよな、別に血の繋がりだけが家族じゃない。
「現王がかの国に確認を取ったら、状況を見ても君が第一王子なのは間違いないだろうと返答があって。そこで君を保護するために俺が出向いたんだ」
「……そのときに何で言ってくれなかったんだ」
「言ってもほぼ初対面の俺に警戒するだけでしょ? だから同じ冒険者になって接触しようと……」
「なるほど、それで」
「でもなぜかSランクになってしまって、反対に遠ざかってしまったけどね」
遠い目をしてははは、と乾いた笑いをするアビスに俺は吹き出す。
確かに近寄りがたくて距離は取ってたな。本末転倒だ。
でもまあ、アビスがシンだと分かっていたとしても無理だったろうけどな。
だってアビスはカッコいいし、反対に俺は平々凡々を絵に描いたような男だし、何より平和に平穏に目立たず過ごしたかったから。
──あれ、もしかして俺、これからは平々凡々に過ごせないのか?
※誤字脱字、気付き次第修正してます、すみません。けっこう多かった。
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