【完結】雨を待つ隠れ家

エウラ

文字の大きさ
3 / 14

愛しい番 前(sideエアヴァルト)

しおりを挟む
 
見つけた。

この魔力、姿形、あの頃のままだ。

やっと、やっと・・・。

 
 
俺には前世の記憶がある。
何なら前々世の記憶も。

前々世はこことは違う地球という世界の日本人だった。
平々凡々ながら仕事をしつつVRMMO『Free Fantasy Online』でフレンドと一緒に討伐クエストに行ったり、馬鹿騒ぎしたり、それなりに楽しんでいた。

そんなある日、1人のプレイヤーがログイン中に死んだと噂が流れ、フレンド達にも聞いた結果、そのプレイヤーは『FFO』では有名な『リッカ』だと分かった。
原因は不明で、ゲーム会社の不備ではなく、事故として処理されたそう。

『リッカ』は生産メインのくせにやたらと火力が強く、ソロながらレイドボスを倒してしまうくらいの異常な強さだった。
バランスブレイカー、運営会社の回し者かと噂が立つ位。
逆に運営会社側がバグを疑ってたわ。

俺とは特に接点はなかったが、一方的に知っていた。
一度、リッカの作った、桜と雪の結晶を象った幸運のピアスを買った時に話をしたが、戦闘の時とは違い、穏やかで優しい人だった。
何でも、生産用の素材集めの為にレベル上げまくったらしい。

『リアルでも友達いないんだ。自覚ありの無表情だし、人付き合いって苦手で。独りは慣れてるけど戦闘は困るからね』

『幸運の効果は大したことないけど。好きなんだよね、このデザイン。だからシリーズ化してるんだ。買ってくれて嬉しいよ』

そう言ってほんの少し口の端を上げて微かに頬を染めた、綺麗なオッドアイの、初めて見る照れた(と思われる)顔に心臓が跳ねた。
 
今思えばこの瞬間、恋に落ちたんだと思う。俺、ノーマルな筈なのに。

思わずフレンド申請してしまったのは仕方ないだろう。
『嬉しい。初めてのフレンドだ』
今度こそハッキリと微笑んだ。あの顔が忘れられない。

リアルでは会ったことはない。
ゲーム内でたまに会い、当たり障りのない会話をして別れる。
俺のこの気持ちは心の片隅に、そんな日々が続くと思っていた。


ニュースで彼の事が流れた。
桜庭六花、21歳の大学生。
天涯孤独で、発見が遅れた。
ゲーム会社がヘッドギアの長時間ログインのアラートが何時までも止まらず異常を感じて通報したらしい。

顔写真が、色彩を変えただけの、『リッカ』そのままだった。

涙が止まらなかった。

俺は恋心を心に沈めたまま。


気付いたら剣と魔法の異世界に転生していた。

記憶を思い出した時は15歳で、人族の国の兵士で、平々凡々なヤツだった。
チートはなかった。
前世と同じで笑えた。

強さも魔法も程々の俺の仕事はある奴隷の世話だった。

世話と言っても、食事を運ぶでもなく、ただ檻の中の奴隷を一日一回、ちゃんと檻に戻っているか確認し、浄化の魔法で清潔にする事、だそうだ。

何だ?それ。

ひとまず前任者に連れられて奴隷の所へ行って、見て、叫ばなかった自分を褒めてやりたい。

「此奴だ。隷属の首輪で反抗しないし自死も出来ない。最も、首を切り落とそうが心臓を潰そうが傷付いたそばからすぐに回復して死なないらしいがね」

「異世界から召喚した時は、意識はないしこんなガキ、すぐに死んじまうと踏んでいたが、飲まず食わずでも平気らしくて」

おかげでいい戦力だよ。

隣で愉しそうに言う兵士に反吐が出そうになった。顔に出さなかった自分を褒めてやりたい。(二回目)

とりあえず、一日一回は足を運ぶ事。
用(主に戦闘)が済めば首輪の転移魔法で勝手にここに戻ってくるとのこと。
戦闘によっては何日か戻って来ない事もあるらしい。
檻の中ではほとんど寝ているので、暇になるからこっちの仕事も手伝え、と言うだけ言って来た道を戻っていった。

1人になったのを確認して、俺はそっと檻の中の奴隷に声をかけた。日本語で。

『リッカ』

眠っていた筈の奴隷がチラリと横目で此方を見た。
5歳位の、白銀の髪を無造作にくくった男の子の右目は琥珀色、左目は紫水晶色で。

予想通りの色で、顔は幼い頃はこんなだったろうと想像したモノで。

---こんなところでこんな再会、望んでなかった。
綺麗だったオッドアイは生気のない濁った色で。
首には無骨な隷属の首輪。
一体どれほどの絶望の日々を過ごしたのだろう。
どのくらいの時が過ぎたのか。

ああ、日本で突然死したのは、ここに召喚されたからか。

『リッカ、俺だよ。初フレンドの』

『・・・アッシュ?』

掠れた声で、俺のアバターネームを呼ぶリッカに、かつてのように涙が溢れて止まらない。
泣きたいのはリッカだろうに。

『泣かないで。アッシュにまた会えて嬉しいよ』

こんな姿だけど、と。
ああ、変わらないな。
優しいまんま。
でもギリギリのところで正気を保っているのが分かる。
何時切れるか分からない細い糸。
 
俺達は数ヶ月程、他愛ない話をしながら過ごした。
一兵士の俺には隷属の首輪をどうにも出来ないし、リッカも分かっていたから。
ただ檻越しに温もりを感じ、ひたすら懐かしいFFOの話をした。

そんな中、リッカが3日程帰らなかったあの日、元々減っていた精霊の加護が完全になくなったと国中大騒ぎしている時に乗じて亜人達が進行してきた。

亜人とは人族が勝手にそう呼んでいるだけで、龍人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族の事を指した言葉で、蔑称だ。
人族の国が、神に選ばれた自分達が上だと主張し、周りの国へ戦を仕掛けていたのだ。

俺、人族だけど。
この世界で生まれて、神様は平等だって教わってきたけど?
あの神官様がまともだっただけ、と。
クソだな。

自分達に都合よくねぇ?
大義名分ってヤツ。
でもってその最たる犠牲者がリッカだった訳だ。
首輪で無理矢理戦わせて自分達は高みの見物。そんな醜いヤツらの国、精霊が去って当然だ。

そうしてあっと言う間に国は墜ちて、平々凡々な俺は逃げ切れずに敵の剣のサビになった。

その後のリッカの事は分からない。

ゴメンな、側にいてやれなくて。

心を壊してなきゃいいな。今度はずっと側にいて幸せにしてやりたいなあ。



この世界の神様、どうかリッカを幸せに・・・。



暗転する意識の中、誰かの声を聞いた、気がするけど、応えは出来なかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【完結】雪解けて春を待つ隠れ家(雨を待つ隠れ家より番外編)

エウラ
BL
雨を待つ隠れ家の番外編が収拾つかなくなりそうなので、分けました。 不定期更新です。 大まかなあらすじを初めに入れますが、前作を読んでない方にはわかりにくいかもです。 異世界召喚で不遇の時を過ごしたリッカを救い出し、番として溺愛するアッシュ。 2人の日常や過去の話などを書いていけたらと思います。 前作みたいな重い話はあまりないと思います。 読んでもらえたら嬉しいです。 ひとまず番外編を完結にします。 読んで下さってありがとうございます。

神獣様の森にて。

しゅ
BL
どこ、ここ.......? 俺は橋本 俊。 残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。 そう。そのはずである。 いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。 7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。

美容整形するために夜間魔法学校に通っているだなんて言えない

陽花紫
BL
整形男子レイは、異世界転移をした際に整形前の顔に戻ってしまう。 魔法が当たり前の世界で美容医療などあるはずもなく、レイは魔法で整形をするために夜間魔法学校に通いはじめる。幸いにも、魔力はほんの少しだけあった。レイは不純な動機を隠しながら、クラスメイト達と日々を過ごしていく。 小説家になろうにも掲載中です。

偽りの聖者と泥の国

篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」 自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。 しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。 壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。 二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。 裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。 これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。 ----------------------------------------- 『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。 本編に救いはありません。 セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。 本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

魔王様と元 村人Aは一つ屋根の下

くろねこや
BL
橋の上で絶望してたらトラックが突っ込んできて、そのまま異世界へ落ちたオレ。 村人Aとしてスローライフを始めたものの、やはり元の世界に戻ることを諦めきれない。 ドラゴンも魔族も魔王もいるこの世界。 「あ、魔王を倒せば元の世界に帰れるんじゃね?」 ところが、倒すために探し出した魔王様はオレの記憶に興味津々で…。 「私もそなたと共に行く。そちらの世界はとても興味深い」 この時のオレは想像すらしていなかった。 そう遠くない未来、その“魔王様”と出会ったオレが、日本家屋で一つ屋根の下、一緒にのんびり暮らすことになるなんて。 ※こちらは『イライラしてますか?こちらへどうぞ』の世界と繋がっています。 ※『横書き』設定にてお読みください。

処理中です...