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風魔襲来2

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「何?<風魔>の仕業だと?」
清水門外の役宅の裏戸の縁側。
そこには長谷川平蔵と双伍の姿しかない。

長谷川平蔵は双伍の言葉に驚いて、
キセルを口から離した。

「おめえの、その見立ての根拠は何なんだ?双伍」

「へい、それは殺された仏につけられた傷でござんす」

「あの、<几>という傷のことだな?」

「あの<几>という文字は、<風魔>の
 紋なんでさぁ」

そこで平蔵は思案深げに、双伍に訊いた

「すると、<風魔>の賊の仕業ってことかい?
 もしそうならば、厄介な相手だな」
さすがの平蔵も真顔で、双伍を見やった。
そして、しばらくして口を開いた。

「どうなんだ?正直なところ、話してみろ」
平蔵の言葉の意味がわからず、双伍は黙ったままだ。
業を煮やしたように、平蔵は問い直した。

「これが<風魔>の仕業だとしたら、
 おめえの古巣だろ?いったいどれほどの 
 連中だと見立てる?」

「へえ、おそらくは<風魔>の中でも
 精鋭の者達かと・・・。押し入りから火付けまで
 半刻とかかってねぇんで・・・。」

長谷川平蔵は思わず、深いため息をついた。
「こりゃあ、厄介だ」

「それにもうひとつ気がかりなことが・・・」
双伍の目に険しい色が見える。

長谷川平蔵は双伍に向き直った。
「何だ?申してみろ」

「普通の盗賊なら、身元がわかるような
 証しを残さねぇもんです。ところが、
 こいつらはわざわざ<几>の文字を残していった。
 いわばこの<風魔>の連中は、火付盗賊改方に宣戦布告
 してるようなもんでしょう?
 あっしの見立てでは、まだ火付け盗賊は続くでしょう。
 しかし、ひとつだけ腑に落ちねえことが・・・」

「何だ?手がかりになるなら、どんなことでも
 申してみよ」

「<風魔>の連中、ただ銭だけが目的ではないような
 気がするんでさぁ。まだ何か目的があるような・・・」

それを聞いて、長谷川平蔵は腕を組み、思案した。

「賊を縛にするまで、当分は非番の者も総出で
 見回るしかあるめぇよ。双伍、おめえは
 <風魔>の動きに詳しかろう。
 火付盗賊改方とは別に、探ってくれ。いいな」

双伍は無言でうなづくと、清水門外の役宅を出た。
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