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後日談
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椅子に腰を下ろしたその足が緊張でガタガタと揺れていた。いや、足といわず全身がぶるぶる震えていて──
その隣で穏やかな顔をしていた獣人が、それを見てふっと笑う。
「……ちょっと……落ち着きなさい。──兄上」
「う、だ、だってだな……」
穏やかな顔──で、まあるい大きな飴をぺろぺろ舐めていたローラントは、ぶるぶるしている己が兄を見てけらけら笑う。流石に今日は身体を綺麗にして挑んできたらしいそのぽっちゃりもふは、本日は少々気取った可愛らしい正装を身につけている。ただし、幾つかのボタンが悲鳴をあげて、今にもはじけ跳びそうな感は否めない。
その後ろでは同じく正装したエメリヒが、「ローラント! 教会でお菓子食べたら駄目だよ!!」と困り果てた顔をしている。
そうして、そんな弟に笑われた兄──イグナーツはと言えば。
彼は椅子に座したまま身体を折って、ううぅと呻く。
「しかしだな……っ、あの! ミリヤムなんだぞ!? ……絶対転ぶ絶対転ぶ……!? あああ大丈夫か!? 大丈夫なのか!? 転んだ拍子にドレスを破ってそれでも平然としていそうで怖い!!」
イグナーツは胃を押さえている。
そんな兄を見て、ローラントは周囲の者達に対して、「見ててね、この人絶対式で泣くよ」と指をさす。
イグナーツは呻く。
「ミリヤムッ!! ここがお前の大舞台だぞ!! 正念場だ!! 踏ん張るんだぞ!!」
足元にだけは気をつけろ! と彼が心配のあまり戦慄いていると──そこに冷ややかな声がかかる。
「……イグナーツ様、お止め下さい。逆に呪いがかかりそうです」
「ル、ルカス殿……」
こちらも改まった姿で現れたルカスは眼鏡の奥から冷淡な視線をイグナーツに向ける。
「そこでイグナーツ様がガタガタしているのを見せると、ただでさえ落ち着きのないあやつが、心配して駆け寄って来かねません。式の途中で。ヴォルデマー様を放り出して。」
「うっ……うう」
「確かにー」
ミリーならやりそうだ、とローラントはけらけら笑い、それを聞いて、イグナーツの胃が尚更悲鳴を上げる。
「う……」
胃が、と呻く白豹を、ルカスがキッと睨む。
「しっかりなさい! 今まで二人を傍で見守って来た貴方が式をちゃんと見てやらずしてどうなさる!? さ、しっかり背筋を伸ばして。堂々となさって下さい!」
「う、うううぅ……」
ルカスの叱咤にイグナーツがよろよろと椅子に座りなおしている。
それを傍で見ていたローラントがエメリヒに言った。
「…………なんかこの二人、ミリーのお母さんとお父さんみたいだね」と。
その隣で穏やかな顔をしていた獣人が、それを見てふっと笑う。
「……ちょっと……落ち着きなさい。──兄上」
「う、だ、だってだな……」
穏やかな顔──で、まあるい大きな飴をぺろぺろ舐めていたローラントは、ぶるぶるしている己が兄を見てけらけら笑う。流石に今日は身体を綺麗にして挑んできたらしいそのぽっちゃりもふは、本日は少々気取った可愛らしい正装を身につけている。ただし、幾つかのボタンが悲鳴をあげて、今にもはじけ跳びそうな感は否めない。
その後ろでは同じく正装したエメリヒが、「ローラント! 教会でお菓子食べたら駄目だよ!!」と困り果てた顔をしている。
そうして、そんな弟に笑われた兄──イグナーツはと言えば。
彼は椅子に座したまま身体を折って、ううぅと呻く。
「しかしだな……っ、あの! ミリヤムなんだぞ!? ……絶対転ぶ絶対転ぶ……!? あああ大丈夫か!? 大丈夫なのか!? 転んだ拍子にドレスを破ってそれでも平然としていそうで怖い!!」
イグナーツは胃を押さえている。
そんな兄を見て、ローラントは周囲の者達に対して、「見ててね、この人絶対式で泣くよ」と指をさす。
イグナーツは呻く。
「ミリヤムッ!! ここがお前の大舞台だぞ!! 正念場だ!! 踏ん張るんだぞ!!」
足元にだけは気をつけろ! と彼が心配のあまり戦慄いていると──そこに冷ややかな声がかかる。
「……イグナーツ様、お止め下さい。逆に呪いがかかりそうです」
「ル、ルカス殿……」
こちらも改まった姿で現れたルカスは眼鏡の奥から冷淡な視線をイグナーツに向ける。
「そこでイグナーツ様がガタガタしているのを見せると、ただでさえ落ち着きのないあやつが、心配して駆け寄って来かねません。式の途中で。ヴォルデマー様を放り出して。」
「うっ……うう」
「確かにー」
ミリーならやりそうだ、とローラントはけらけら笑い、それを聞いて、イグナーツの胃が尚更悲鳴を上げる。
「う……」
胃が、と呻く白豹を、ルカスがキッと睨む。
「しっかりなさい! 今まで二人を傍で見守って来た貴方が式をちゃんと見てやらずしてどうなさる!? さ、しっかり背筋を伸ばして。堂々となさって下さい!」
「う、うううぅ……」
ルカスの叱咤にイグナーツがよろよろと椅子に座りなおしている。
それを傍で見ていたローラントがエメリヒに言った。
「…………なんかこの二人、ミリーのお母さんとお父さんみたいだね」と。
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