偏愛侍女は黒の人狼隊長を洗いたい。後日談

あきのみどり

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閑話

SS 公式には何もない日

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 その日はミリヤムに言わせると朝から少し奇妙だった。

 まずは朝。目覚めると、隣にヴォルデマーがいなかった。
 夫は昨日砦から七日ぶりに領都に戻って来た。
 人狼族の強靭な脚力を持ってすればその行き来にはそう時間は掛からない。
 だが、その時刻が領都の市壁の城門塔が閉じる間際の時間だったことから、多分、夫はまたぎりぎりまで仕事をしてきたのだろうなぁ、とミリヤムは思って──
 いつもなら、そんな日の次の朝は低血圧な彼は夫婦の寝台の隣で、まだ寝ているか、そこでぼんやりしているかのどちらかなのだが。
 けれども今朝は、ミリヤムが朝陽に誘われてくしゃくしゃの髪でむっくりと起き上がると──寝台の向こう側にはすっかり仕度の終わった夫のぱりっとした姿が。
 ヴォルデマーは黒い毛並みの上に本日は清々しい白いシャツを着て、すらりと長い足には毛並みと同じ色のズボンを合わせていた。
 そんな様を寝ぼけ眼で捉えて、ミリヤムは、ああ、残念だ、とため息をついた。
 寝起きざま、無言でぽけっとしている人狼の夫はとっても可愛らしい。
 ぴりっ、きりっ、としている旦那様も大好きなんですがねぇ、ぽやんと思考がまだ定まってなさそうな隙のあるお姿も……ええ、ええ大好物なんでございますよ……そういう旦那様の無抵抗な時に、やりたい放題……ほっぺの毛並みの中にどれだけ指が埋まるか差し入れてみたり、三角のお耳の中はどうなっているのかと覗き込んだり、早朝の神々しき光の中で、旦那様の毛並みがぴかぴか輝いているのを見ながらうっとりするのが格別楽しいんですがねぇ……あー残念だ──と、ミリヤムは寝ぼけながらに言った。寝ぼけていてもはっきりと口を利けるあたりがミリヤムらしい。
 と、くつくつと笑う声が聞こえて。頭にふわりと重さを感じた。

「ほぁ?」
「おはよう、ミリヤム。……今日は、格別良き日だな……」

 その深い声音を聞いて、やっと半開きだったミリヤムの瞳が完全に開く。

「あれ? ヴォルデマー様? もう起きていらっしゃったんですか? あれ……? 私、今何か言いました?」

 そうすると愉快そうな夫は瞳を優しく和らげて愛しげに微笑んだ。

「いや。おかしな事は何も」

 ヴォルデマーは言いながらミリヤムの勢いある寝癖をそっと撫でつけている。そんな夫の様子がどこか普段と違う気がして。ミリヤムは不思議そうに窓の外を見る。
 夫の言う「良き日」が天気の事だと思ったミリヤム。空を窺うと、確かにそこには薄雲もなく天気はとても良さそうだった。
 ヴォルデマーは、寝台の上に身を起こしたままぽかんと眩しそうに空を見上げているミリヤムの横顔をみつめながらその髪を整えていた。
 それがすっかり綺麗になってしまうと、彼は朝日に照らされてうぶ毛のきらめいている妻のおでこに静かに口づけた。

「……ミリヤム、今日は何か予定があるのか?」
「? いいえ。えーっと、いつも通り子供達と一緒に過ごします。あ、でもルカスが来客があるかもと言っていたような……」

 ミリヤムが昨日のことを思い出すように答えると、ヴォルデマーがくすりと笑う。

「そうか。まあ、そうだろうな」
「?」
「私も今日は昼までに一度城下に下りてくる。……何か欲しい物はあるか?」

 ミリヤムが特にないと首を振ると、ヴォルデマーは、では息子達に何か見繕ってくると言い微笑んで──
 もう一度──今度はミリヤムの唇に、口づけを落とすのだった。



 ──そうして──ミリヤムが次に何か変だなと思ったのは、ルカスがいやにカリカリしていたことだ。

「……いや、これはいつもの事だけども?」

 うーんと怪訝に唸っていると、のしっと上から頭に拳を乗せられる。

「何がだ。お前……なんだその危ない恰好は!!」

 ルカスは怒ってミリヤムの背中から、そこに幅のある紐で負ぶわれていたルドルフを取り上げる。因みにミリヤムの胸側には同様にランドルフが抱かれていて、その耳と足がぴこぴこ動いていた。
 双子はルカスを見ると嬉しそうに笑った。
 と、その母親は、怪訝そうな顔をそのままに、ルカスを見上げる。

「え? 何って、親子のお散歩タイムですけど?」
「散歩? ではその両手の篭は!? 今度はなんだ!? どこから仕事を奪ってきた!? お前なぁ、ただでさえチビなんだから二人を連れている時に荷物なんて持つなよ!! 何かあったらどうするつもりだ!? なんで俺が来るまで待てない!?」

 ルカスはルドルフをあやしながら、眼鏡の奥からミリヤムを睨みつけている。
 彼はフロリアンからミリヤムの護衛を任されている。
 勿論、現在次男の息子を産んだミリヤムには、領主アタウルフが彼以外にも護衛は山ほどつけてくれている。のだが……
 正直この気性のミリヤムを上手くあしらえる者はルカス以外にはいなかった。いや、ルカスですら上手くあしらえているのかは謎だが、少なくとも、今や辺境伯家の嫁となったミリヤムが何か仕出かした時に遠慮なく叱れる人材は他にない。
 ルカスはきりきり小言を零す。
 
「俺だって毎日こいつ等を抱くから知っているんだぞ? 子を抱くと案外足元が死角になるものだ。お前が躓いてこけでもしたら子らはどうなる? その上両手に荷物を持つなど……」
「はぁ、その時は躊躇なく荷を放り出して支えますったら……それにこの篭全然重いものじゃないんですよ? 足元だって気をつけて歩いてるし……」

 ミリヤムがそう言うと、瞬時に「馬鹿が!!」と怒鳴られた。双子はきょとんとしている。
 ルカスは必死だ。

「その有様を、アデリナ様に……いや、ギズルフ様に見られたらどうする!? また『壊れ物がつぶれそうで怖すぎる』などと怯えられて双子を連れて行かれるぞ!! 『子らが母親に似て貧弱であったら困る』とかいって早期の幼児教育をじっと狙ってるんだぞあのお方は!!」
「お、おぉぅ……それがあった……」

 それは確かに困る、とミリヤムは周囲を怖々と見回した。子を産んでからというもの──外出すると、いつの間にか廊下の角の向こうなどからギズルフが何か獲物を狙うような顔でこちらを見ていることが多々なのだ。
 ミリヤムが今日は居ないだろうな、と周囲を窺っていると、その隙にルカスが両手の篭を奪っていった。その中身を見たルカスが、ちっと舌打ちする。

「今日は豆かよ……」
「はあ、本日筋取りです。ルキも一緒にしようよ。苛々してるならうってつけ」
「なんでだよ!?」
「黙々と仕事に勤しんでいると、きっと天からのお恵みで苛々も落ち着いてきます」
「……落ち着く……?」

 お前喋り倒して絶対黙々仕事出来ねーだろ!? と──ルカスは突っ込みかけたが、ミリヤムは聞いていない。

「さぁさぁ、ルカスさん、若いうちは何でも修行ですよ!! なんなら可愛い幼馴染の私めに贈り物をするとでも思って。さぁ!!」

 と、ミリヤムが目の玉見開いて青年に迫ると──途端ルカスがむっとして押し黙った。そのひん曲がった口を見たミリヤムは、物凄く「誰が可愛い幼馴染だって!?」と言いたげな瞳だなぁーと、思ったが──
 ルカスはそのまま腕にミリヤムから奪った篭の持ち手を潜らせて、ルドルフを抱き直した。

「……で? 散歩の行き先はどこだ。ここじゃ豆なんかむけねぇだろ」
「南側のサンルーム……え? 本当にいいの?」

 どうやらルカスは本当に豆に筋取りに付き合う気らしい。
 ミリヤムはキョトンとするが、ルカスは身を翻してさっさと行ってしまう。
 それを見たミリヤムは、抱いているランドルフに手を回して足早に彼を追った。

「ルキ? え? 今日はそれはお前の仕事ではない、って取り上げないの? 辺境伯家の嫁らしく勉強でもしろとか……」
「煩い! さっさと行くぞ!」
「?」

 ルカスの様子にミリヤムは首を傾けた。


 
 そうして二人が子供をあやしながら瑞々しい緑色の豆の筋を取っていると……しばらくしてそのサンルームに来客があった。
 硝子張りで美しい造りの──如何にも貴婦人が優雅に茶でも楽しんでいそうな場所のど真ん中の、これまた気品あるテーブルの上で、あろうことかせっせと豆の筋をとっている娘の姿に、客を案内してきた人狼の執事長が呆れたようにため息をついている。

「奥様……」
「あ、執事長様……」
「様はいりません奥様。はぁ、お客様がお見えですよ。さ、豆はこちらにお寄越し下さい」
「あ、わ、私の豆が!?」

 ミリヤムは寂しそうな顔をしたが、執事長は問答無用で豆の篭を攫って行った。
 そうして彼が(豆入りの篭を手に)サンルームの入り口の脇に立ち、廊下の方へ頭を下げると──そこにくすくすと鈴を転がすような笑い声が聞こえた。
 途端、その響きにミリヤムとルカスの顔がぱぁああ……! と晴れる。

「坊ちゃま!?」
「フロリアン様!!」
「やあ、二人共。元気そうだね」

 フロリアンは優雅な足取りで彼等に歩み寄ると、二人の傍で長椅子の上に寝そべっている半人半獣の双子をにっこり嬉しそうに見た。

「ランドルフ、ルドルフ、覚えてる? 君の祖父だよ」

 ふふふ、というフロリアンの言葉に“坊ちゃま大好き党”の二人が黙り込んだ。

「…………」
「…………」

 確かに、ミリヤムの養父となったフロリアンのことは、そう呼べなくもなくもないが……

「……坊ちゃまが、おじい、様……?」
「……(微妙だ……)」

 フロリアンとミリヤムは思い切り同世代だ。きらきらぴかぴかしたその清廉な美貌で、“祖父”などと言われても──流石に違和感がありすぎる。
 そんな二人の内心を知って知らずか、フロリアンは嬉しそうに双子を交互に撫でている。と──

「ああ、そうだ」

 ルドルフの三角の耳の下あたりを撫でていたフロリアンがふいに顔を上げて。己が連れて来た侍従の方へと視線を送る。すると、侍従が頷いて、彼はミリヤムの傍へしずしずと進みよって来た。

「? え? なんですか?」

 侍従から箱を手渡されて、ミリヤムが戸惑ったように箱とフロリアンを見比べている。
 その視線を受けて、フロリアンは柔らかく微笑んだ。どこか含みのある顔で。

「ふふふ、お土産」
「え? はぁ……みやげ……」
「…………」

 ルカスは成り行きを眺めながらスンとした顔で息を吐いている。

「?」

 ミリヤムはまただ、と思った。また何かがおかしい。
 だが、彼等の様子が何故おかしいのか、それはミリヤムには分からなかった。
 ミリヤムは怪訝に思いながらも、その深い緑色の美しい箱をゆっくりと開く。

「え? わぁ……」

 箱の中身を見たミリヤムが声を漏らす。そこには美しい革靴が収められていた。
 色は艶やかな黒。殆ど飾りはないが、ストラップの留め金には細かな細工が施されていた。品がよく、今ミリヤムが着ているメイド服にもよく合いそうだ。
 双子をあやしながらフロリアンが微笑む。
 
「それなら普段使いしてくれるかなって。もう飾り奉ったりしないでね」
「有難うございます……! え? でも、よろしいんですか?」

 その靴はミリヤムから見ても、如何にも高級そうな品で。土産というにはちょっと違和感があった。
 何故なら、普段から彼はいつも養女であるミリヤムに様々なものを用意して届けさせるが、“土産”という名目で自ら持参する場合は、ミリヤム個人宛ではなく、皆で食べられるような品などであることが多い。
 それは、以前ミリヤムに求婚していた彼が、夫であるヴォルデマーに配慮してのことだとは勿論ミリヤムも分かっている。
 だからこそ不思議だった。フロリアンは今日はどうしたのだろう、と。

 けれども、そんなミリヤムに、フロリアンはにっこりと微笑む。何か、とても楽しそうに。

「いいんだよ。今日は特別なんだから。ヴォルデマー様にも我慢して頂かなくては」
「? はぁ……」

 大丈夫なのだろうかとも思ったが、フロリアンの笑顔があまりにも明るくて。
 結局ミリヤムは、その敬愛する養父からの贈り物を有り難く、そして不思議そうに、受け取ったのだった……



「……そうか、フロリアン殿がそんなことを……」

 昼食の後。城に戻ったヴォルデマーは、食後の会話でそう言いつつ、小さくくすりと笑った。
 あの後フロリアンはその“土産”をミリヤムに渡しただけで早々に城を辞して行った。
 ミリヤムもルカスも、ヴォルデマーが戻るまで城に留まってはどうかと進めたのだが──彼はどうやらすぐに仕事に戻らなければならなかったらしい。
『ちょっと予定が詰まっていてね。すぐ帰らないとイグナーツ殿がお困りになるから』と微笑んで、フロリアンは砦に帰って行った。
 そんな主の様を見送りながら、ルカスが無言でミリヤムの頭を小突く。
『……無理してきて下さったんだぞ、感謝しろ』と。

 そんな経緯があったものだからなおの事──今日は何か変だなぁ、とミリヤムは未だ不思議そうに首を傾げていた。別に今日は特別な日ではない筈なのに、と。
 そんな妻の頭を撫でながら、ヴォルデマーは静かに微笑んでいる。

 ──と、不意に、高い笑い声が食堂内に上がった。ミリヤムがぱっと顔を上げてそちらを見る。するとそこでは、アタウルフとアデリナとギズルフ、そしてその妻のクローディアが窓際のテーブルに席を移して愉快そうに賑やいでいた。──勿論、その中心には双子の姿が。
 黒い耳をぴこぴこさせ、そよそよとまだ覚束ない様子でしっぽを動かしている赤子ふたりを囲んだ姑たちは、代わる代わる彼等を抱き上げて、「この目は私に似ているのだ」とか、「あら、鼻筋は私にそっくりなのよ?」「いやいや……どこをどう見ても全身まるきり俺様でしょう!?」……だとか言い争っている。
 食事が終わって早々に子供達を奪っていかれたミリヤムは、時折心配そうにそちらを見ながらもヴォルデマーに頷いて見せた。

「はい……あ、それで坊ちゃまもなんですけど、ルキも、その……ヴォルデマー様も今日はどこか変だなって思って……」

 ミリヤムは怪訝そうにヴォルデマーを上目遣いに見上げる。
 その視線を受けて、ヴォルデマーが小さく噴出した。

「その様子では……さては気がついておらぬのだな?」
「え? ……っと、何に、ですか?」

 きょとんとするミリヤムに、夫はふっと笑う。

「フロリアン殿も何も仰らずにお帰りになったのだな。……あの方らしい」
「ぇえ?」

 養父の名が出て、ミリヤムがよけい分からないという顔になる。
 そんな妻の顔を楽しそうに眺めていた夫は、やっと優しい声音でその答えを告げた。

「ミリヤム……今日は……お前の誕生した日ではないか」
「……………………へぇ?」

 一瞬、ミリヤムが息を止めた。
 そして次の瞬間、ミリヤムが困った様な顔で眉間に皺を寄せて、首を横に振る。

「ち、違います! 違いますよヴォルデマー様! 我が誕生日はまだまだ先です……」

 ヴォルデマーに悪いと思うのか、それとも間違われて悲しかったのか。ミリヤムの表情はへにゃりと情けなさそうに歪む。
 と、そんな妻の顔を見て、ヴォルデマーは呆れたようにため息をつく。
 彼は、否定するように左右に動いている妻の両手を優しく捕らえると、その栗色の瞳をまっすぐに見る。

「お前というやつは……どこまでもフロリアン殿に忠実なのだな……」
「???」
「ミリヤム、お前が言っているのは……フロリアン殿が、お前を養女に迎えるにあたって変更させた先の日付の事であろう」
「……ん?」
「ルカスが教えてくれた。……お前の本来の誕生日は本日だと」

 確信に満ちた金の瞳に見つめられたミリヤムは、目をまん丸にして──視線を上にやり、手で口を覆う。

「は……っ!!!!」

 そういえば……!? と、ミリヤムは驚愕して叫ぶ。
 以前──諸事情で、本来僅かに年下であるフロリアンの養女になる為に、かの元主が無理にミリヤムの公的な出生記録を改ざんしたのだ。
 それに倣って、従順にも、すっかりきれいに記憶を上書きしていたミリヤムは目を零れそうなくらい丸くしている。

「わ、忘れてました! な、そ、それでか!! 坊ちゃまもだけど、ルカスが豆の筋取り手伝ってくれるなんておかしいと思った!!」
「豆……」
「で、でも……皆様、変更日にもお祝いしてくれるのに……」
「よいのだ。私は今日、お前を祝いたい。本当にお前が生まれたこの日に。駄目か……?」

 握った妻の手のひらを、ヴォルデマーは己の頬にあてながながらそう言った。そこに触れる夫の毛並みの柔らかさに、ミリヤムは、ぽっと頬を赤らめる。

「あ、いえ、その、おおおおそれいります。有難うございます、凄く凄く嬉しいです。」
「ああ。おめでとう、ミリヤム」

 言いながらヴォルデマーは片手を懐に差し入れて小さな箱を取り出すと、黒いふかふかの手の上にそれを乗せて、すっと妻の前に差し出した。

「身につけてくれると、嬉しい」

 そして──ずっと、傍に居てくれと、耳元で囁かれ──
 ミリヤムは胸が堪らなくくすぐったくなって。その顔はあっという間に真っ赤に熟れていく。
 ミリヤムは両手を広げて、跳びはねた。躊躇なくふかふかな夫の首元に抱きつくと「勿論です!」と大声で叫ぶ。

「……ヴォルデマー様……」
「ん?」
「私め、今すっごく幸せです!!」

 ぎゅむむと愛しの夫を抱き締めると、夫もゆったりと微笑んでくれて。背に添えられる大きな手が嬉しくて堪らなかった。


 ──そうしてその日の午後から、ミリヤムの耳の傍で髪を止めている髪飾りが新しいものに変わった。
 可愛らしい小花の細工を施された金色の髪留めは、陽の光をきらきらと弾き、ミリヤムの栗色の髪にもよく映えた。
 ミリヤムは一日に何度もその髪留めに手を伸ばし。鏡の前を通っては、ヴォルデマーの瞳の色と同じで嬉しいなと笑みを頬に滲ませた。

 髪には夫からの贈り物を。足元には養父フロリアンからのぴかぴかの靴を。
 両手に双子を抱き締めて、幸せを噛み締めるミリヤムだった。

「ルカスもありがとね」

 幼友達にミリヤムがにっかり笑って礼を言う。だが、それに対して青年が返したのは、

「………………ふん」と、いう一言だけだった。

 でもいいのだ。ミリヤムには分かっていた。ルカスが本当は自分のことをとても大切に思ってくれていることは。
 だから、ルカスには幾ら叩かれても、怒鳴られてもミリヤムは平気だった。
 ミリヤムは気持ち良さそうに伸びをする。

「さーて今日も頑張ろー」
「……俺はもう豆の筋とりは手伝わないからな……」
「は、では、本日はじゃがいもの皮剥きにでもいたしましょうか?」
「やらねぇって言ってんだろ……」

 護衛騎士が懲りない娘をぎらりとを睨む。

 ──こうして腐れ縁コンビ、“坊っちゃま大好き党”の二人は……今日も賑やかに愛しき双子の世話に勤しむのだった。


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