青年へもう一つの訓練をする事になった話

聖也

文字の大きさ
1 / 1

ひとつ

しおりを挟む

初めてそいつに出会ったのは、確か何かの仕事の帰りの事だ。

 ダンジョンの入口から少し奥に入ったあたりで、情けなく悲鳴をあげて腰が引けているのになんとか武器を向けて魔物に対峙している情けない姿の少年を見つけた。ド初心者丸出しだった。 先輩の先導もなく、パーティも組まず初心者単身でのダンジョン攻略は無謀で通常はしないものだ。
 ちょっと粋がった若い奴が無駄に挑戦心を持って来ちまったんだろうなぁと、呆れて見てみれば、ヘッピリ腰ではあるものの逃げる訳でもなく何とか倒そうともがいている様だったそいつがなんとなく気になった。

ふむ、馬鹿な若者ではねぇ…のかな?

 太刀筋など全くなっていないし、囲まれた場合の対処も知らないようだったが体幹がいいのか魔物の攻撃をギリギリかわしているようだ。あとは攻撃の手がもっとうまければ何とかなると思えて来て、つい声をかけてしまった。
 多分、惜しいと感じたのだと思う。 ガラでもねぇが。
 いきなりの声に戸惑いはしたものの、言われたことはすぐに理解できたようで俺が加勢する必要もなくなんとかその場を切り抜けた少年は、最終的に腰が抜けてその場にへたり込む事になり、街まで俺が面倒を見る羽目になった。

結果的に、懐かれてしまった。

 気まぐれに戦い方を少しだけ教えてやっただけのおっさんに、そんなに懐いていいのかと心配になる程、見つければ駆け寄り付いて周りニコニコとこんな仕事をこなしたんだと報告してくる。犬か、ワンコロか。捨て犬に餌でも与えてしまったのか俺は。
 だが、初級魔物に悲鳴を上げていたような奴がまた無謀なことをしないか心配になるのは仕方がないことで、俺も何かと教えてやったり鍛えたり、飯も食わせてやったり、仕事がなければダンジョンに付き合ってやったりしていた。お互い様か。

 別にパーティーを組むわけでもないし、約束をする訳でもない。
 たまたまその街にお互い滞在して、会えたら飯でも食うか、ちょっと腕試しでもするか?
そんな関係が数年続き、泣きながら武器を振り回して俺の片腕で担がれていたそいつが、屈まなくても会話ができるまで成長し、誰のおかげかそこそこ一人前になった気がする。まぁガタイの良さは未だ俺が勝ってはいるんだがな。

 たまたまお互いの仕事の合間で、飯でもとなった夜。
 もう酒も飲めるのかと、杯を煽るそいつにこっそり感傷的になっていたら、わぁっと盛り上がっている隣の男どもの下世話な会話が気になっていたようだった。 ふと、経験があるのかと聞いてみれば慌てたように真っ赤になって首を振る。なんとまだ童貞、好青年でそこそこ稼ぎもあるのでてっきりすでにオトナかと思っていたので正直驚いた。 未経験が悪い訳でもないが実力主義な奴が多い冒険者稼業ではたまに馬鹿にされることもある。 ここは親心でも働かすかと、娼館に誘えばそれは嫌だと断られてしまった。 初めて会う知らない人にそんな気は起こらない、と。難しい考えをするもんだと思った。
 まぁ強要することでもないし、そのうちどうにかなるだろうとその話は終わらしたつもりだったが、店を出て月明かりの暗い道。店先にある炎の灯りと魔具の光でうっすらと照らされた道の真ん中、俺の手を引き立ち止まったそいつは急に頭を下げて来た。 何事かと聞けば、俺に教えて欲しいと。知らない誰かは嫌だが、あなたなら良いのだと。
 先ほどの話の続きだとはすぐにわかった、が。そうか、俺かぁ。

 そいつをそう言った目で見たことは今まで一切ないが、男を抱くことへの抵抗はない。なにせ仕事柄何処にでも相手をしてくれる女がいる訳でもないし、お互い合意なら近くでどうにかする事もあるからだ。所帯を持つつもりもない。
 まさか自分が育てた奴に、そんなお願いをされるとは思わなかったが、最初にけしかけたのは俺の方かと、まぁ納得もした。 そうだな、面倒を見るべきかもしれない。

しょうがねぇなと、そいつの頭をひと撫でして、宿屋に行くことにした。

 お互に湯を使い体の汗を流したあと、いよいよと寝台に上がったそいつは見てわかるほどにガチガチに緊張していた。 これから起こることにビビっちまうのもわかるが、緊張し過ぎては勃つものもうまく勃たないだろう。軽く声をかけつつ隣にゆっくりと腰掛けるとぎこちない笑顔で返してきた。
 さぁじゃ、まずはと、仰向けに寝転がそうと肩に置いた手をぎゅっと掴まれ、切羽詰ったような、焦ったようなそいつはぎゅっと目を瞑り怒鳴る様に声をあげた。

そいつが俺に願い出たことは、自分に尻を向けて欲しい、と。

 一体なにを言っているのかこいつはと、思考が停止する。
ん?尻? 向ける?こいつに?
 掴まれた手をそのままに、言葉を咀嚼すれば、つまり、こいつは、俺に突っ込みたいって事か?と理解する。

おいおい、ちょっと待ってくれ。

 頭を抱えて天を仰いでしまった。想定外だ。
 こんなおっさんになにを言い出すのやら、日々ひたすら戦いに勤しむあまり外見に気を使うわけでもないただの戦うための筋肉ダルマのむさいおっさんに向かって、やっと体ができてきたような若い青年がなんてお願いをするんだ。

 やめておけ、と考えなおすことを勧めようと顔を戻せば、まるで捨てられそうな犬の目で掴んだままの手にすりよってきた。

なんて目で見て来るんだお前は。

 うぅと唸りながら、やり方わかってんのか?と聞けば知識は入れてきた、と。あとは実践なんだと。一体何処で仕入れた知識なのかとか、いつからそんなこと考えてたんだとか問い詰めたいことは山ほど溢れてくるが、だめですか? とにじり寄るこいつは止まりそうもなく。

物好きも、いるもんだなと。深くため息をつくしかなかった。

 そいつが擦り寄る俺の手を頭に回し、そのまま後ろに寝転べば、軽めの、でも最近重くなってきたそいつの体が上に乗り上げる。

 まぁやってみな。頭だけじゃぁわかんねぇ事ばっかりだろうよ。そういうやつは、先輩の俺が文字通りひとはだ脱いで教えてやるよ。

 面白いぐらいに目をまん丸にしたヤツは瞬間破顔して、そして泣きそうになった。

馬鹿かお前は、まだなにもしてないのに泣いてんじゃねぇ。

 たどたどしく、まるで大事な処女のように扱われるのに苦笑いしつつ、こんなに気を使われたのは一体いつ以来だと、くすぐったくもなる。そんな事したって壊れやしねぇって、思った通りにやりゃいいのにこいつはどこまでもこのおっさんを優しく扱う。

 最初に魔物に襲われたのを助けてやってから、こいつの面倒を見てしまって来た。
そうだな、武器の使い方も戦い方も、全部俺の教えだ。
ならこっちの教えも、してやるべきなのかもしれない。

 組み敷いてるのはそっちの方なのに、全然余裕のないそいつの髪を軽くすいてやる。
俺の指導の仕方は知ってるな、優しくなんてねぇぞ?

「オラッもっとしっかり腰振りやがれ、これじゃ全然イけねぇぞ」

 眉間にシワを寄せて悔しそうに睨むこいつを、可愛いと思ってしまうってことは、俺も絆されてるって事だ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

処理中です...