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ひとつ
しおりを挟む初めてそいつに出会ったのは、確か何かの仕事の帰りの事だ。
ダンジョンの入口から少し奥に入ったあたりで、情けなく悲鳴をあげて腰が引けているのになんとか武器を向けて魔物に対峙している情けない姿の少年を見つけた。ド初心者丸出しだった。 先輩の先導もなく、パーティも組まず初心者単身でのダンジョン攻略は無謀で通常はしないものだ。
ちょっと粋がった若い奴が無駄に挑戦心を持って来ちまったんだろうなぁと、呆れて見てみれば、ヘッピリ腰ではあるものの逃げる訳でもなく何とか倒そうともがいている様だったそいつがなんとなく気になった。
ふむ、馬鹿な若者ではねぇ…のかな?
太刀筋など全くなっていないし、囲まれた場合の対処も知らないようだったが体幹がいいのか魔物の攻撃をギリギリかわしているようだ。あとは攻撃の手がもっとうまければ何とかなると思えて来て、つい声をかけてしまった。
多分、惜しいと感じたのだと思う。 ガラでもねぇが。
いきなりの声に戸惑いはしたものの、言われたことはすぐに理解できたようで俺が加勢する必要もなくなんとかその場を切り抜けた少年は、最終的に腰が抜けてその場にへたり込む事になり、街まで俺が面倒を見る羽目になった。
結果的に、懐かれてしまった。
気まぐれに戦い方を少しだけ教えてやっただけのおっさんに、そんなに懐いていいのかと心配になる程、見つければ駆け寄り付いて周りニコニコとこんな仕事をこなしたんだと報告してくる。犬か、ワンコロか。捨て犬に餌でも与えてしまったのか俺は。
だが、初級魔物に悲鳴を上げていたような奴がまた無謀なことをしないか心配になるのは仕方がないことで、俺も何かと教えてやったり鍛えたり、飯も食わせてやったり、仕事がなければダンジョンに付き合ってやったりしていた。お互い様か。
別にパーティーを組むわけでもないし、約束をする訳でもない。
たまたまその街にお互い滞在して、会えたら飯でも食うか、ちょっと腕試しでもするか?
そんな関係が数年続き、泣きながら武器を振り回して俺の片腕で担がれていたそいつが、屈まなくても会話ができるまで成長し、誰のおかげかそこそこ一人前になった気がする。まぁガタイの良さは未だ俺が勝ってはいるんだがな。
たまたまお互いの仕事の合間で、飯でもとなった夜。
もう酒も飲めるのかと、杯を煽るそいつにこっそり感傷的になっていたら、わぁっと盛り上がっている隣の男どもの下世話な会話が気になっていたようだった。 ふと、経験があるのかと聞いてみれば慌てたように真っ赤になって首を振る。なんとまだ童貞、好青年でそこそこ稼ぎもあるのでてっきりすでにオトナかと思っていたので正直驚いた。 未経験が悪い訳でもないが実力主義な奴が多い冒険者稼業ではたまに馬鹿にされることもある。 ここは親心でも働かすかと、娼館に誘えばそれは嫌だと断られてしまった。 初めて会う知らない人にそんな気は起こらない、と。難しい考えをするもんだと思った。
まぁ強要することでもないし、そのうちどうにかなるだろうとその話は終わらしたつもりだったが、店を出て月明かりの暗い道。店先にある炎の灯りと魔具の光でうっすらと照らされた道の真ん中、俺の手を引き立ち止まったそいつは急に頭を下げて来た。 何事かと聞けば、俺に教えて欲しいと。知らない誰かは嫌だが、あなたなら良いのだと。
先ほどの話の続きだとはすぐにわかった、が。そうか、俺かぁ。
そいつをそう言った目で見たことは今まで一切ないが、男を抱くことへの抵抗はない。なにせ仕事柄何処にでも相手をしてくれる女がいる訳でもないし、お互い合意なら近くでどうにかする事もあるからだ。所帯を持つつもりもない。
まさか自分が育てた奴に、そんなお願いをされるとは思わなかったが、最初にけしかけたのは俺の方かと、まぁ納得もした。 そうだな、面倒を見るべきかもしれない。
しょうがねぇなと、そいつの頭をひと撫でして、宿屋に行くことにした。
お互に湯を使い体の汗を流したあと、いよいよと寝台に上がったそいつは見てわかるほどにガチガチに緊張していた。 これから起こることにビビっちまうのもわかるが、緊張し過ぎては勃つものもうまく勃たないだろう。軽く声をかけつつ隣にゆっくりと腰掛けるとぎこちない笑顔で返してきた。
さぁじゃ、まずはと、仰向けに寝転がそうと肩に置いた手をぎゅっと掴まれ、切羽詰ったような、焦ったようなそいつはぎゅっと目を瞑り怒鳴る様に声をあげた。
そいつが俺に願い出たことは、自分に尻を向けて欲しい、と。
一体なにを言っているのかこいつはと、思考が停止する。
ん?尻? 向ける?こいつに?
掴まれた手をそのままに、言葉を咀嚼すれば、つまり、こいつは、俺に突っ込みたいって事か?と理解する。
おいおい、ちょっと待ってくれ。
頭を抱えて天を仰いでしまった。想定外だ。
こんなおっさんになにを言い出すのやら、日々ひたすら戦いに勤しむあまり外見に気を使うわけでもないただの戦うための筋肉ダルマのむさいおっさんに向かって、やっと体ができてきたような若い青年がなんてお願いをするんだ。
やめておけ、と考えなおすことを勧めようと顔を戻せば、まるで捨てられそうな犬の目で掴んだままの手にすりよってきた。
なんて目で見て来るんだお前は。
うぅと唸りながら、やり方わかってんのか?と聞けば知識は入れてきた、と。あとは実践なんだと。一体何処で仕入れた知識なのかとか、いつからそんなこと考えてたんだとか問い詰めたいことは山ほど溢れてくるが、だめですか? とにじり寄るこいつは止まりそうもなく。
物好きも、いるもんだなと。深くため息をつくしかなかった。
そいつが擦り寄る俺の手を頭に回し、そのまま後ろに寝転べば、軽めの、でも最近重くなってきたそいつの体が上に乗り上げる。
まぁやってみな。頭だけじゃぁわかんねぇ事ばっかりだろうよ。そういうやつは、先輩の俺が文字通りひとはだ脱いで教えてやるよ。
面白いぐらいに目をまん丸にしたヤツは瞬間破顔して、そして泣きそうになった。
馬鹿かお前は、まだなにもしてないのに泣いてんじゃねぇ。
たどたどしく、まるで大事な処女のように扱われるのに苦笑いしつつ、こんなに気を使われたのは一体いつ以来だと、くすぐったくもなる。そんな事したって壊れやしねぇって、思った通りにやりゃいいのにこいつはどこまでもこのおっさんを優しく扱う。
最初に魔物に襲われたのを助けてやってから、こいつの面倒を見てしまって来た。
そうだな、武器の使い方も戦い方も、全部俺の教えだ。
ならこっちの教えも、してやるべきなのかもしれない。
組み敷いてるのはそっちの方なのに、全然余裕のないそいつの髪を軽くすいてやる。
俺の指導の仕方は知ってるな、優しくなんてねぇぞ?
「オラッもっとしっかり腰振りやがれ、これじゃ全然イけねぇぞ」
眉間にシワを寄せて悔しそうに睨むこいつを、可愛いと思ってしまうってことは、俺も絆されてるって事だ。
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