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魔窟編
プロローグ
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「はあ…今日も仕事ですか」
とあるビルの地下で小さなため息が聞こえる。
「こんなものに費やしている時間があったら勉強を、とおばあさんは言うでしょうね」
時計をちらと見た後、彼女は机上に魔法陣を作り出した。深い青に染まった夜空に並ぶビル群、そして窓や地面から見える無数の寒色光。目の前に浮かぶディスプレイは彼女のいる地上の景色を写し続けている。
「…もうそろそろ」
彼女は緑の前髪を左手で払い、画面に全神経を集中させる。
突如、モニターに接続された部品が警報を発する。メインの画面が2次元の抽象化されたマップへと切り替わり、先程まで青みを帯びていた部屋は部屋は赤色の警告表示で埋め尽くされた。彼女はモニターを確認し、表示された地点を拡大する。そこには白丸のようなものが複数個あり、敵が街の区画に侵入しようとしていることが分かった。彼女の耳に掛けてある通信機に連絡が入る。
『こちら遊撃部隊、実行班へ連絡。敵部隊を該当区域へ誘導した。どうぞ』
「了解。これより誘導爆破を開始する。直ちに退避せよ」
『了解』
「…素晴らしい位置です。ただ、目標地点まで少しばかり長い誘導が必要かもしれません」
彼女は慣れた手で魔法陣の模様をかき回し、複雑に変化させる。画面の地図上に次々とターゲットが出現し、それと同時に湧き出る大量の警告を処理、瞬時にターゲットの位置を修正する。彼女の目はまさに動物が獲物を狙う目つきそのものであった。
50秒ほどの後、今度は今まで白かったターゲットの表示が「1」と書かれたマップから徐々に赤く染まっていく。ピッ、ピッという特徴的な音が赤色と警報で騒がしい部屋に加わった。それを聞くやいなや、彼女は魔法陣の形を更に変化させる。
「実行班より作戦本部に通達、第一区画の誘導爆破成功を確認。第二、第三、第四、第六区画の誘導爆破を実行中。第七から第九区画の閉鎖を完了。」
『了解。拠点爆破の許可は出ている。即座に敵を殲滅せよ』
「了解」
彼女は通信機の電源を切った。右手の魔法陣は既に机全体を覆い隠すほどの大きさになっており、その緻密な魔力のせいか、あちらこちらから結晶の割れるような音が聞こえる。
そして白丸が赤い戦で囲まれた地点に重なったまさにその瞬間、
「第五区画、発破!」
彼女は手を跳ね上げ、勢い良く机から手を離した。魔法陣が解放され、地響きが彼女のいる部屋を揺らす。画面が砂嵐で染まり、机の端に置いておいたコーヒーカップが落ちて割れた。あまりの振動に座っていた椅子がドアの方の壁へと打ち付けられ、そのまま彼女は転げ落ちてしまった。
「っつ…」
暫くすると揺れが徐々に収まり、モニターの映像も少しずつ戻って来る。彼女はよろめきながらも起き上がり、乱れた髪を整えながらも前方の画面を凝視する。
表示されている全ての測定値が正常であることを確かめた後、ヘッドセットの電源を再び付け、向こうの相手に話しかけた。
「こちら実行班、敵対勢力の無力化を確認。任務を完遂しました」
『ご苦労。上の思惑通り、中々に華々しく、そして無駄なパフォーマンスだった』
「ありがとうございます」
『…お前にとっては無駄も褒め言葉か。まあいい、約束通り報酬を払おう。部屋の清掃後、すぐに前回と同じカフェに来てくれ』
清掃…?聞き慣れない言葉に、彼女は少し困ったような顔をする。
「…もしかして、前回の任務の時に何か苦情がありましたか?不備があればどうか遠慮なくお伝えして頂ければ幸いなのですが…」
『…ああ。我が軍の兵士は動物アレルギーが多めでな。聞けば狐の毛も駄目だそうだ』
彼女の名はマルル・ベリー。雇われで生計を立てている爆破技師である。
とあるビルの地下で小さなため息が聞こえる。
「こんなものに費やしている時間があったら勉強を、とおばあさんは言うでしょうね」
時計をちらと見た後、彼女は机上に魔法陣を作り出した。深い青に染まった夜空に並ぶビル群、そして窓や地面から見える無数の寒色光。目の前に浮かぶディスプレイは彼女のいる地上の景色を写し続けている。
「…もうそろそろ」
彼女は緑の前髪を左手で払い、画面に全神経を集中させる。
突如、モニターに接続された部品が警報を発する。メインの画面が2次元の抽象化されたマップへと切り替わり、先程まで青みを帯びていた部屋は部屋は赤色の警告表示で埋め尽くされた。彼女はモニターを確認し、表示された地点を拡大する。そこには白丸のようなものが複数個あり、敵が街の区画に侵入しようとしていることが分かった。彼女の耳に掛けてある通信機に連絡が入る。
『こちら遊撃部隊、実行班へ連絡。敵部隊を該当区域へ誘導した。どうぞ』
「了解。これより誘導爆破を開始する。直ちに退避せよ」
『了解』
「…素晴らしい位置です。ただ、目標地点まで少しばかり長い誘導が必要かもしれません」
彼女は慣れた手で魔法陣の模様をかき回し、複雑に変化させる。画面の地図上に次々とターゲットが出現し、それと同時に湧き出る大量の警告を処理、瞬時にターゲットの位置を修正する。彼女の目はまさに動物が獲物を狙う目つきそのものであった。
50秒ほどの後、今度は今まで白かったターゲットの表示が「1」と書かれたマップから徐々に赤く染まっていく。ピッ、ピッという特徴的な音が赤色と警報で騒がしい部屋に加わった。それを聞くやいなや、彼女は魔法陣の形を更に変化させる。
「実行班より作戦本部に通達、第一区画の誘導爆破成功を確認。第二、第三、第四、第六区画の誘導爆破を実行中。第七から第九区画の閉鎖を完了。」
『了解。拠点爆破の許可は出ている。即座に敵を殲滅せよ』
「了解」
彼女は通信機の電源を切った。右手の魔法陣は既に机全体を覆い隠すほどの大きさになっており、その緻密な魔力のせいか、あちらこちらから結晶の割れるような音が聞こえる。
そして白丸が赤い戦で囲まれた地点に重なったまさにその瞬間、
「第五区画、発破!」
彼女は手を跳ね上げ、勢い良く机から手を離した。魔法陣が解放され、地響きが彼女のいる部屋を揺らす。画面が砂嵐で染まり、机の端に置いておいたコーヒーカップが落ちて割れた。あまりの振動に座っていた椅子がドアの方の壁へと打ち付けられ、そのまま彼女は転げ落ちてしまった。
「っつ…」
暫くすると揺れが徐々に収まり、モニターの映像も少しずつ戻って来る。彼女はよろめきながらも起き上がり、乱れた髪を整えながらも前方の画面を凝視する。
表示されている全ての測定値が正常であることを確かめた後、ヘッドセットの電源を再び付け、向こうの相手に話しかけた。
「こちら実行班、敵対勢力の無力化を確認。任務を完遂しました」
『ご苦労。上の思惑通り、中々に華々しく、そして無駄なパフォーマンスだった』
「ありがとうございます」
『…お前にとっては無駄も褒め言葉か。まあいい、約束通り報酬を払おう。部屋の清掃後、すぐに前回と同じカフェに来てくれ』
清掃…?聞き慣れない言葉に、彼女は少し困ったような顔をする。
「…もしかして、前回の任務の時に何か苦情がありましたか?不備があればどうか遠慮なくお伝えして頂ければ幸いなのですが…」
『…ああ。我が軍の兵士は動物アレルギーが多めでな。聞けば狐の毛も駄目だそうだ』
彼女の名はマルル・ベリー。雇われで生計を立てている爆破技師である。
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