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第二話 シートの黒い影(一)
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平井が車の前で待っていると、背後からぬっとそいつが現れた。彼を過ぎて、シルバーのミニバンの、スライド式ドアが全開にあいている車内をひょいと覗きこむと、その黒いセーラー服の少女は、平井の顔を見て、いきなりこう言った。
「君、死ぬかもよ?」
「……」
あまりのことに平井は言葉を失った。が、ふと、この女を知っていると気づいた。そうだ、たしかS組に、かなり変わった奴がいたはず。一見、女子生徒だが、実は――。
「ええと君、同じ高校の、や、やみ……」
「ぼくは、闇介(やみすけ)イチロウ」
平井が言いかけたのを受け、闇介はうっすら笑って名乗った。ボブヘアーで、両のこめかみのところをピンクの花柄のピンでとめている、ぱっちり目のとんでもなくかわいい美少女に見えるが、その実態は女装の美少年である。声がかなり高いことも、たとえセーラー服の下が黒ズボンでも女の子にしか見えない一因になっている。
「君、うちのがっこう?」
「う、うん。A組の平井」
平井は名乗って暗い気持ちになった。こっちは知っていても、向こうがこんな地味な自分を知るはずもない。
「あー、校舎の反対側か。知らないわけだ」
相手はなんでもなく言ったが、平井は、よほど(たとえ同じクラスでも、ぼくが誰だかわからなかったと思うよ!)と叫びたかった。
クラス一の陰キャで友達はいなかった。かくべつ容姿が悪いわけではないが、とにかく雰囲気が暗くて口数が少なく、背が低く、やせているうえに猫背である。頬がこけ、目じりの下がった顔からも陰気オーラを放っていて、校内で彼に話しかけるものは皆無だった。ここではやられていないが、小学校では、クラスの心ない連中から、ぱっと見のイメージでげっ歯類呼ばわりされて、いじめにあっていた。
だから先週、クラスの一番人気の陽キャである秋山に、グループで遊園地に行こうと誘われたときは目を疑った。単に数合わせだろうと思ったが、遊びに誘われるなんて入学以来初めてだったのでうれしくなり、即オーケーした。
それで日曜日の今日、こうして朝早くから待ち合わせ場所の駅から数分の駐車場へ、いそいそと来たのである。運転手の秋山の兄だけが先に来ていて、「コンビニに行ってくるから先に乗ってていい」と言われ、さっそく入ろうとした。そのとき、この男の娘が、どこからかいきなり現れ、ミニバンの中を覗いたのである。
「平井くん、これに乗るの?」
真顔で聞かれ、さっきいきなり不穏なことを言われたのを思い出した。
「そ、そうだけど」
「うーん」
気難しい顔で言うと、また中をひょいと覗き、再び彼を向く。
「今朝はずーっと嫌な感じがしてて、それをたどったら、ここへ来たんだ。どうも、この車のところで途切れてるんだけど……。
もしかしたら、中に何かあるかもしれない。もしそうなら、これに乗るとヤバいことになる、確実に」
「確実って……嫌な感じ、ってだけでしょ?」
言われた闇介が、目を細めて氷のような視線を送ったので、平井はぞっとした。
「ぼくの予感は外れたためしがない。はっきりいって、これに乗るのは君の命にかかわると思う」
「そ、そこまで?!」
平井はさすがに困惑した。
「い、今からこれで、みんなで遊園地に行く予定なんだ。ぼくのほかに五人は乗るんだよ? 今さら、そんな理由でやめろとか、無理だよ」
「ぼくも同伴できればいいんだけど、あいにく別の用事があって行かなきゃならない。もちろん、いきなりこんな変な話を信じろってほうが無理なのはわかる。だから、警告だけしとくよ。それじゃ」
言い捨てて、さっさと行ってしまい、猫背の陰キャ一人が、あっけにとられたまま残された。
「君、死ぬかもよ?」
「……」
あまりのことに平井は言葉を失った。が、ふと、この女を知っていると気づいた。そうだ、たしかS組に、かなり変わった奴がいたはず。一見、女子生徒だが、実は――。
「ええと君、同じ高校の、や、やみ……」
「ぼくは、闇介(やみすけ)イチロウ」
平井が言いかけたのを受け、闇介はうっすら笑って名乗った。ボブヘアーで、両のこめかみのところをピンクの花柄のピンでとめている、ぱっちり目のとんでもなくかわいい美少女に見えるが、その実態は女装の美少年である。声がかなり高いことも、たとえセーラー服の下が黒ズボンでも女の子にしか見えない一因になっている。
「君、うちのがっこう?」
「う、うん。A組の平井」
平井は名乗って暗い気持ちになった。こっちは知っていても、向こうがこんな地味な自分を知るはずもない。
「あー、校舎の反対側か。知らないわけだ」
相手はなんでもなく言ったが、平井は、よほど(たとえ同じクラスでも、ぼくが誰だかわからなかったと思うよ!)と叫びたかった。
クラス一の陰キャで友達はいなかった。かくべつ容姿が悪いわけではないが、とにかく雰囲気が暗くて口数が少なく、背が低く、やせているうえに猫背である。頬がこけ、目じりの下がった顔からも陰気オーラを放っていて、校内で彼に話しかけるものは皆無だった。ここではやられていないが、小学校では、クラスの心ない連中から、ぱっと見のイメージでげっ歯類呼ばわりされて、いじめにあっていた。
だから先週、クラスの一番人気の陽キャである秋山に、グループで遊園地に行こうと誘われたときは目を疑った。単に数合わせだろうと思ったが、遊びに誘われるなんて入学以来初めてだったのでうれしくなり、即オーケーした。
それで日曜日の今日、こうして朝早くから待ち合わせ場所の駅から数分の駐車場へ、いそいそと来たのである。運転手の秋山の兄だけが先に来ていて、「コンビニに行ってくるから先に乗ってていい」と言われ、さっそく入ろうとした。そのとき、この男の娘が、どこからかいきなり現れ、ミニバンの中を覗いたのである。
「平井くん、これに乗るの?」
真顔で聞かれ、さっきいきなり不穏なことを言われたのを思い出した。
「そ、そうだけど」
「うーん」
気難しい顔で言うと、また中をひょいと覗き、再び彼を向く。
「今朝はずーっと嫌な感じがしてて、それをたどったら、ここへ来たんだ。どうも、この車のところで途切れてるんだけど……。
もしかしたら、中に何かあるかもしれない。もしそうなら、これに乗るとヤバいことになる、確実に」
「確実って……嫌な感じ、ってだけでしょ?」
言われた闇介が、目を細めて氷のような視線を送ったので、平井はぞっとした。
「ぼくの予感は外れたためしがない。はっきりいって、これに乗るのは君の命にかかわると思う」
「そ、そこまで?!」
平井はさすがに困惑した。
「い、今からこれで、みんなで遊園地に行く予定なんだ。ぼくのほかに五人は乗るんだよ? 今さら、そんな理由でやめろとか、無理だよ」
「ぼくも同伴できればいいんだけど、あいにく別の用事があって行かなきゃならない。もちろん、いきなりこんな変な話を信じろってほうが無理なのはわかる。だから、警告だけしとくよ。それじゃ」
言い捨てて、さっさと行ってしまい、猫背の陰キャ一人が、あっけにとられたまま残された。
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