ここはチルアウトゾーン

闇河白夜

文字の大きさ
15 / 21

十四、グラマー市長の乳攻撃

しおりを挟む
 情報誌「ブリグストンズ速報」より

「先ごろ、我が都市最悪の凶悪犯、ペテロギウスがアルトトラズ刑務所を脱獄し、目下チルアウトゾーン内を北へ逃走中。奴は邪教ミズダヤスト教の教祖であり、冥界より無数の悪霊を復活させ、チルアウトゾーン全土を支配する、という恐るべき計略をもくろんでいる。

 北部には、死者復活に最適と言われる土地、ゾンダーがあり、我がブリグストンズ市警は、なんとしても奴がそこへたどりつくことを阻止すべく、現在追跡中である。

 新しい情報が入り次第、追って伝える」




「ゾンダーへようこそ!」
 部屋へ入るや、いきなりふくよかな声で景気よく言った女を一目見て、桃香はとてつもなくヤバいと踏み、眉間にガーッとしわが寄って、眉が吊りあがった。だが、その警戒も瞬時に、奈落に落ちたような驚がくに変わった。女はそのでかい胸にでかい尻の豊満な肉体をゆらし、見事なくびれを持つ腰をやや振って、なんといきなり両腕をがばっと広げて一樹に抱きつき、その巨峰のような胸の中へ、彼の顔面をずぶずぶ埋めまくったのである。

「ぶ、ぶはああっ!」
 あわてて顔を引っぺがし、「な、なにするん――」と抗議しかけたとき、彼は隣で桃香も同じ目にあうのを見た。
「ぐ、ぐはあっ! やめてっ!」

 窒息しかけ、必死にその風船のような肉を突き飛ばした桃香に、女は苦笑してわびた。
「あら、ごめんなさい。ハグはこの土地のあいさつなんですよ」
「ふ、普通にハグればいいのに、なんで顔を胸に押しつけるんですかっ!」と、まっかになって怒る桃香。
「これは、たんに私のくせで……」
「そんなくせ、なおせよ!」
「も、桃香、よせ」
 一樹がなだめると、彼女はしかたなく黙った。そして相手をじろじろ見た。

 ったく、ムカつく女だぜ。ベージュの背広にタイトスカートを着けた体だけじゃなく、顔も肉づきがよくて、こんにゃくみたいにぷにぷにしてやがる。なのに、顔はやたらに端正なうりざね。その切れ長のするどい目や、赤く小さな唇、右側でゆわえた長い黒髪などは、どこかアジア的だが、褐色肌なので、エスニックな美人女優のおもむき。だがなによりヤバいのは、背広の胸元からはみ出そうなほどに、はち切れそうにでかい巨乳である。歳は三十から四十……いや、こんな役職だから、軽く五十は行ってるかも。
 桃香は、いまの言動プラスこの容ぼうで、一気にこいつのことがきらいになった。

「私がこのエスクリック市の市長、マキゾネです」
 女がそう言って手を出して一樹と握手したので、またキレそうになった。
「握手するなら、ハグいらないじゃん!」
「あーら、娘さん、ハグがおきらいですか?」
 一樹を向いて、のん気に言うので、再度キレかかったが、一樹が先に制した。
「いえ、娘じゃないんです」
「では、めい御さん?」
「いや、めいでも――」

「じゃあ、ご友人の娘さん? まさか、お孫さんではありませんよね? いや待て、ありうるな。この前も……」と一人であれこれ考え出す。
 ガキあつかいは慣れているが、バカにやられるとムカつく。恋人だと豪語しようとしたとき、一樹が横から彼女の肩を抱いて、市長にドヤ顔を向け、きっぱりと言った。
「違います。彼女は――僕の母です」
(い、いかん、こいつもバカだ……!)
 そう思ったが、うれしさのほうが勝って、なにも言えなかった。マキゾネ市長は、もっと困惑するかと思いきや、腕を組んで納得したようにほほえんだ。
「そうですか、かわいらしいお母さまですね」

「あのう、ここはそういう人が多いんですか?」
 一樹が聞くと、マキゾネは、なんでもないように続けた。
「はい、先日も魔術で二十歳ほど若がえった方がいまして。親が、お子さんよりさらに子供の年齢に戻ることは、可能です」
「へえ、そりゃすごい」
「はい、ほかにも――そうですね」と考えて、「たとえば、子供でも、なろうと思えば大人の親になることが出来ます。普通は無理な相談ですが、子供が魔術師のところへ行けば、子育てのスキルなどを身に着けられるアイテムをもらえます。魔法を使えば、不可能はありません。このエスクリックは、そういう町です」

 一樹の顔がくもった。まずい、幼児期のことを思いだしたようだ。そもそも、母親の父親役を務めなければ捨てられる、という無理ゲーを子供のころに押しつけられたのが、彼の不幸と苦しみの原点だからだ。
 桃香はあわてて、話題をずらした。
「そ、それでは、ここではオカルトや心霊のたぐいが、ふつうのこととして認知されているわけですね?」
「そのとおりです。お母さま、ご聡明ですね」とマキゾネ。誰でも分かるわ、そんなこと。

 しかし、わいたムカつきを消し飛ばすような言葉が、すぐ相手の口から出た。
「さすがは、アシザワ・カズキさまのお母さまですね」
「えっ、ぼくを知ってるんですか?」
 おどろく一樹に、「はい」と、あごをしゃくりそうな位置に来て、続ける。おい、近づきすぎだろ。
「エスクリックは情報が発達しております。あなたさまのお噂は、全て入っておりますよ」

 マキゾネは両腕を大きく広げて無駄に乳をぶんぶんゆらし、今にもハグしそうな体勢で一樹にさけんだ。
「目下、三十五の町で膨大な悩める市民を救い、数々の伝説を作り続けるスーパーヒーロー、アシザワ・カズキ! おのおの三十二の町で彼をたたえる銅像が建つ、まさにチルアウトゾーン稀代の英雄、アシザワ・カズキ!」
 顔がまっかになる一樹。彼の鬱を追い払ってくれたのはいいが、見ていると、いやな予感しかしない。
「あなたにお会いできて、本当に、光栄のきわみですううううー!」
 案の定、彼に抱きつこうとしてよけられ、後ろのロッカーに額を思いっきりぶつけて、流血した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

処理中です...