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余白巡礼 第七章「百鬼夜行」
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地の底だった。京都の街の喧騒も、夜の風も、すべてが遥か上方に置き去りにされたまま、巨大な地下空洞だけが静かに口を開けている。観理院跡。かつては理を記し、触れぬことを是とした場所。今は、律導庁によって“使われるための空間”へと改変され、岩盤を穿った天井には無数の照明が冷たい光を落とし、床には術式と配線が絡み合うように張り巡らされていた。
空也は、その広さよりも、空気の重さに息を詰める。湿り気を帯びた空気の底に、数え切れないほどの「声」が折り重なり、まだ形を持たない悲鳴として滲んでいるのが、はっきりと分かった。
ふうの羽が、かすかに強張る。風の流れが、ここでは不自然なほど直線的だった。
「……ひどい場所だね」
ふうの声は低く、冗談めかした調子は欠片もなかった。風が自由を失い、命令の通路として切り分けられている。空也の胸の奥で、余白の種子が、嫌悪に似た震えを返す。
そのときだった。乾いた音が、空洞に反響する。床の奥、照明の影から、ひとりの男が歩み出る。
如月漣。律導庁の研究主任。黒いコートの内側に、数え切れない札を収めたケースを下げ、その瞳には一切の躊躇がなかった。
「ようこそ。ここが――実験場だ」
如月の声は淡々としていた。人を迎える声ではない。結果を確認するための声だった。
次の瞬間、如月の腕が翻る。投擲というにはあまりにも正確で、あまりにも無感情な動作。無数の封札が、空間を切り裂いて散った。空也の視界で、札が光を帯びる。一枚、また一枚と術式が開き、封じられていたものたちが、押し込められていた「番号」と「役割」を与えられ解放される。
解放。だがそれは、救済ではなかった。呻き声が、地鳴りのように立ち上がる。形を失った獣、歪んだ人影、名前を剥がされた感情の塊。怪異たちが、互いを押し合い、絡み合い、暴走という形で現実へ滲み出す。
如月が静かに告げる。
「制圧兵器――百鬼夜行を起動する」
空也は、反射的に一歩前へ出ていた。恐怖ではない。胸の奥から、強烈な「聞こえてしまう」感覚が溢れ出していた。
――寒い。――痛い。――忘れられた。――呼ばれたかった。無数の声が、直接、内側へ流れ込む。
最初は、ほんの小さな音だった。紙が、湿り気を含んだ空気の中で裂けるような、乾いた摩擦音。地下空洞の奥、照明の届かない陰で、一枚の封札がゆっくりと術式をほどいていく。
怪異は、まだ曖昧だった。人の形を思わせる輪郭を持ちながら、足元は床に定まらず、影のように揺れている。空也は、無意識に一歩前へ出ていた。胸の奥で、余白の種子がかすかに脈打つ。
聞こえる。声というには未熟で、言葉になる前の感情の残滓。それでも確かに、「名を取り戻したい」と願う揺らぎ。
空也は膝を折り、その場にしゃがみ込む。耳を澄まし、胸を開き、拒まず、追い立てず、ただ受け取る。
「……名前を教えてくれ」
言葉を探すたび、空也の胸の奥で、余白の種子がかすかに軋んだ。名を与えるという行為は、ただ呼ぶことではない。その存在が、なぜここに引きずり出されたのか。何を奪われ、何を諦め、どこで立ち止まったのか――一瞬で、それらすべてを“受け取る”必要があった。間違えれば、還らない。聞き逃せば、壊れる。空也はそれを、理屈ではなく、胸に沈む圧として理解していた。――重い。一体ごとに、世界の重さが増していく。救えているはずなのに、胸の奥には、確実に“残るもの”が溜まっていった。
名を返すと、怪異はほどける。光の粒となり、空気の隙間へと吸い込まれるように、余白へ還っていく。間に合っている。今は、まだ。二枚目の封札が開く。三枚目、四枚目。怪異は増えるが、空也の動きは迷わない。ふうが羽を広げ、風を強く叩きつける。風は刃ではない。押し流し、散らし、怪異の流れを断ち切るための力。
「空也、次が来るよ!」
「わかってる!」
空也は耳を澄ます。解鎖し、還し、また次へ。汗が、背中を伝い始める。息はまだ整っている。この程度なら、耐えられる。だが――。封札の間隔が、縮まる。音が重なる。裂ける音が、止まらない。十体。二十体。数え切れない。怪異はもはや点ではなく、流れになり、うねりになり、地下空洞そのものを満たし始めていた。流れは、止まらなかった。一体を還しても、その背後から、別の声が浮かび上がる。それは悲鳴ですらない。言葉になることを諦めた、感情の残滓だった。空也の視界が、わずかに滲む。焦点が合わない。声の輪郭が、重なり、溶け、分離できなくなる。――追いつかない。ふうの風が、怪異の流れを押し留めるたび、空気が悲鳴を上げた。風は本来、自由なものだ。だが今は、壁として使われている。守るために、縛られている。空也はそれを、痛いほど理解していた。
「……多い……!」
声に、明確な焦りが混じる。風を起こすたびに、羽の根元が軋む。怪異たちは、空也とふうの存在を“認識した”ように向きを揃えた。悪意ではない。だが、救いを求めるには、あまりに数が多すぎた。
殺到する。空也は必死に名前を拾う。だが、声が重なり始める。一体分だったはずの感情が、二体分、三体分と混線し、胸の奥で絡み合う。聞き取れない。分離できない。呼吸が、乱れる。
「……っ、待て……!」
一体を還しても、次が来る。風で吹き飛ばしても、背後から押し寄せる。
足元が、不自然に沈んだ。最初は、錯覚だった。だが次の瞬間、空也ははっきりと理解する。床の輪郭が、崩れている。石は石であることを忘れ、柔らかく歪み、影が質量を持って盛り上がる。光が、重い。照明の光が、空気に沈み込み、触れられそうなほどの厚みを帯びる。天井が遠のく。同時に、地面が浮き上がる。上下の感覚が、反転しかける。
「……理が……」
ふうの声が、かすかに震える。
理が歪んでいる。怪異の量が、世界の許容量を超え始めていた。余白が、現実を侵食する。それは破壊ではなかった。世界が、必死に形を保とうとしている音だった。石は石であろうとし、光は光として留まろうとし、影は影の役割を思い出そうとしている。だが、余白が多すぎる。未整理の声が、現実の隙間に流れ込み、定義が、追いつかなくなっている。
空也は、理解してしまった。これはもう、“誰かが頑張れば解決する問題”ではない。世界そのものが、限界を迎えようとしている。空也は立ち止まり、膝をついた。胸の奥で、余白の種子が悲鳴を上げる。聞こえすぎる。理解しすぎている。世界が、壊れかけているのが、はっきり分かる。だが――どうにもならない。
空也の喉から、言葉が零れ落ちる。
「……無理だ……」
それは諦めではなかった。逃避でもなかった。計算の結果だった。
「……こんなの……人が、どうにかできる規模じゃない……」
ふうも、風を維持できず、羽を畳む。足が、わずかに震える。
怪異は、さらに増える。空間が、きしむ。
空也は、立ち上がろうとした。だが、足に力が入らない。救えなかった数が、理解しきれなかった声が、胸の奥で、静かに積み重なっている。――届かない。それは敗北ではなかった。ただ、限界だった。人が、人であるまま触れていい領域を、はっきりと越えてしまった感覚。
そのとき。空洞の天井に、一本の光が差した。黎明色。夜でも昼でもない、世界が切り替わる直前の色。光は、まっすぐ落ちてくるのではない。空気を押し分け、歪みを撫で、慎重に現実へ染み込んでくる。
光の中心に、少女が立っていた。輪郭は曖昧で、霧のように揺らぎ、それでも確かに“在る”。
彼女は、空也を見ない。ふうも見ない。ただ、世界を見ていた。
少女が、静かに刀を振り上げる。振り上げられた刀は、怪異に向けられていなかった。斬るための構えではない。それは、世界の歪みに対して“正しい向きを示す”所作だった。
刀が描いた軌跡に、音はない。だが、地下空洞の奥で、何かが――深く、長い息を吐いた。最初に止まったのは、崩壊だった。沈みかけていた床が、そこで留まる。浮き上がりかけた天井が、距離を思い出す。上下が、元の意味を取り戻す。
次に起きたのは、分離だった。絡み合っていた影と光が、ゆっくりと引き剥がされていく。影は影として床に落ち、光は光として、再び照らす側へ戻る。互いに混ざり合うことを、やめていく。
余白は、押し戻されるのではない。引き寄せられる。本来在るべき場所へ、静かに、当然のように還っていく。
最後に、世界が固まった。石は石として重さを取り戻し、空気は空気として流れを思い出し、音は、遅れずに届くようになる。
修復は、完了ではなかった。だが、これ以上壊れない“形”までは、確かに戻された。
怪異たちは、抵抗しない。声も上げない。ただ、自分たちが置かれていた場所を思い出したかのように、光の粒へとほどけていく。
百鬼夜行は、鎮められたのではない。世界が、自分の呼吸を取り戻しただけだった。
空也は、その場に膝をついたまま、動けなかった。救えなかった数の重さが、胸に沈んでいる。
還った光の数を、空也は数えなかった。数えられなかった。救えたものより、救えなかったもののほうが、はっきりと胸に残っている。
正解だった。選択は間違っていない。それでも、残るものは消えない。――それでも、進むしかない。その言葉が、まだ形にならないまま、胸の底に沈んでいた。
ふうも、言葉を失い、ただ光の余韻を見つめていた。
黎明の少女は、何も語らず、光の中へ溶けるように消えていく。
地下空洞には、静寂だけが残る。百鬼夜行は終わった。だがそれは――人が越えられる限界が、はっきりと刻まれた瞬間でもあった。
◇
静寂は、すぐには戻らなかった。地下空洞は沈黙しているのに、空気だけが遅れて揺れている。理が無理やり元の形に押し戻された痕が、見えない歪みとして残っていた。
空也は、まだ膝をついたままだった。立ち上がろうとすればできる。だが、身体がそれを選ばなかった。胸の奥が、重い。理解できなかった声、拾い切れなかった名前、救えなかった数。それらが感情ではなく、事実として沈殿している。
ふうも、しばらく動かなかった。羽は畳まれたまま、風は起きない。
「……」
言葉を探そうとして、やめる。今は、何を言っても足りないと分かっていた。
そのとき。乾いた靴音が、空洞の奥で響いた。一定の間隔。迷いのない歩幅。
ふうが、はっと顔を上げる。
「……まだ、いる」
空也も視線を向ける。照明の影の向こうから、ひとりの人影が現れる。
如月漣だった。無傷ではない。服は汚れ、肩で息をしている。だが、その表情に狼狽はなかった。彼は、崩れた空洞を一瞥し、淡々と呟く。
「……想定以上だな」
それは、被害を嘆く声ではない。計算が外れたことへの、純粋な評価だった。
「黎明の介入がここまで早いとは……」
空也は、ゆっくりと顔を上げる。怒りは湧かなかった。ただ、理解できない隔たりだけが、そこにあった。
「……これを……実験だと言うつもりか」
如月は答えない。代わりに、懐へと手を伸ばす。指先が触れたのは、最後の一枚。他の封札とは明らかに異なる、慎重に封じられた札。
ふうの背筋が、凍る。
「……その札……」
鹿哭沼で感じた、あの風。冷たく、速く、しかしどこか幼い感触。
如月は封札を掲げ、静かに言う。
「安心しろ。簡単に逃がしはしない」
術式が、開く。音はしない。風だけが、そこに現れる。形を持たないはずの風が、輪郭を得て、空間に留まる。矢のように鋭く、しかし即座に放たれない。
シップウ零号。
風が、鳴った。音ではない。空気そのものが、引き絞られる感触。次の瞬間、無数の風の矢が空間を裂いた。
「――っ!」
ふうが羽を大きく広げ、咄嗟に風をぶつける。刃と刃が打ち合うような衝撃が走り、地下空洞の空気が軋んだ。風の矢は速い。一直線ではなく、意思を持つように軌道を変え、ふうの死角を突いてくる。
「この……っ!」
ふうは歯を食いしばり、風を重ねる。押し返すのではない。受け流し、逸らし、空也から遠ざける。だが、追いつかない。一矢を弾いても、次が来る。三方向、四方向から同時に放たれ、ふうの羽が風圧に煽られる。足元が浮く。空中で体勢を崩し、壁際へ追い込まれる。
「……速すぎ……!」
それでも、殺意はない。致命を狙わず、ただ近づかせないためだけの、冷静な圧。鹿哭沼で感じた、あの風。幼く、鋭く、命令に従うだけの――それでいて、どこか迷いを含んだ気配。
ふうが叫ぶ。
「……これは……鹿哭沼で感じた風……!」
その声が空間に残る中で。
空也は、構えなかった。その代わり、ゆっくりと目を閉じる。世界の音が、遠のく。風の奥に、記憶が見える。最初は、ただの空白だった。名前も役割もなく、ただ余白の中で揺れる天狗の風。次に、呼ばれた瞬間。如月の声。番号。指示。付き従う日々。命令は厳密だったが、残酷ではなかった。むしろ――。そこには、安心があった。存在していい理由が、与えられていた。
空也は、静かに口を開く。
「……名前がなかったんじゃない」
風が、わずかに揺れる。
「呼ばれたことが、なかっただけだ」
空也は、一歩前に出る。
「だから……お前は“風の子”だ」
風が、ためらうように揺らぐ。
「好きなように、自由に舞え」
次の瞬間、風の矢が止まった。シップウ零号――否、風の子は、その場に留まり、攻撃をやめる。如月の目が、わずかに見開かれる。
「……余白との境界を……言葉ひとつで……?」
彼の声に、初めて苛立ちが混じる。
「冗談ではない。巡谷空也。お前の存在は危険だ」
如月が、懐の銃に手を伸ばす。
その瞬間。突風が、爆ぜた。ふうの風が、如月を壁へ叩きつける。衝撃音。身体が床に落ち、動かなくなる。
ふうが、はっと我に返る。
「……マズイ! やっちゃったか?」
空也は駆け寄り、如月の胸元に手を当てる。
「……息はしてる。気絶してるだけだ」
風の子が、倒れた如月の傍へと寄り添う。命令ではない。自分の意思で。
空也は、その光景を見つめながら、低く言った。
「……もう大丈夫だ」
風の子に向けて。
「この人が……お前の“帰り道”なんだろ?」
地下空洞に、再び静寂が落ちる。だがそれは、百鬼夜行の前とは違う静けさだった。世界は壊れかけ、そして戻った。その事実だけが、重く残っている。
ふうが、空也を見る。その瞳の奥に、微かな揺れがあった。まだ言葉にならない、不安の兆し。
忍び寄るものを、二人とも、まだ知らない。――だが、それが“名を奪う救済”であることを、世界だけが、すでに知っていた。
◇
静寂が、ようやく地下空洞に根を下ろし始めた頃だった。崩壊しかけた理は落ち着きを取り戻し、空気は重さを失い、世界は再び“世界として在る”形を取り戻している。空也は、深く息を吐いた。肺の奥に溜まっていた緊張が、ようやく抜けていく。
ふうも、羽をゆっくりと畳む。肩の力が抜け、風が自然な流れに戻る。
「……終わった、のかな」
その言葉は、確認というより願いに近かった。風の子が、空洞の上方を旋回し、迷うように、しかし自由に風を試している。空也はそれを見上げ、わずかに口元を緩めた。
そのとき。
空気が、音もなく切り替わった。ふうが、最初に気づく。背中をなぞるような、冷たい視線。
「……っ」
振り向いた瞬間、足元の空間が、閉じた。無数の黒い鎖が、地面から立ち上がり、ふうの身体を絡め取る。風をすり抜け、羽の根元にまで食い込む、硬質な理の拘束。
「な――」
声を上げる間もなかった。
地下空洞の奥、照明の影から、ひとりの老女が姿を現す。
御室鶴。整えられた姿勢。微笑みの奥に感情の起伏を感じさせない目。彼女は、事態を確認するように一瞥し、淡々と告げた。
「零式律鎖――余白を縛りなさい」
その一言で、鎖が締まる。ふうの身体が、宙に引き上げられ、羽が大きく震える。風が、出ない。拒もうとした風は、律鎖によって即座に打ち消される。
「……っ、空也……!」
空也が駆け出す。
「ふう――!」
だが、無数の鎖がそれを阻む。踏み込めない。鶴は空也を見ない。ふうだけを見据え、静かに続ける。
「天狗。理の第二層の住人――余白に生きる者」
鎖が、ふうの身体を“定義”するように締め上げる。風の輪郭が、削がれていく。
「ここから先は、私たちが管理するわ」
ふうの瞳が、揺れる。恐怖ではない。呼ばれなくなる予感だった。
空也は歯を食いしばる。
「……離せ……!」
鶴は、初めて空也に視線を向けた。
「巡谷空也。あなたはすでに、倫理の外に在る」
冷たい宣告。
「だが――彼女は違う」
再び、ふうへ視線を戻す。
「彼女は、まだ“救済可能”よ」
鎖が、ふうを縛る。鶴がふうの身体に封札を押し当てる。ふうの身体が光に包まれ札に溶けていく。羽が、必死に震え、風を呼ぼうとする。だが、風は応えない。
「空也……!」
声が、光に遮られ、遠ざかる。次の瞬間、ふうの姿は、封札の光の中へ消えた。残ったのは、切断された風の余韻だけ。
空也は、その場に立ち尽くす。百鬼夜行は終わった。世界は救われた。――だが、彼女は救われなかった。
地下空洞に、重い沈黙が落ちる。それは、嵐を告げる沈黙だった。
空也は、その広さよりも、空気の重さに息を詰める。湿り気を帯びた空気の底に、数え切れないほどの「声」が折り重なり、まだ形を持たない悲鳴として滲んでいるのが、はっきりと分かった。
ふうの羽が、かすかに強張る。風の流れが、ここでは不自然なほど直線的だった。
「……ひどい場所だね」
ふうの声は低く、冗談めかした調子は欠片もなかった。風が自由を失い、命令の通路として切り分けられている。空也の胸の奥で、余白の種子が、嫌悪に似た震えを返す。
そのときだった。乾いた音が、空洞に反響する。床の奥、照明の影から、ひとりの男が歩み出る。
如月漣。律導庁の研究主任。黒いコートの内側に、数え切れない札を収めたケースを下げ、その瞳には一切の躊躇がなかった。
「ようこそ。ここが――実験場だ」
如月の声は淡々としていた。人を迎える声ではない。結果を確認するための声だった。
次の瞬間、如月の腕が翻る。投擲というにはあまりにも正確で、あまりにも無感情な動作。無数の封札が、空間を切り裂いて散った。空也の視界で、札が光を帯びる。一枚、また一枚と術式が開き、封じられていたものたちが、押し込められていた「番号」と「役割」を与えられ解放される。
解放。だがそれは、救済ではなかった。呻き声が、地鳴りのように立ち上がる。形を失った獣、歪んだ人影、名前を剥がされた感情の塊。怪異たちが、互いを押し合い、絡み合い、暴走という形で現実へ滲み出す。
如月が静かに告げる。
「制圧兵器――百鬼夜行を起動する」
空也は、反射的に一歩前へ出ていた。恐怖ではない。胸の奥から、強烈な「聞こえてしまう」感覚が溢れ出していた。
――寒い。――痛い。――忘れられた。――呼ばれたかった。無数の声が、直接、内側へ流れ込む。
最初は、ほんの小さな音だった。紙が、湿り気を含んだ空気の中で裂けるような、乾いた摩擦音。地下空洞の奥、照明の届かない陰で、一枚の封札がゆっくりと術式をほどいていく。
怪異は、まだ曖昧だった。人の形を思わせる輪郭を持ちながら、足元は床に定まらず、影のように揺れている。空也は、無意識に一歩前へ出ていた。胸の奥で、余白の種子がかすかに脈打つ。
聞こえる。声というには未熟で、言葉になる前の感情の残滓。それでも確かに、「名を取り戻したい」と願う揺らぎ。
空也は膝を折り、その場にしゃがみ込む。耳を澄まし、胸を開き、拒まず、追い立てず、ただ受け取る。
「……名前を教えてくれ」
言葉を探すたび、空也の胸の奥で、余白の種子がかすかに軋んだ。名を与えるという行為は、ただ呼ぶことではない。その存在が、なぜここに引きずり出されたのか。何を奪われ、何を諦め、どこで立ち止まったのか――一瞬で、それらすべてを“受け取る”必要があった。間違えれば、還らない。聞き逃せば、壊れる。空也はそれを、理屈ではなく、胸に沈む圧として理解していた。――重い。一体ごとに、世界の重さが増していく。救えているはずなのに、胸の奥には、確実に“残るもの”が溜まっていった。
名を返すと、怪異はほどける。光の粒となり、空気の隙間へと吸い込まれるように、余白へ還っていく。間に合っている。今は、まだ。二枚目の封札が開く。三枚目、四枚目。怪異は増えるが、空也の動きは迷わない。ふうが羽を広げ、風を強く叩きつける。風は刃ではない。押し流し、散らし、怪異の流れを断ち切るための力。
「空也、次が来るよ!」
「わかってる!」
空也は耳を澄ます。解鎖し、還し、また次へ。汗が、背中を伝い始める。息はまだ整っている。この程度なら、耐えられる。だが――。封札の間隔が、縮まる。音が重なる。裂ける音が、止まらない。十体。二十体。数え切れない。怪異はもはや点ではなく、流れになり、うねりになり、地下空洞そのものを満たし始めていた。流れは、止まらなかった。一体を還しても、その背後から、別の声が浮かび上がる。それは悲鳴ですらない。言葉になることを諦めた、感情の残滓だった。空也の視界が、わずかに滲む。焦点が合わない。声の輪郭が、重なり、溶け、分離できなくなる。――追いつかない。ふうの風が、怪異の流れを押し留めるたび、空気が悲鳴を上げた。風は本来、自由なものだ。だが今は、壁として使われている。守るために、縛られている。空也はそれを、痛いほど理解していた。
「……多い……!」
声に、明確な焦りが混じる。風を起こすたびに、羽の根元が軋む。怪異たちは、空也とふうの存在を“認識した”ように向きを揃えた。悪意ではない。だが、救いを求めるには、あまりに数が多すぎた。
殺到する。空也は必死に名前を拾う。だが、声が重なり始める。一体分だったはずの感情が、二体分、三体分と混線し、胸の奥で絡み合う。聞き取れない。分離できない。呼吸が、乱れる。
「……っ、待て……!」
一体を還しても、次が来る。風で吹き飛ばしても、背後から押し寄せる。
足元が、不自然に沈んだ。最初は、錯覚だった。だが次の瞬間、空也ははっきりと理解する。床の輪郭が、崩れている。石は石であることを忘れ、柔らかく歪み、影が質量を持って盛り上がる。光が、重い。照明の光が、空気に沈み込み、触れられそうなほどの厚みを帯びる。天井が遠のく。同時に、地面が浮き上がる。上下の感覚が、反転しかける。
「……理が……」
ふうの声が、かすかに震える。
理が歪んでいる。怪異の量が、世界の許容量を超え始めていた。余白が、現実を侵食する。それは破壊ではなかった。世界が、必死に形を保とうとしている音だった。石は石であろうとし、光は光として留まろうとし、影は影の役割を思い出そうとしている。だが、余白が多すぎる。未整理の声が、現実の隙間に流れ込み、定義が、追いつかなくなっている。
空也は、理解してしまった。これはもう、“誰かが頑張れば解決する問題”ではない。世界そのものが、限界を迎えようとしている。空也は立ち止まり、膝をついた。胸の奥で、余白の種子が悲鳴を上げる。聞こえすぎる。理解しすぎている。世界が、壊れかけているのが、はっきり分かる。だが――どうにもならない。
空也の喉から、言葉が零れ落ちる。
「……無理だ……」
それは諦めではなかった。逃避でもなかった。計算の結果だった。
「……こんなの……人が、どうにかできる規模じゃない……」
ふうも、風を維持できず、羽を畳む。足が、わずかに震える。
怪異は、さらに増える。空間が、きしむ。
空也は、立ち上がろうとした。だが、足に力が入らない。救えなかった数が、理解しきれなかった声が、胸の奥で、静かに積み重なっている。――届かない。それは敗北ではなかった。ただ、限界だった。人が、人であるまま触れていい領域を、はっきりと越えてしまった感覚。
そのとき。空洞の天井に、一本の光が差した。黎明色。夜でも昼でもない、世界が切り替わる直前の色。光は、まっすぐ落ちてくるのではない。空気を押し分け、歪みを撫で、慎重に現実へ染み込んでくる。
光の中心に、少女が立っていた。輪郭は曖昧で、霧のように揺らぎ、それでも確かに“在る”。
彼女は、空也を見ない。ふうも見ない。ただ、世界を見ていた。
少女が、静かに刀を振り上げる。振り上げられた刀は、怪異に向けられていなかった。斬るための構えではない。それは、世界の歪みに対して“正しい向きを示す”所作だった。
刀が描いた軌跡に、音はない。だが、地下空洞の奥で、何かが――深く、長い息を吐いた。最初に止まったのは、崩壊だった。沈みかけていた床が、そこで留まる。浮き上がりかけた天井が、距離を思い出す。上下が、元の意味を取り戻す。
次に起きたのは、分離だった。絡み合っていた影と光が、ゆっくりと引き剥がされていく。影は影として床に落ち、光は光として、再び照らす側へ戻る。互いに混ざり合うことを、やめていく。
余白は、押し戻されるのではない。引き寄せられる。本来在るべき場所へ、静かに、当然のように還っていく。
最後に、世界が固まった。石は石として重さを取り戻し、空気は空気として流れを思い出し、音は、遅れずに届くようになる。
修復は、完了ではなかった。だが、これ以上壊れない“形”までは、確かに戻された。
怪異たちは、抵抗しない。声も上げない。ただ、自分たちが置かれていた場所を思い出したかのように、光の粒へとほどけていく。
百鬼夜行は、鎮められたのではない。世界が、自分の呼吸を取り戻しただけだった。
空也は、その場に膝をついたまま、動けなかった。救えなかった数の重さが、胸に沈んでいる。
還った光の数を、空也は数えなかった。数えられなかった。救えたものより、救えなかったもののほうが、はっきりと胸に残っている。
正解だった。選択は間違っていない。それでも、残るものは消えない。――それでも、進むしかない。その言葉が、まだ形にならないまま、胸の底に沈んでいた。
ふうも、言葉を失い、ただ光の余韻を見つめていた。
黎明の少女は、何も語らず、光の中へ溶けるように消えていく。
地下空洞には、静寂だけが残る。百鬼夜行は終わった。だがそれは――人が越えられる限界が、はっきりと刻まれた瞬間でもあった。
◇
静寂は、すぐには戻らなかった。地下空洞は沈黙しているのに、空気だけが遅れて揺れている。理が無理やり元の形に押し戻された痕が、見えない歪みとして残っていた。
空也は、まだ膝をついたままだった。立ち上がろうとすればできる。だが、身体がそれを選ばなかった。胸の奥が、重い。理解できなかった声、拾い切れなかった名前、救えなかった数。それらが感情ではなく、事実として沈殿している。
ふうも、しばらく動かなかった。羽は畳まれたまま、風は起きない。
「……」
言葉を探そうとして、やめる。今は、何を言っても足りないと分かっていた。
そのとき。乾いた靴音が、空洞の奥で響いた。一定の間隔。迷いのない歩幅。
ふうが、はっと顔を上げる。
「……まだ、いる」
空也も視線を向ける。照明の影の向こうから、ひとりの人影が現れる。
如月漣だった。無傷ではない。服は汚れ、肩で息をしている。だが、その表情に狼狽はなかった。彼は、崩れた空洞を一瞥し、淡々と呟く。
「……想定以上だな」
それは、被害を嘆く声ではない。計算が外れたことへの、純粋な評価だった。
「黎明の介入がここまで早いとは……」
空也は、ゆっくりと顔を上げる。怒りは湧かなかった。ただ、理解できない隔たりだけが、そこにあった。
「……これを……実験だと言うつもりか」
如月は答えない。代わりに、懐へと手を伸ばす。指先が触れたのは、最後の一枚。他の封札とは明らかに異なる、慎重に封じられた札。
ふうの背筋が、凍る。
「……その札……」
鹿哭沼で感じた、あの風。冷たく、速く、しかしどこか幼い感触。
如月は封札を掲げ、静かに言う。
「安心しろ。簡単に逃がしはしない」
術式が、開く。音はしない。風だけが、そこに現れる。形を持たないはずの風が、輪郭を得て、空間に留まる。矢のように鋭く、しかし即座に放たれない。
シップウ零号。
風が、鳴った。音ではない。空気そのものが、引き絞られる感触。次の瞬間、無数の風の矢が空間を裂いた。
「――っ!」
ふうが羽を大きく広げ、咄嗟に風をぶつける。刃と刃が打ち合うような衝撃が走り、地下空洞の空気が軋んだ。風の矢は速い。一直線ではなく、意思を持つように軌道を変え、ふうの死角を突いてくる。
「この……っ!」
ふうは歯を食いしばり、風を重ねる。押し返すのではない。受け流し、逸らし、空也から遠ざける。だが、追いつかない。一矢を弾いても、次が来る。三方向、四方向から同時に放たれ、ふうの羽が風圧に煽られる。足元が浮く。空中で体勢を崩し、壁際へ追い込まれる。
「……速すぎ……!」
それでも、殺意はない。致命を狙わず、ただ近づかせないためだけの、冷静な圧。鹿哭沼で感じた、あの風。幼く、鋭く、命令に従うだけの――それでいて、どこか迷いを含んだ気配。
ふうが叫ぶ。
「……これは……鹿哭沼で感じた風……!」
その声が空間に残る中で。
空也は、構えなかった。その代わり、ゆっくりと目を閉じる。世界の音が、遠のく。風の奥に、記憶が見える。最初は、ただの空白だった。名前も役割もなく、ただ余白の中で揺れる天狗の風。次に、呼ばれた瞬間。如月の声。番号。指示。付き従う日々。命令は厳密だったが、残酷ではなかった。むしろ――。そこには、安心があった。存在していい理由が、与えられていた。
空也は、静かに口を開く。
「……名前がなかったんじゃない」
風が、わずかに揺れる。
「呼ばれたことが、なかっただけだ」
空也は、一歩前に出る。
「だから……お前は“風の子”だ」
風が、ためらうように揺らぐ。
「好きなように、自由に舞え」
次の瞬間、風の矢が止まった。シップウ零号――否、風の子は、その場に留まり、攻撃をやめる。如月の目が、わずかに見開かれる。
「……余白との境界を……言葉ひとつで……?」
彼の声に、初めて苛立ちが混じる。
「冗談ではない。巡谷空也。お前の存在は危険だ」
如月が、懐の銃に手を伸ばす。
その瞬間。突風が、爆ぜた。ふうの風が、如月を壁へ叩きつける。衝撃音。身体が床に落ち、動かなくなる。
ふうが、はっと我に返る。
「……マズイ! やっちゃったか?」
空也は駆け寄り、如月の胸元に手を当てる。
「……息はしてる。気絶してるだけだ」
風の子が、倒れた如月の傍へと寄り添う。命令ではない。自分の意思で。
空也は、その光景を見つめながら、低く言った。
「……もう大丈夫だ」
風の子に向けて。
「この人が……お前の“帰り道”なんだろ?」
地下空洞に、再び静寂が落ちる。だがそれは、百鬼夜行の前とは違う静けさだった。世界は壊れかけ、そして戻った。その事実だけが、重く残っている。
ふうが、空也を見る。その瞳の奥に、微かな揺れがあった。まだ言葉にならない、不安の兆し。
忍び寄るものを、二人とも、まだ知らない。――だが、それが“名を奪う救済”であることを、世界だけが、すでに知っていた。
◇
静寂が、ようやく地下空洞に根を下ろし始めた頃だった。崩壊しかけた理は落ち着きを取り戻し、空気は重さを失い、世界は再び“世界として在る”形を取り戻している。空也は、深く息を吐いた。肺の奥に溜まっていた緊張が、ようやく抜けていく。
ふうも、羽をゆっくりと畳む。肩の力が抜け、風が自然な流れに戻る。
「……終わった、のかな」
その言葉は、確認というより願いに近かった。風の子が、空洞の上方を旋回し、迷うように、しかし自由に風を試している。空也はそれを見上げ、わずかに口元を緩めた。
そのとき。
空気が、音もなく切り替わった。ふうが、最初に気づく。背中をなぞるような、冷たい視線。
「……っ」
振り向いた瞬間、足元の空間が、閉じた。無数の黒い鎖が、地面から立ち上がり、ふうの身体を絡め取る。風をすり抜け、羽の根元にまで食い込む、硬質な理の拘束。
「な――」
声を上げる間もなかった。
地下空洞の奥、照明の影から、ひとりの老女が姿を現す。
御室鶴。整えられた姿勢。微笑みの奥に感情の起伏を感じさせない目。彼女は、事態を確認するように一瞥し、淡々と告げた。
「零式律鎖――余白を縛りなさい」
その一言で、鎖が締まる。ふうの身体が、宙に引き上げられ、羽が大きく震える。風が、出ない。拒もうとした風は、律鎖によって即座に打ち消される。
「……っ、空也……!」
空也が駆け出す。
「ふう――!」
だが、無数の鎖がそれを阻む。踏み込めない。鶴は空也を見ない。ふうだけを見据え、静かに続ける。
「天狗。理の第二層の住人――余白に生きる者」
鎖が、ふうの身体を“定義”するように締め上げる。風の輪郭が、削がれていく。
「ここから先は、私たちが管理するわ」
ふうの瞳が、揺れる。恐怖ではない。呼ばれなくなる予感だった。
空也は歯を食いしばる。
「……離せ……!」
鶴は、初めて空也に視線を向けた。
「巡谷空也。あなたはすでに、倫理の外に在る」
冷たい宣告。
「だが――彼女は違う」
再び、ふうへ視線を戻す。
「彼女は、まだ“救済可能”よ」
鎖が、ふうを縛る。鶴がふうの身体に封札を押し当てる。ふうの身体が光に包まれ札に溶けていく。羽が、必死に震え、風を呼ぼうとする。だが、風は応えない。
「空也……!」
声が、光に遮られ、遠ざかる。次の瞬間、ふうの姿は、封札の光の中へ消えた。残ったのは、切断された風の余韻だけ。
空也は、その場に立ち尽くす。百鬼夜行は終わった。世界は救われた。――だが、彼女は救われなかった。
地下空洞に、重い沈黙が落ちる。それは、嵐を告げる沈黙だった。
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