二歩進め! ~将棋漫画への道~

牟矢宮鱈人

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将棋漫画を描こうと思うのよ

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「いま将棋が流行ってるじゃない。だから私も将棋漫画を描こうと思うのよ」
「やめてください」

言下に否定とは。
なんて男だ。本当に私の担当編集者かしら。
クリエイターのやる気の芽を摘むとは許しがたい。

「だいたい菫子先生、将棋わかるんですか?」
「知ってるわよ。あのチェスみたいなゲームでしょ?」

そのジト目はやめなさい。

「……付け焼刃で始めるとえらいことになりますよ」
「これからちゃんと調べるわよ。たとえリスクがあろうとも、今このブームを逃す手はないわ!」
「確かに話題になってますけどね」
「そうね。史上最年長で初タイトル奪取だったものね」
「そっちか!いやいや、今は最年少でしょ?高校生にして、現役最強と目される棋士からタイトルを取った彼の方が話題ですよね?!」
「ああ、そんなこともあったわね。とにかく、いまここで将棋を題材にしないでどうするのですか!」
「そんなこと言って、以前に麻雀漫画を描いたときのこと忘れたんですか?」
「あ、あれは……平和ピンフが真ん中抜けの聴牌テンパイが駄目なんて、ひどいトラップだわ」

あの時は批判の手紙が来た。
こんなにファンレターをもらうのは初めてだ、と喜んだら全部批判。
知りもしないのに描くな、麻雀なめんな、等々。
あれはひどかった。

「それだけじゃありません。対面といめんからチーするし、キャラが立直リーチするシーンの6割はフリテンだし、麻雀ファンにケンカ売ってるとしか思えない出来でしたね」
「うぐ」
「野球漫画描けば、ピッチャーはプレート踏んでないし」
「あ、あれは昔のアニメを参考にしたのよ。回転したりジャンプしたりで投げてたわ!」
「よりにもよってあれを」
「だいたいなんで私だけ。弓道漫画のほぼ半分は左手の指を全部握りこんでいるじゃない!貴方の出版社ところの漫画にもあったわよ!あれが許されるなら、私の平和ピンフも許されるべきだわ!」
「はぁ……わかりました。一度描いてみてください。まともなものが出来たら、上に掛け合って見ます」

!!
GOサインが出た!

「任せなさい!頼んだわよ!」


絵コンテができた。今日はこれから担当の丹塔さんに見てもらうのだわ。
ネームは送ってあるが、内容が将棋だけに絵がないと判断できないものね。
いやあ苦労したわ。毎日朝も昼も将棋のことばかり考えていたわね。
今なら奨励会にだって入れるかも!
「奨励会なめんな」
あ、あら来てらしたのねホホ。
ま、まあとにかく見てもらおうじゃないの!

「菫子先生、このシーンなんですが」
「ああ、これは主人公が『至極の一手』を打ち込むシーンね。が検証した結果、これなら詰むわ!!」
「…………これ、二歩です」
「…………異世界将棋ってことにすればなんとかならないかしら?」
「異世界なめんな」
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