婚約破棄では……ない?

牟矢宮鱈人

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夜会で婚約破棄……ではない?

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「いま……『婚約破棄』、とおっしゃいましたか?」
「言ってない」



私はトライメラ・ミユーゲンと申します。ミユーゲン伯爵家の長女でございます。

今夜は婚約者と共にクロイフェルト侯爵家主催の夜会に参加しております。
婚約者の名はカルロ・クロイフェルト。
ご想像の通り侯爵閣下のご子息、次男です。

「婚約破棄では……ない?」
「ない」
「では、何と?」
「こんにゃく破棄だ」

カルロはどうやら私の後ろを見ているようです。

何があるかと思いきや、そこには数々のこんにゃく料理が。
実はこれ、婚約者である私の好物料理として、わざわざ用意してくださったものなのです。

「今日屋敷の周りを歩いていたら、ゴミ捨て場にこんにゃくの袋が捨ててあってだな。賞味期限はなんと明日になっていたのだ」
「カルロ様、賞味期限は元々かなり余裕を持って設定されていて、10%、商品によっては50%程度超過しても安全に食べられるのですよ!そもそも期限が明日なら問題などありません」
「ぷるぷるでつるつるしているのがなあ。食べづらいじゃないか。味もないし。あんなの人を驚かすくらいしか使い道がない」
「何をおっしゃるのです!?こんにゃくは女性にとっては低カロリーでダイエットに良いし、独り身の男性にもとても良いと聞いたことがあります!」

あ、あら?
なんだか会場がざわついているような。
あちらのご婦人は真っ赤な顔をしてますね。

「そ、そんなこと、誰から聞いたのだ?!」
「兄です」
あら、向こうに兄が。
なんだかわたわたと慌てているご様子。
なにかまずかったかしら。
あのときの兄との会話を思い出してみましょう。

えーと…



~回想・兄との会話~

「何がそんなに良いのですか?」
「ナニがいいんだよ」
「?」
「人肌ぐらいにしておくと、いいんだ。あれはイケる」

『いける』というのは確か、素晴らしいとかおいしいとかの俗語だったはず。

「そんなにいけるのですか?」
「ああ、イケるな。独り身の男ならこんにゃくでイケる」

そういえば、なんだか『ぐへへ』みたいな変な笑い方してましたね。

~回想おわり~


「このような会話をいたしました。兄と」

先ほどまで落ち着きのなかった兄も、今は落ち着いていますね。
でもなんだか顔色が真っ青だわ。どうしたのかしら。
あら、周りのご婦人方が、スススと離れていきますわね。
しかもなんとなく、白い目というか半眼というか。
でも一部少数の女性は顔を赤くして、熱い目で見られているみたい。



ともあれ
「だからこんにゃくは、おいしくて役に立つ、素晴らしい食材なのです」

「うるさい!こんなぶよぶよの気持ち悪いもの食えるか!まずいんだよ!!」


なんという暴言!
さすがにもう許せない。
我らが故郷サングン=マルシアル地方のソウルフードこんにゃくを、ここまで悪し様に言われて許せるわけがない。













私は婚約破棄を宣言した。
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