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もう一人の家族
しおりを挟む突如、寝室と思わしき部屋から、子供の叫ぶような泣き声が響き渡る。
愛美は驚き立ち上がって、泣き声のする方へと駆け寄った。
布団の上で2歳位の男の子が顔を真っ赤にして泣いていた。
泣き声混じりに、
「ママッー!ないない!!」
と言っている。
愛美、というより、愛美の身体は慣れた手つきで男の子を抱き上げてあやし出した。
男の子は少しぐずったが、再び眠りに着いたため、布団へとソッと戻してやった。
改めて周りを見回してみる。
2組の布団、箪笥の上に飾られた家族写真、そして仏壇。
幼女の為の幼稚園鞄もある。名札には、『まつもと
ゆき』と書いてある。
「まつもと ゆき。…貴女の名前」
開け放たれた襖に手をついて、部屋へは入らずにいる幼女となった母親へと話しかける。
「…そっ、じゃあ、そこのレディースバッグを漁ればもっと色々わかるんじゃないの?ホント、アンタって夢の中でも鈍臭いわね」
悪態を付き、夢だという美千代。
愛美には夢なんかじゃないと分かっている。
転生屋に出会ってなけなしのお金で転生ガチャやってトラックに轢かれて、記憶があるまま見知らぬオバさんとなって、そこまでなら夢だろうけど、さっき痣が痛むと確認した。
だから、きっと夢じゃない。
なにより、夢ならきっと母親は登場させないし、愛美は優しい両親に愛される美しいお姫様なるはずだ。絶対。
現実逃避をしながらも、漁ったボロいレディースバッグからは、母子手帳と財布、財布の中には保険証。
保険証には、オバさんだと思っていた女性の名前である『松本 幸恵(まつもと さちえ)』生年月日が書いてある。
「えっと…今年でまだ、23歳!?まだ全然オバさんじゃないじゃんっ!えっ?嘘でしょ!だってさっき鏡で見たら、どう見ても40代くらいには見えたのに…」
二冊ある母子手帳の内、『松本 有希』じゃない方を見れば、『松本 紡 (まつもと つむぐ)』と書いてあった。
幸恵である愛美は布団でスヨスヨと眠る男の子を見て、
「…君はつむぐくんかぁ」
呟きを落とした。
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