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15-2.
しおりを挟む突然、碧さんが怪訝な顔をした。
まじまじと俺の顔を覗き込む。
「ええっと、本当に綾介くん、だよね? なんにも変わってないね。ホントに全然。俺と同い年じゃなかった? 30代? ホントに?」
「そ、それは……」
碧さんだって若く見えるとはいえ34歳。いくらなんでも20歳には見えない。
ところが俺は出会ったとき20歳、今は21歳だ。目に見えては何も変わっていない。おかしいに決まっている。
「弟? にしてはそっくりすぎるし。時間でもループしてる? って、ブルームーンじゃあるまいし」
「本人、ではあるんですが……」
大混乱してる碧さんを前に、どう言い繕うか必死に頭を巡らす。
本当のことを言っても信じてもらえるわけないし……
いや、信じてもらえないとは限らない。
碧さんはアニメや漫画を熟知してる。そういう人ならもしかしたら、この有り得ない現象を信じてくれるかもしれない。
「信じてもらえるか、わからないんですが」
碧さんと公園のベンチまで移動して、順番に説明した。
去年突然2010年にタイムスリップし、それは恐らくブルームーンの力ではないかということ。あの後またタイムスリップして帰ってきたので、連絡することができなかったということ。
「と、いうことなんですが」
「…………」
碧さんはじっと黙って俯いてしまった。
やっぱり無理があったか。こんな与太話信じてくれなんて、アニメじゃあるまいし。
「信じるよ」
「……っ、え!? 信じてくれるんですか!? こんなアニメみたいな話」
「俺は昔から綾介くんの言うことは信じてたじゃん」
そう言えばあの日も、俺の言うことを「信じる」と言ってくれた。
「それに、さ」
持ったままだった俺のスマホを碧さんが指差す。
「そこに入れてるステッカー、当時非売品だったやつ。しかも俺の昔のサイン入り。綾介くん以外持ってないからね」
「碧さん……」
「ブルームーンが、俺たちを繋いでくれたんだね」
青くない月を見上げて、碧さんが呟いた。
俺たちに奇跡を起こしてくれたブルームーンが、素知らぬ顔で輝いている。
あーあ、と碧さんがベンチから投げ出した足を組んだ。
「ずるいよ。俺ばっか年食っちゃって、綾介くんだけそんな若いなんてさ」
「碧さんだって、十分若いじゃないですか」
「声だけね。それだって、もう可愛い声は無理があるし」
「そんなことないです! 碧さんは見た目だって若いしキレイだし、声だって変わらず可愛くてかっこよくて素敵です!」
碧さんが目を丸くした。
しまった、ついムキになってしまった。
「すみません、つい……。でも碧さんが当時よりは若くなかったとしても、大人の魅力というのが増していて俺はすごく」
「相変わらず、俺を推してくれてるの?」
「もちろんです」
「ありがとう」
そう微笑んで、俺の頭をそっと撫でてくれた。あの日のように。
「もしまた会えたら伝えたいことあったのに、もう言えないや」
「なんですか? 教えてください」
「言えない。まだハタチそこそこのキミに、今の俺じゃ言えないよ。一回りは違うだろうからね」
碧さんの横顔が黒髪に隠れる。
見上げた月は輝いているのに、手を伸ばしても届くことはない。遠くにいるからこそ、輝いて見えるのだろうか。
「確かに今の俺は碧さんよりずっと子供で、立場も全然違う。そんなことは、碧さんを推したときからわかってました。でもあの日出会ってしまったから、今はあなたが遠くにいることが……すごく、寂しいです」
あんな風に出会っていなければ、俺はただのファンで碧さんは人気声優。近づこうとすら、近づきたいと夢にも思わなかった。遠くで活躍する碧さんの輝きだけで十分だった。
それなのに今はもう、こんなにも求めてしまっている。
手を伸ばして触れたい。傍にいたいと願ってしまう。
いつの間にか顔を上げた碧さんが、俺をじっと見つめている。
「そんなこと言われたら、おじさん本気にしちゃうよ?」
「碧さんが思わせぶりなこと言うから、ガキが本気になっちゃったんですよ」
ふっと碧さんが笑って前髪を掻き上げた。
「じゃあ、俺が責任取らないとね」
頬に碧さんの手が触れた。あの日と違って、あたたかい。
爆発しそうな心臓を抑えて、目を閉じる。そっと唇に、柔らかい唇が触れた。
「僕はずっと、君を待っていたよ」
目を開けると、ブルームーンが優しく碧さんを照らしていた。
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