異世界で吟遊詩人のパトロンになりました

水都(みなと)

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「ノア、この曲知らないか?」

 うろ覚えのメロディーで鼻歌を歌ってみる。
 それを聞いたノアが、すぐに「ああ」と頷いた。

「都の方で流行っている歌ですね」
「できるか?」
「正確にはできませんが、耳で覚えた範囲なら」

 少しの間、ノアの桜色の唇が小さく動く。それに合わせて、音を紡ぎ出すように宙で指が踊った。
 一呼吸置いてから、ノアが息を吸い込む。

 先程までよりアップテンポで、琴の音色もまるで跳ね回っているようだ。
 遊び盛りの元気な少年のような声が響く。

 ノアのイメージとはガラッと違うが、踊り出したくなるような楽しい曲だ。
 元の曲をよく知らないが、おぼつかないところはないように聞こえる。耳コピができるのか。

 まだ目の前まで聞きに来る客はいない。
 それでも、遠巻きに聞いている若い女性たちが何人かいた。先程までの訝し気な雰囲気と違い、笑い合いながらこちらを見ている。

 ノアが伸びやかに歌い上げると、一拍置いてから遠慮がちに拍手がパラパラと聞こえた。
 笑顔で拍手をする3人の女性たちは、はっきりとノアを見ている。そちらに向かってノアが軽く微笑むと、黄色い歓声が短く上がった。

「ノア、あの人たちにちょっと声掛けてきてもらえないか?」
「おじさんの呼び込みなら得意なんですけどね」
「今みたいに軽く微笑んでくれれば大丈夫だから」

 あまり気乗りしない様子だったが、ノアは竪琴を置いて女性たちに近づいた。キャッと声を上げて、女性たちが顔を見合わせる。

 二、三言喋ると、戻ってきたノアの後ろに女性たちが続いてきた。
 かっこいい~! 素敵~! と、はしゃいでいるようだ。

 どう考えてもノアはイケメンだ。いや、美少年と言った方が似合うだろうか。俺を含め、男も魅了される美少年に女性が靡かないわけがない。

 俺は気配を消して、少しその場を離れた。
 竪琴を持って腰かけたノアが、とびきりキレイなイケボで女性たちを見上げる。

「お嬢様方、何かリクエストはございますか?」
「ええと、あなたの好きな曲を……」
「承知いたしました」

 女神のような笑みを浮かべ(男だが)、ノアは酒場でいつも弾いていた曲を奏でた。
 これが1番得意なんだろう。

 歌詞は物悲しいが、幻想的なメロディーはノアの歌声にピッタリだ。
 女性たちもポーっとして聞き入っている。

 得意な曲だからか目の前に客がいるせいか、指先が滑らかだ。

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