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しおりを挟む「拒まないんですね」
「誰が拒むかよ」
「いいのですか? 本気になってしまいますよ」
「なってなかったら、わざわざ一文無しの男のとこに来ないだろ」
紫の瞳を瞬かせると、その輝きが柔らかくなる。
「お見通しですね」
「そっちこそいいのかよ。もう金は渡せないぞ」
「お金よりも大切なもの、いただきますから」
彫刻のような美しい顔立ちにはめ込まれた紫の瞳。そこに自分が映っていることに胸が熱くなる。
俺の方から、その艶やかな唇に唇を重ねた。ノアは小さく身体を反応させたが、すぐにその瞳を閉じる。
遠慮がちに、包み込むような唇の柔らかさが心地良い。
そっと離れていくぬくもりを逃がしたくなくて、強く抱き寄せた。ノアの心臓が、どくんと跳ねる。
「言えよ」
「っ、何をです?」
「好きだって」
「これ以上もないほど伝えたでしょう。野暮ですよ」
「言葉で聞きたいんだよ」
ノアの銀の髪を撫でる。さらりとした髪は、すぐに俺の指を抜け落ちてしまう。いつまでも触れていたいのに。
「……好きですよ、フレディ」
少し震えているその声に、よくできたと頭を撫でてやる。
「やめてください。なんだか恥ずかしい」
「今更お前がこんなことで恥ずかしがるのか?」
「抱きしめられたことは何度もありますが……好きな相手にされるのは、あなたが初めてですから」
それを聞き返すほど、俺も野暮な男じゃない。もう一度抱きしめると、ノアの体温が全身に伝わってくる。
推しが……ノアが自分の腕の中にいるなんて夢みたいだ。でも、夢じゃない。
と、右胸に何か硬いものが当たった。
なんだ? と身体を離し、ノアの左胸を見つめる。
俺の視線に気づいたノアが「ああ」と、思い出したかのように懐を探った。
取り出したのは……
「ガラスペン!?」
「あはは、バレちゃいましたね。あなたが放り投げるのが見えて、急いで受け止めたんです。大丈夫、割れていませんよ」
「そういうことは早く言え!」
安堵と脱力感が一気に襲ってくる。こんなドッキリは心臓に悪い。
「すみません。あなたの罪悪感につけこんで、連れ去ろうと思っていたもので」
「なんでそんなこと」
「そうでもしないと、ついて来てはくれないと……」
だからあんな芝居がかったことをしていたのか。
「馬鹿だな、ついてくに決まってるだろ」
俺がノアを拒否すると思っていたなんて。肝が据わってそうに見えて、怖がりなところもあるんだな。
そこまでして俺を連れて行きたかったことは心底嬉しい。が、唯一の後悔は……
「歌詞カード燃やさなきゃ良かったあああ」
ガラスペンは戻ってきたが、灰になった紙は戻ってこない。決別のために燃やしたはずが、無駄な後悔を作っただけだ。
ノアも暖炉の灰に気づいたらしい。
「いいではないですか。いつでも僕の傍で、何度でも書けるのですから」
「……まあ、それもそうだな」
俺とノアの視線が交わった。こうしているだけで、どの世界の誰よりも幸せだと思える。
「そろそろ出ましょう。兄上様たちに見つかったら――」
瞬間、ガチャリと音が聞こえた。
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