犬獣人は愛されたいのに

水都(みなと)

文字の大きさ
17 / 30

9-1.トビー

しおりを挟む

 あれから数日。ルーカスは宣言通り、シェルを外に出そうとはしなかった。

 リビングの小さな出窓から仕事に向かうルーカスを見送り、一日中そこで外を眺めている。

 見かねたゼノが様子を見に来てくれることもあった。
 中へは誰も入れるなと厳命されているため、玄関先で話をする。

「なんとか散歩くらい許可するよう、僕からも言っておくよ。と言っても、あんまり僕の言うことは聞いてくれないんだけどね」
「ご主人様は、僕が逃げ出すと思っているのでしょうか」

 垂れた耳がますます垂れ、しゅんとしたシェルを励ますようにゼノが言う。
 
「それほどキミを手放したくないと思ってるんだよ。まあ、それならもっと大事にすればいいのにね。力で押さえつけることしか知らないんだ、あいつは」

 それはルーカスの生い立ちによるものなのかもしれないが、ゼノはそれ以上語らなかった。

「シェルは、ルーカスが嫌い?」
「そんな、ことは……」

 助けられたことには感謝している。ジルドの商人のような悪い人間ではない。
 そう思ってはいるが、好きという感情にはなれないでいた。

 無理もないことだと思ったのか、ゼノは「ごめん」と肩を竦めた。
 お詫びにとおやつのビスケットを置いて、ゼノはまた診療へ戻って行った。


 昼食の時間になったが食欲もなく、ダイニングの椅子で骨型の小さなビスケットをぽりぽりと齧る。
 
 ふと顔を向ければ、視線の端にリビングのソファが見える。
 事が終わった後、ソファの後始末をしたのはシェルだった。革のソファは汚れが残ることもなかったが、あれ以降座る気にはなれない。

 ケインはルーカスが仕舞ったのか、見当たらないことだけが幸いだった。
 それでも甦る恐怖と痛み、ルーカスの殺気立った双眸をなんとか頭から追い払う。
 
 食べかけのビスケットの袋を丸め、クリップで留めた。
 ここに居ると、何度もあのことを思い出してしまう。

 与えられた自室に戻ろうとすると、コンコンとどこからか音が聞こえる。
 ドアではない、硝子を叩く音。垂れ耳を精一杯そばだてると、リビングの出窓を誰かがノックしていた。

 覗いた顔は――

「トビーさん!?」

 緑の瞳を細めて笑うトビーに、慌てて出窓を開けた。

「どうしてここに?」
「すみません。どうしても、もう1度あなたに会いたくて来てしまいました。ルーカスさんのお屋敷は、この辺じゃ有名だから」
 
 シェルは尻尾を振って出窓に乗り出した。

「またあの場所で会えるかと思っていたのですが、最近散歩には出られてないんですか?」
「最近はその、ご主人様に連れて行ってもらえてなくて……」
「それは可哀想に。犬の獣人は散歩が好きだろうに」

 なんとも返答に困っていると、トビーはシェルの首輪を指差した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

処理中です...