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9-1.トビー
しおりを挟むあれから数日。ルーカスは宣言通り、シェルを外に出そうとはしなかった。
リビングの小さな出窓から仕事に向かうルーカスを見送り、一日中そこで外を眺めている。
見かねたゼノが様子を見に来てくれることもあった。
中へは誰も入れるなと厳命されているため、玄関先で話をする。
「なんとか散歩くらい許可するよう、僕からも言っておくよ。と言っても、あんまり僕の言うことは聞いてくれないんだけどね」
「ご主人様は、僕が逃げ出すと思っているのでしょうか」
垂れた耳がますます垂れ、しゅんとしたシェルを励ますようにゼノが言う。
「それほどキミを手放したくないと思ってるんだよ。まあ、それならもっと大事にすればいいのにね。力で押さえつけることしか知らないんだ、あいつは」
それはルーカスの生い立ちによるものなのかもしれないが、ゼノはそれ以上語らなかった。
「シェルは、ルーカスが嫌い?」
「そんな、ことは……」
助けられたことには感謝している。ジルドの商人のような悪い人間ではない。
そう思ってはいるが、好きという感情にはなれないでいた。
無理もないことだと思ったのか、ゼノは「ごめん」と肩を竦めた。
お詫びにとおやつのビスケットを置いて、ゼノはまた診療へ戻って行った。
昼食の時間になったが食欲もなく、ダイニングの椅子で骨型の小さなビスケットをぽりぽりと齧る。
ふと顔を向ければ、視線の端にリビングのソファが見える。
事が終わった後、ソファの後始末をしたのはシェルだった。革のソファは汚れが残ることもなかったが、あれ以降座る気にはなれない。
ケインはルーカスが仕舞ったのか、見当たらないことだけが幸いだった。
それでも甦る恐怖と痛み、ルーカスの殺気立った双眸をなんとか頭から追い払う。
食べかけのビスケットの袋を丸め、クリップで留めた。
ここに居ると、何度もあのことを思い出してしまう。
与えられた自室に戻ろうとすると、コンコンとどこからか音が聞こえる。
ドアではない、硝子を叩く音。垂れ耳を精一杯そばだてると、リビングの出窓を誰かがノックしていた。
覗いた顔は――
「トビーさん!?」
緑の瞳を細めて笑うトビーに、慌てて出窓を開けた。
「どうしてここに?」
「すみません。どうしても、もう1度あなたに会いたくて来てしまいました。ルーカスさんのお屋敷は、この辺じゃ有名だから」
シェルは尻尾を振って出窓に乗り出した。
「またあの場所で会えるかと思っていたのですが、最近散歩には出られてないんですか?」
「最近はその、ご主人様に連れて行ってもらえてなくて……」
「それは可哀想に。犬の獣人は散歩が好きだろうに」
なんとも返答に困っていると、トビーはシェルの首輪を指差した。
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