犬獣人は愛されたいのに

水都(みなと)

文字の大きさ
23 / 30

12-1.ルーカス

しおりを挟む
 刹那、爆発音と共に扉が吹き飛んだ。

 その先に、そびえ立つようなシルエットが見える。反射的に振り返ったトビーが、挑発的な笑みを浮かべた。

「なんだ、意外と早かったね。もっとあんたのペットと遊んでやろうと思ってたのに」
「こんだけ魔力ダダ漏れさせて、隠れる気もなかったんだろ。俺を誘き寄せるために、そいつまで拉致してご苦労なことだ」

 黒いマントを羽織ったルーカスの、刺すような視線が向けられる。僅かに眉間に皺が寄っていた。

「う……ぐっ」

 トビーに鎖を引き上げられ、シェルの首が絞まる。トビーが勝ち誇ったように顎を上げた。

「こいつのこと、随分可愛がってるみたいだね。でも、後ろを僕がいじってやったらヒイヒイ喜んでたよ。あんたに満足できなかったんじゃないの、ルーカス」

 違うと頭を振りたかったが、首が絞められ続けてそれも叶わない。息が吸えず苦しい、目の前が白くなってくる。

「もちろん、大事なペットなんだから返してあげるよ。だけどその前に、僕の呪詛を邪魔したことを謝ってもらうよ。それから、あいつらに改めてあんたから呪詛をーーッ」

 瞬間、トビーの握っていた鎖が弾け飛んだ。シェルは床に落とされ、なんとか意識が戻ってくる。
 叫び声に目を向けると、トビーが片手を押さえていた。血がしたたり落ちている。

「わあああっ! 血が! 血があっ!」

 もんどり打って倒れたトビーを後目に、ルーカスが近づいてくる。
 ルーカスの身体には、マントとは違う黒い靄のようなものが纏わりついていた。シェルにも本能的にわかるほど、それは恐ろしい魔力だった。
 
 言いつけを守らず、安っぽい嘘に騙されてまんまと捕まってしまったことを怒っているに違いない。仕置きを受けるどころか、捨てられても文句は言えない。合わせる顔がなかった。

 前を隠すように膝を合わせていたシェルの下腹部に、ルーカスが着衣と下着を投げた。
 シェルの傍に、ルーカスが膝を折る。

「大丈夫か?」

 怒りに燃えていると思っていたルーカスの瞳が揺れている。首に巻き付いた鎖にルーカスが手を掛けた。
 首元に触れる指先から体温とは違う何かを感じた。これが魔力なのかもしれない。

 その手で、首にまとわりついていた鎖はいとも簡単に引きちぎられた。

「酷いな」

 シェルの切り裂かれた傷口に、順に手を翳していく。暖かくピリピリとしたナニカが傷口を包み込んだ。
 途端に滲んでいた血が止まり、脈打っていた痛みが消えていく。

「治癒魔法は専門じゃない。後でゼノに診せてやるから」
「んんっ」

 ありがとうございます、と礼を言いたかったが言葉にならない。
 気づいたルーカスが、シェルの口元にも手を翳した。縫いつけられていたようだった唇が解かれる。

「ご主人様!」
「シェル」

 安堵したのか、ルーカスは一瞬だけ泣きそうに顔を歪めた。
 しかしその後ろで、膝をついたトビーがこちらに掌を向けている。

「ご主人様! 危な――」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

処理中です...