26 / 30
13-2
しおりを挟むルーカスが触れるようにシェルの唇に唇を重ねた。柔らかいその感触に、シェルは目を見開く。
「あ……」
「お前は俺と暮らすのは嫌だろうが、俺はお前を手放したくない。もう二度と」
ルーカスに似つかわしくない、不安げなその瞳に困惑する。
「ご主人様、どうして僕が逃げると思っているのですか?」
決まりが悪そうにルーカスが目を逸らした。そして、躊躇いつつも口を開く。
「俺はガキの頃から魔力が強くて、家族も腫れ物を触るようだった。親ですらそうだったから、周りからはバケモノ扱いだ。ただ1人だけ、まともに俺と接してくれたのが婆さんだった。バケモノみたいな孫を恐がりもせず、よく相手してくれたよ。昔から人間にも獣人にも優しい人だった。その婆さんが飼ってたんだ。白銀の毛並みをした、垂れ耳の犬の獣人を」
ルーカスの漆黒の瞳に、シェルの白銀が映り込む。
「そのお婆ちゃんが飼ってたの……!」
「お前だ、シェル」
薄れかけていた記憶が鮮明に思い起こされる。
老婦と暮らしていた家に、度々来ていた少年がいた。人懐こいシェルは少年に近づこうとしたが、いつも避けられてしまった。何度も声を掛けようとしたが拒絶され、嫌われているのだと悲しく思った。
それでも老婦が大切にしている少年と仲良くしたかった記憶が、奥底から蘇る。
「あの男の子が……ご主人様?」
「やっと思い出したか」
ルーカスが苦笑する。朧気に思い出した少年の面影が、目の前のルーカスと重なった。
「あの頃から、俺はお前のことを怖がらせてたな」
「怖がってなんていません。一緒に遊びたかったけどでも、嫌われているのかと思って……」
「俺が?」
「ずっと避けられていたから」
面食らった顔をして、ルーカスはガシガシと頭を掻きむしった。
「俺を怖がらない奴が婆さん以外にいるとは思わなかったんだ。だから、無闇に怖がらせないように近づかなかった」
「ご主人様、優しいのですね」
「そういうわけじゃない」
顔を背けたルーカスがなんだか可愛らしく見えて、シェルが小さく笑う。釣られたようにルーカスも口元を緩ませた。
「それで、あの……お婆ちゃんは……」
「……死んだよ、急に倒れて」
ああ、とシェルが俯く。そうではないかと思っていた。自分に何も言わず、急に何日も居なくなるなどそれまでなかったのだから。
「お前をどうするかって親戚中で散々揉めてな。最後は俺が面倒を見ると押し切って婆さんの家に行ったら、もうお前はいなかった。俺が来る前に逃げ出したんだと……」
「僕、お婆ちゃんを捜しに行ったんです。もしかしたら何かあって、帰れなくなってるんじゃないかと思って」
三日三晩捜しまわった。そして勝手に家を出て捕らえられたのは今も昔も同じだ。そしてどちらも、ルーカスに心配を掛けていた。
「ごめんなさい……」
垂れ耳が更に垂れてしまうと、包み込むようにルーカスに抱き寄せられる。
「無事で良かった」
耳の柔らかい部分にキスを落とされる。くすぐったくて、ルーカスの胸元にじゃれつくように顔を擦り寄せた。
「シェル……抱いていいか?」
「え……」
「優しくするから」
熱い吐息が耳元に流れた。まだ男のモノを受け入れるのは怖い。それでもルーカスのためなら、身体を委ねられる。
思い切り、抱きしめてほしい。
「……はい」
10
あなたにおすすめの小説
恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています
水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」
王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。
一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……?
勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる