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しおりを挟む「ほら、着いたぞー」
タクシーでヨルをおんぼろシェアハウスに連れて行った。
玄関の鍵は開いていて、ヨルの部屋の引き戸も2,3度蹴ったら開いた。大丈夫か、ここ。まあ盗むモノもないだろうしな。
ヨルを煎餅布団の上に転がすと、気持ちよさそうに尻尾をくねらせている。
「なんで後輩の世話してやんなきゃいけねえんだよ」
水でも飲ませてやろうと思ってペットボトルを買ったが、起きる気配がない。
布団の上で丸まって、ゴロゴロと喉を鳴らしている。ハイエナってか、猫だろ。
喉の下をくすぐってやる。じゃれているのか、手にすり寄ってきた。
「ははっ、かわいいじゃん」
こんな風にしてると、獣人もただのペットだ。
耳は嫌だって言ってたけど、髪はどうなんだろうな。触ってもいいのか?
そっと触れると、灰褐色の髪が案外柔らかくて、ちゃんとブラシでもかければもっと……
「っ!」
パチッと、ヨルの目が開いた。
「お、大丈夫かよ。お前酒弱いのな~。水飲むか?」
ペットボトルを差し出したのに、ヨルは微動だにせず俺を見上げている。
「寝ぼけてんのか? おーい」
「陽向さん……!」
「うわっ!?」
ガバッとヨルに抱きつかれた。そのまま布団に引きずり込まれる。
「ちょっ、おい! やめろよ! 放せっ」
「陽向さん~~~~」
酔っ払ってるのか寝ぼけてるのか、ヨルはぎゅうぎゅうと俺を抱きしめて放さない。
「ヨル! お前、なにして……」
「陽向さん」
熱っぽいヨルの瞳に見つめられた。灰褐色の潤んだ瞳に、俺が映っている。
「好きです、陽向さん」
ヨルの顔が近づいてくる。
「お前、いい加減に……んっ」
文句を言いかけた口を、ヨルの唇に塞がれた。
「ん……んぅ」
カプカプと甘噛みするようにくちづけられ、犬歯だか牙だかが当たる。
食われる……!
本能的にそう感じて、必死でもがいてヨルの頭をぶっ叩いた。小さく呻いたヨルは、ようやく俺から唇を離す。
「何すんだてめえ!」
「陽向さん……」
また俺を抱きしめ、首元に顔を埋めてきた。
いい加減にしてくれ! 彼女とでも間違ってんのか!? いやでも、俺の名前呼んでるし……
「おい、ヨル! 放せよ! おい」
スースーと、ヨルの寝息が首元をくすぐってきた。
「そんでまた寝るのかよ……」
なんだったんだよ。酔うとキス魔になるタイプか? 勘弁してくれ。
自分の唇に触れると、まだうっすらと濡れていた。ヨルの唇も、なんだか艶めかしく見えてムカつく。
酔っ払ったからって、男にこんなことするなよ。ばかじゃねえの。
ヨルを引き剥がして帰ろうとしたが、どうやっても腕の中から抜け出せない。
俺を抱き枕だとでも思っているのか、抱きしめたまま気持ちよさそうな顔して眠っている。
「これ、朝までコースか……?」
すやすや眠るヨルの腕の中で、俺は一睡もできなかった。
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