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第一章
第3話『お父さん』
しおりを挟むお父さんは朝まで私の傍についていてくれた。
看病したことはあっても、看病されたことはほとんど記憶にない。入院したとき以外は。
初めての安心感に、朝までぐっすり眠れた。
次の日にはもう熱は引いてたけど、お父さんに「また熱が上がると大変だから」と数日間ベッドから出してもらえなかった。
お父さんはさすがにもう私に張り付いているわけにはいかず、引きずられるようにして仕事に行った。
そういえば、お父さんって何の仕事をしてるんだろう。
夢で見たアリシアの記憶の中にも出てこなかった。教えてもらっていないのかもしれない。
「はあ~、身体なまっちゃうね」
ベッドから降りて、大きく伸びをする。
なまっちゃうどころか、この身体で動くのは初めてだ。目線が低い。
部屋の鏡を見ると、ふわふわした髪を肩の下まで垂らした幼女が映っていた。栗色の髪と緑色の目、お父さんと同じだ。
純日本人であった前世の私とは似ても似つかなくて、まるでお人形さんでも眺めているみたい。
これが私……
慣れるまでに時間がかかりそうだ。
私が寝ていたベッドは、天蓋付きのキングサイズ。
今の私なら5人並んでもゆっくり寝られそうだ。
天井には煌びやかなシャンデリア、床はふかふかの絨毯、部屋の隅には大量のぬいぐるみやおもちゃ。
お父さんがいない間、とっかえひっかえやってきたメイドさんたちは一体何人いるんだろう。
名前を把握するだけでもひと苦労だ。
幼い子がこんな環境を与えられているなんて、お父さんはよっぽどの大富豪らしい。
雰囲気からして、転生モノのお約束通りきっとここは中世ヨーロッパ風の異世界。
そんな時代に大きな鏡があるというだけでも、裕福な証だ。
もしかして私、貴族の娘?
悪役令嬢だったらどうしよう。私、BLゲームは散々やったけど乙女ゲームは全然わからないんだよね。
「アリシア!」
勢いよく扉が開いて、現れたのはお父さん。
短いくせっ毛の茶の髪に、優しそうな目元。歳は……30歳くらいかな。
驚いたことに、お父さんはオレウケのアルヴィンそっくりだった。
ぼんやり見上げていると、お父さんは一直線に私に向かってきた。
そして、抱きしめられる。
「アリシア、もう起きてて大丈夫なのか? 熱はないか? 痛いところは? 気持ち悪かったりしないか?」
「だ、大丈夫……」
ぎゅうーっと抱きしめられて、身体が硬直する。
えっと、こういうときって頭はどこに置いとけばいいの? 手の位置は?
お父さんが身体を離して、少し首を傾げた。
でもすぐに笑って
「そうか、よかった。きっとお母さんが守ってくれたんだな」
アリシアの記憶の中にもほとんど残っていないお母さん。
娘まで死んでしまったらと不安だったんだろう。
「お父さんはまた仕事に戻らなきゃならないが、夕飯までには戻るからな。久しぶりに一緒に夕飯が食べられるぞ。何が食べたい? コックに頼んでおくから」
お抱えのコックまでいるのか。すごい。
「なんでもいいよ」
「遠慮しなくていい。好きなものがあるだろう。ほら……」
と言ったっきり、お父さんは黙り込んでしまった。
知らないんだろうな、アリシアの好きな食べ物。
そういう私も知らない。夢の中の記憶でもそういうシーンは出てこなかった。
前世の私はこういうとき、大抵「なんでもいい」と答えていた。別に遠慮しているわけじゃなくて、本当になんでもいいのだけど。
「ああ、そうだ。じゃあデザートに桃のシャーベットをつけよう。甘くておいしいとメイドたちが言っていたから、アリシアも好きなんじゃないか」
「うん、ありがとう。お、おと……」
口ごもってしまった私に、お父さんが怪訝な顔をした。マズい。
「あ、ありがとう! お夕食楽しみにしてるね!」
慌ててにっこり笑うと、お父さんも笑った。
再び仕事に戻るお父さんに、バイバイとできる限り可愛く手を振る。
はあ、焦った……。
考えてみれば、前世のときから『お父さん』と呼びかけたことがない。
なんだか口に出すのが気恥ずかしい。
それに、前世では親にあんな風に抱きしめられたことがなかった。
アリシアもお父さんと一緒にいる時間はほとんどなく、抱きしめられた記憶もない。
結理としてもアリシアとしても、お父さんとどう振舞えばいいのかわからない。
メイドさんたちに聞くわけにもいかないし、どうしたものか……
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