7 / 111
第一章
第7話 サディアス
しおりを挟む「はあ……ここなら大丈夫だろう」
お父さんに連れられてきたのは、広い原っぱだった。
「ごめんな、アリシア。もっと街でゆっくりしようと思ったんだが」
「ううん、大丈夫。ねえ、勇者様って……」
「ああ、昔の話だよ。それより」
お父さんが差し出したのは、さっき選んだペンダント。
「なんとかこれは死守してきたぞ」
お父さんは私の後ろにまわって、ペンダントをつけてくれ……ようとしたけど
「あ、あれ? ちょっと待ってな」
留め具に苦戦してるみたいだ。
思わず小さく笑うと、頭の後ろでお父さんも笑った。
「よし、できた。こっちを向いて」
振り返って胸元のペンダントをお父さんに見せる。
「やっぱり似合うな。これを選ぶなんて、アリシアにはセンスがある」
親ばかだなぁ。
でももちろん、言われて悪い気はしないわけで、自然に頬が緩む。
「ありがとう」
なんだか恥ずかしくて声が小さくなってしまった。
お父さんが微笑む。
「そうだ、アリシアを連れて行きたいところがあるんだよ」
「おいで」と言われ、ついて行くと原っぱの一角に小屋が見えた。
よく見れば、小屋の外には木でできた柵が遠くまで続いている。
その柵の中に何頭かの馬が見えた。
「ここ、牧場なの?」
「城の厩舎なんだ。訓練に行ってる馬たちは出払ってるから、今いるのは引退した馬と仔馬たちだけだけど……」
「アル!」
振り返ると、馬を引いた男の人が立っていた。
歳はお父さんと同じくらいで、柔らかそうな灰色の髪に紫の目。背はお父さんよりちょっと低いけど、なかなかイケメンだ。
いやそれよりも驚いたのは、この人、オレウケのサーシェスにそっくり!
「急に休んだと思ったら、こんなとこで散歩かよ。体調でも崩したのかと思って心配したってのに」
「悪い、サディ。今日はアリシアと出掛ける約束をしてて」
サディ、と呼ばれた人が私を見下ろす。
「キミがアリシアちゃんか! リリアさんに似てかわいいじゃん。そりゃアルが溺愛するはずだ」
通る声でそう言われ、反射的に後退りしてしまった。
「おい、この子は人見知りなんだよ。あんまり怖がらせないでやってくれ」
中身が20歳なのに人見知りとか申し訳ない。
でもサディアスさんは気にした様子もなく、私の前に膝をついた。
「驚かせてごめんね。僕はサディアス・アガスターシェ。お父さんの友達だよ」
「仕事の同僚だ」
「なにそれ、他人行儀な言い方。ずっと旅した仲じゃんか」
旅ってことは、もしかしてサディアスさんも……
「サディアスさんも、魔王を倒した勇者様なの?」
というと、サディアスさんとお父さんが顔を見合わせた。
サディアスさんが吹き出す。
「勇者様はアルだけだよ。僕は勇者様率いる愉快な仲間たちの1人」
「やめてくれ。全員で倒したんだから全員が勇者ってことでいいだろ。俺だけに押し付けるな」
「だって勇者なんていろいろ面倒だろ。リーダーだったんだから、アルが勇者様でいいんだよ」
「それもお前が勝手に決めたんだろうが」
お父さんがリーダー?
なんとなく頼りない今のお父さんからは想像できない。
「それより、こんなところで喋ってて大丈夫なのか? 訓練は」
「終わったよ。今ライラック号を戻しに来たとこ」
「ああ、そうか。今日の訓練は午前中だけだったな」
「誰かさんがデートに行ったせいで、ちょっと時間過ぎちゃったけどね」
「悪かったって。埋め合わせするから」
お父さんがサディアスさんの引く馬を撫でる。
馬も嬉しそうにお父さんに首を摺り寄せた。
「こいつがお父さんたちと一緒に旅したライラック号だ」
「優しい馬だから怖くないよ。アリシアちゃん、触ってごらん」
サディアスさんに言われて、そっとライラック号に手を伸ばす。
あったかくて、引き締まった硬い身体。
「こんにちは、ライラック号」
ライラック号は丸い瞳で私を見た。
穏やかそうだけど、この子もお父さんたちと一緒に魔王を倒しに行ったのか。
人も馬も、見た目じゃわからない。
「アリシアちゃんも今度ライラック号に乗ってみる?」
「え、でも私お馬さん乗ったことない」
「大丈夫大丈夫。乗馬が下手な誰かさんでも乗れたんだから、アリシアちゃんなら簡単に乗れちゃうよ」
「おい」
お父さんのツッコミを受け流し、サディアスさんはライラック号を厩舎の中に連れて行った。
26
あなたにおすすめの小説
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる